●平成16(ワ)10584 特許権 民事訴訟「頭髪処理促進装置事件」大阪

  本日は、『平成16(ワ)10584 特許権 民事訴訟「頭髪処理促進装置事件」平成17年09月26日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/368534F5BF2D43384925710E002B12D5.pdf)についてご紹介します。


 本件は、昨日紹介した最高裁の「単独型ガス燃焼窯による燻し瓦の製造法事件」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070314113047.pdf)を引用はしていませんが、特許発明の技術的範囲を解釈する際、同様に、明細書に記載された発明の効果を参酌して特許請求の範囲の用語である「半円形状」の範囲を判示して、原告の請求が認容された地裁事件です。


 つまり、大阪地裁は、


『 2 争点(1)(技術的範囲への属否)について

  (1) 構成要件B及びCについて

   ア 構成要件B及びCの構成によって奏されるべき効果は、前記1で検討したところに照らせば、構成要件Bのとおり構成された発熱装置を構成要件Cのとおり往復回動させて被施術者の頭髪を加熱することによって、動作時の必要空間を小さくするとともに、被施術者の頭髪を均一にムラなく加熱することにあると認められる。

     これらの効果のうち、前者の効果を奏するためには、発熱装置自体が半円形状である必要があり、また、後者の効果を奏するためには、ヒータ部分が半円形状である必要があるから、構成要件Bにおいて半円形状に構成されるべきは、ヒータ及び発熱装置の双方であると解される。


     ところで、このような構成要件B及びCの構成によって奏されるべき効果に鑑みれば、構成要件Bでいう「半円形状」のヒータ及び発熱装置とは、中心角が180度の「完全な」半円弧状のもののみを指すものではなく、これとほぼ同一で、上記効果を奏することができるようなものであれば、わずかに中心角が180度に満たないものや、部位ごとにわずかに半径が異なるものといった、略半円弧状のものも含むものと解すべきである。


     すなわち、本件発明は、人間の頭髪に向かって赤外線等を照射して加熱するための装置に関するものである(前記1(2)ア)ところ、人間の頭髪自体、頭部のうち完全な半球状の部分に均一に存在するなどといったものではないうえ、被施術者が、施術に要する時間中、頭部を完全に固定し続けることが期待できないことは自明である。そして、このように、加熱の対象(施術中の被施術者の頭髪)が完全な半球状ではないため、ヒータの半円弧状をどれだけ「完全な」ものにしても、厳密な意味で被施術者の頭髪を均一にムラなく加熱することは原理的にも実際的にも不可能であって、そうである以上、ヒータの形状については、半円弧状が「完全」か否かということには意味が存在しないこともまた自明だからである。


     また、発熱装置の形状についていえば、動作時の必要空間を小さくする目的は、上記及び前記1で検討したとおり理美容室における施術者の作業性の向上であるから、これもまた、「完全な」半円弧状でなければならないものではないからである。


     したがって、構成要件Bでいう「半円形状」とは、上記のとおり、完全な半円弧状に限らず、これとほぼ同一で、上記効果を奏するような略半円弧状を含むものと解するのが相当である。


     そして、このような略半円弧状のうち、中心角がわずかに180度に満たない発熱装置をもって構成し、かつ、その現実の端部の一方又はその付近が回動軸と接続しているときには、回動軸を0としたときの発熱装置の中心角も180度にわずかに満たないものとなるのであるから、上記の構成要件B及びCによって奏されるべき効果に照らせば、回動軸と発熱装置との接続点と、他方の端部を回動軸を0として中心角が180度に達するまで延長したと仮想したときに達する点とを結ぶ直線(すなわち、回動軸の延長線)をもって、構成要件Cにいう、発熱装置の半円形状の弦に相当する直線であるということができる。

   イ 以上を前提としてイ号物件を見るに、イ号物件において、発熱装置に相当するヒータフレーム及びヒータについて、回動軸(支持軸)を0とした、弧の中心からそれぞれの先端までの角度は、少なくとも、ヒータフレームは173.4度以上、ヒータは170.9度以上であることは当事者間に争いがない。

     そうすると、イ号物件のヒータフレーム及びヒータについて、中心角180度の完全な半円弧との中心角の差は、それぞれ6.6度以下と9.1度以下となる。

     そして、被告の主張及び乙第7号証によっても、イ号物件において、回動軸に接続されていない側のヒータの端部と、回動軸の延長線との距離は、3.8センチメートルにすぎない。

     ここで、この程度の差が存在することによって、上記アで述べたとおりの構成要件B及びCによって奏されるべき効果が生じなくなるものとは考えられない。

     また、被告は、イ号物件のヒータフレーム及びヒータは、部位毎に半径が異なるいびつな曲線形状であると主張する。しかし、甲第13号証及び乙第5ないし第7号証によれば、イ号物件のヒータフレーム及びヒータの形状は、仮にこれが正確な円弧を描いたものでないとしても、略半円弧状であると認めることができ、上記アで述べたとおりの構成要件B及びCによって奏されるべき効果が生じなくなる程度にまでいびつな曲線形状になっていると認めることはできない。

