●平成17(ワ)12207 特許権侵害差止等請求事件「ゴーグル事件」(1)

   本日は、『平成17(ワ)12207 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「ゴーグル事件」平成19年04月19日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070426094042.pdf)について、紹介します。


 本件は、特許権侵害差止等請求が認容された事案です。判決文等が158頁もあり、また多数の争点があるので、今日はまず、親出願で請求項を削除したことが、出願経過の参酌ないしは禁反言により分割出願の権利解釈に影響を与えるかの争点についての判示について取上げます。


 まず、この争点1−15(出願経過禁反言の法理の適用の有無)に関し、被告の主張は、

「(1) 原告は,平成14年12月24日提出の手続補正書(乙18の3)において,請求項4ないし7が引用例1及び引用例2に記載された公知技術に基づいて当業者が容易に推考できるものであることを明確に自認した上で,特許請求の範囲から請求項4ないし7を削除し,請求項1,請求項2及び請求項3についてだけ,出願を維持し特許を受けた経緯がある。


 してみれば,本件親出願から分割された本件各特許発明についても,本件親出願の特許請求の範囲の上記請求項4ないし7に記載されていた技術事項は,原告自身が進歩性を欠いたものとして当該技術的範囲から意識的に除外したものといえる。


(2) 分割出願に係る特許である本件特許の請求項1ないし5に記載された本件各特許発明の技術的範囲から除外された技術事項は以下のとおりであり,原告は,本件各特許発明の技術的範囲から,これらの技術事項を除外したのである。」

というものです。



 一方、原告の主張は、

「原告は,意見書(乙18の9)において,拒絶理由通知(乙18の8)の対象となった請求項4ないし7を削除することにより,本件親出願の拒絶理由が解消するという当たり前のことを述べただけであり,特定の構成要件の解釈を述べたわけでもなければ,本件訴訟において審査段階で述べた意見と異なった張を行っているわけでもない。むしろ,原告は,本件親出願についても,本件分割出願についても,本件各特許発明の進歩性を積極的に主張することによって特許査定を受けたものである。また,本件親出願の請求項4ないし7は本件各特許発明とは内容が異なるものでもあり,当該請求項の削除は本件各特許発明の技術的範囲の解釈とは全く無関係である。  」

というものです。



 そして、大阪地裁は、争点1−15(出願経過禁反言の法理の適用の有無)について、

『なお,被告は,出願経過禁反言の法理により,削除された請求項に係る技術事項は本件特許発明の技術的範囲から除外されたものであると主張する。

 前記前提事実(7)のとおり,原告は,平成14年8月30日に本件分割出願をした後,平成17年9月30日,本件親出願について拒絶理由通知を受け,本件親出願の特許請求の範囲請求項4ないし7については特許法29条2項により特許を受けることができないと記載されていたため,同年11月9日提出の手続補正書において同各請求項を削除し,平成18年1月6日に本件親出願について特許権の設定登録を受けたものである。


 このように,上記補正は,本件親出願に関するものであって,本件分割出願に係る本件各特許発明についてではない。そして,本件親出願の特許請求の範囲請求項4ないし7が本件各特許発明と同一であると認められないことは,前記のとおりであるから,原告が本件親出願の特許請求の範囲請求項4ないし7を削除したことにより,原告が本件各特許発明を意識的に除外したものとはいえないというべきである。

 よって,この点に関する被告の主張は採用できない。   』


 と判示されました。


  なお、上記判示事項からすると、親出願において特許法第29条第2項等の拒絶理由を指摘された請求項を削除し、その請求項をそのまま分割出願の請求項にして特許になった場合に(この場合、たいていは再度、特許法第29条第2項の拒絶理由が来て請求項を補正なしで特許になる場合は少ないものと思いますが、意見書のみで補正せずに特許になる場合もまれにあると思います。)、意識的除外による禁反言が働く可能性が出てくるのか、少し気になります。


追伸;<気になった記事>

●『米Fairchild社,台湾Alpha & Omega Semiconductor社を特許侵害で提訴』http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070522/132898/
●『日米両特許庁、「特許審査ハイウェイ」PCT出願も対象に(日刊工業新聞)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=1405
●『マイクロハード、日鉱金属との特許訴訟和解 』http://www.nikkei.co.jp/news/retto/20070521c3b2104n21.html
●『「Linuxベンダーを訴えるつもりはない」――マイクロソフト幹部が明言』http://www.computerworld.jp/topics/osst/65078.html
●『米商務省・特許商標庁、特許改革法案に関し下院知財小委員長に書簡〜先願主義移行は時期尚早、全件公開制度導入には躊躇との見解〜』(JETRO)http://www.jetro.go.jp/biz/world/n_america/us/ip/news/pdf/070518.pdf
●『戦略的な知的財産管理に向けて−技術経営力を高めるために−<知財戦略事例集>』(特許庁)
http://www.jpo.go.jp/torikumi/hiroba/chiteki_keieiryoku.htm