     以上のとおりであるから、イ号物件のヒータ及びヒータフレームの形状は、上記アで検討したところの構成要件Bにいう「半円形状」であると認めるべきものであり、したがって、イ号物件は構成要件Bを充足するということができる。

     そして、イ号物件のヒータフレームについて、その一方の端部付近が回動軸に接続されており、回動軸を0としたときの発熱装置の中心角も180度にわずかに満たないものとなることは上記述べたところ及び乙第5ないし第7号証によって認めることができるところ、発熱装置の半円形状の弦に相当する直線は上記アのとおり解することができるから、イ号物件は構成要件Cも充足するということができる。

     被告が争点(1)〔被告の主張〕イ及びウで主張するところは、上記述べところに照らして採用することができない。

  (2) イ号物件が従来技術に属するとの被告の主張(争点(1)〔被告の主張〕エ)について

    被告は、原告の本件無効審判請求事件における主張を根拠として、イ号物件が、原告が従来技術であるとした「中心回動方式」に属すると主張する。

    しかしながら、原告が本件無効審判請求事件において従来技術であると主張するところの「中心回動方式」とは、半円弧状あるいは略半円弧状の発熱装置が、その半円形状の弦に相当する直線を中心とするのではなく、その円弧上の中央付近の点において円弧と略垂直に交わる直線を中心として、回動する方式を意味していることは、本件無効審判請求事件の答弁書(乙第23号証の一部)の6頁以下に、上記審判請求事件の甲第1号証記載の発明についての記述として、「甲第1号証の発明は、請求人の主張(審判請求書第19頁4〜6行)に従えば、『C1:送風管2を該送風管2の半円形状の円周方向中央位置(頂点位置)から半円の径方向中心に向かう直線を回動の軸として、往復回動させる駆動手段を備えた、ことを特徴とする頭髪処理装置』(以下、中心回動方式という)を開示するものである。」、「この中心回動方式によれば、発熱装置を、頭頂部付近を中心にヘリコプターの羽根のようにグルグルと回動させるものである。」と記載されていること及び上記審判請求事件の甲第1号証(乙第14号証の一部)の記載から明らかである。

    したがって、イ号物件が、原告が本件無効審判請求事件において従来技術であるとした「中心回動方式」に属するとの被告の主張は、理由がないことが明らかである。

  (3) イ号物件が、原告が無効審判請求事件で主張した本件発明の作用効果を奏しないとの被告の主張(争点(1)〔被告の主張〕オ)について

    被告は、原告の本件無効審判請求事件における主張を根拠として、イ号物件は、原告が本件発明の作用効果として主張した作用効果を奏しないと主張する。

    しかしながら、被告が援用する、本件無効審判請求における原告の主張とは、「従来技術は、発熱装置の回動範囲を全周(360度)をカバーできる範囲よりも小さくすると、非加熱領域が頭部の縦に(頂部から下端まで)生じてしまい、頭髪処理促進装置として致命的な欠陥を露呈する」のに対し、「本件発明は、非加熱領域が頭部の縦に生じることがないため、このような致命的な欠陥が生じることがない」との主張(以下「主張?」という。)と、「頭髪処理においては、最も加熱が必要となる部位が下端周縁(うなじ又は側頭部分)であることを前提として、本件発明の場合、動作軌跡範囲の両端部(うなじ又は側頭部分)が強く加熱されることから、うなじ又は側頭部分が強く加熱されない従来技術に比べて有利な作用効果を奏する」との主張(以下「主張?」という。)である。

    これをイ号物件についてみるに、甲第3号証及び乙第12号証によれば、被告が主張する非加熱領域(それがどの程度のものかはともかくとして)が生じる端部は、被施術者の前頭部に相当するものと認められる。

    ところで、被告が援用する原告の上記主張?においては、致命的欠陥として生じる非加熱領域は、「頭部の縦に(頂部から下端まで)」生じるものであるから、被告が主張する非加熱領域が被施術者の前頭部に生じるからといって、イ号物件において、上記の致命的欠陥を生じさせないという作用効果を奏することができなくなるという関係に立たないことは、自ずから明らかである。

    また、被告が援用する原告の上記主張?においては、「最も加熱が必要となる部位」は「下端周縁(うなじ又は側頭部分)」であり、本件発明において「強く加熱される」部位は「動作軌跡範囲の両端部(うなじ又は側頭部分)」であるというのであるから、仮に、被告が主張するような非加熱領域が被施術者の前頭部に生じるとしても、イ号物件において、上記の強く加熱されるべき部位が強く加熱されるという作用効果を奏することができなくなるという関係には立たないことも、当然に明らかである。

    したがって、被告の上記主張は理由のないものである。

  (4) 以上のとおり、イ号物件は本件発明の構成要件をいずれも充足し、また、イ号物件が従来技術に属するとか、本件発明の作用効果を奏しないといった被告の主張にも理由がないから、イ号物件は本件発明の技術的範囲に属するものと認められる。   』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。