●平成18(行ケ)10348 審決取消請求事件 使い捨てパンツの折り畳み

 今日は、『平成18(行ケ)10348 審決取消請求事件 実用新案権 行政訴訟「使い捨てパンツの折り畳み構造」平成19年03月14日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070314164540.pdf)について紹介します。


  本件は、実用新案登録出願を特許出願に変更した「使い捨てパンツの折り畳み構造」の発明の進歩性違反の拒絶の審決の取消しを求めた審決訴訟で、原告の請求が棄却された事案です。


本件では、進歩性の判断や、周知技術を示す文献として審判において新たな文献を引用した点の適法性等について、参考になるかと思います。



 つまり、知財高裁(第3部 飯村敏明裁判長裁判官)は、

『1 はじめに(本願補正発明の特徴的な部分)

 本願の明細書(甲5)には,本願補正発明は,従来の使い捨てパンツにおいては側方部を折り返すだけであったため,1個の大きさが大きな大人用の使い捨てパンツをコンパクトできれいに包装袋へ収納することが不可能であり,収納の際のハンドリングが不都合であるという問題点があったので,この問題点を解決課題として,パンツの両側方部を折り返すことに加えて,パンツの上部と下部を折り畳むという構成を採用したことが記載されている(段落【0002】ないし段落【0008】)。


 そうすると,本願補正発明の特徴的な部分は,パンツの左右両側部を折り返すことに加えてパンツの上部と下部を折り畳む点にあるが,この点に係る技術思想(コンパクト化などの目的で2回折り畳むという技術思想)は,単に当業者における技術常識に照らして容易想到であるのみならず,健全な社会通念に照らしてみても容易に着想でき,その技術的思想の創作性の程度は高いものとはいえない。


 原告は,本願補正発明と引用発明1との対比及び相違点に係る容易想到性の有無を判断した審決の論理過程に誤りがあるとして,そのそれぞれを独立の取消事由として構成する。しかし,上述した本願補正発明の特徴的な部分及び原告の主張する取消事由の具体的な内容に照らすならば,本願補正発明における課題解決が容易想到であるとした審決の判断の当否に影響を及ぼすに足りる主張としては,取消事由3(パンツの左右両側部を折り返すことに加えて,上部と下部とを折り畳む構成を採用した点が容易想到か否か)の存否のみであるというべきであって,その余の取消事由(例えば,本願補正発明と引用発明1の各部分の機能上の相違に係る誤りなど)は,およそ審決の判断の当否に影響を及ぼすものとはいえない。


 そこで,取消事由3について先に判断し,その他の取消事由については念のため判断することとする。



2 取消事由3(相違点2の容易想到性の判断の誤り)について

(1) 審決が,引用発明1においてもコンパクト化ということを目的として左右両側方部を折り返すものであるから,さらなるコンパクト化を図る目的で,さらにパンツ上部とパンツ下部とが重ね合わされた状態で折り畳むようにして,本願補正発明の構成を採用することは,引用発明2(パンツ型ではない使い捨てのおむつにおいて,コンパクト化のため,適宜所望回数前後方向に折り畳む発明)及び周知技術(使い捨てではないもののパンツをパンツ上部とパンツ下部とが重ね合わされた状態で折り畳む技術)を適用することによって容易に想到し得たとした判断の誤りの有無について検討する。


ア 引用刊行物1(甲1)によれば,同刊行物記載の使い捨てパンツは,不織布からなるトップシートと不透液性シート製の防漏シートを含む積層シートからなるバックシート及び尿等の液体を吸収する吸収体から構成され,その構成,形状,素材及び用途等からみて,折り畳むことに支障はない。


 また,引用刊行物2(甲2)には,「本発明の紙おむつでは,ポリエチレン等からなる不透液性シ一ト1と,不織布等からなる前記不透液性シ一ト1より幅が狭い透液性シ一ト2との間に,綿状パルプ等からなる,たとえば砂時計形のある程度剛性を有する吸収体3が介在されている。」(2頁右上欄19行〜左下欄4行),「かかる紙おむつにおいて,折り畳みは,まず第3図のように,製品の両側における前後方向折り線Y,Yを境として両側部を内側に折り畳み,その後,第4図のように,製品の前後における横断方向折り線X,Xを境として両端部内側に折り畳むことにより行われる。」(2頁左下欄12行〜17行)と記載されており,紙おむつは,不透液性シ一ト1と,不織布等からなる透液性シ一ト2及び吸収体3から構成されており,その構成,形状,素材及び用途等からみて,折り畳むことに支障はない。


イ 以上のとおり,引用刊行物1に記載された使い捨てパンツと引用刊行物2に記載された紙おむつは,いずれも,人体の腰部に着用する点で共通の用途を有し,不透液製シートと不織布からなる透液性シートの材料及び尿を吸収する吸収体からなる点で共通の構成を有し,折り畳むことも容易であるから,コンパクト化などを目的として,適宜所望回数前後方向に折り畳むとの着想を得ることは,引用刊行物1と引用刊行物2に基づいて容易である。そして,使い捨てではない通常の布製のパンツについて,パンツ上部とパンツ下部とが重ね合わされた状態で折り畳むことは,周知である(例えば,甲4)。


 そうすると,引用発明1は,コンパクト化を目的として左右両側方部を折り返すものであるから,さらにコンパクト化を図るために,引用刊行物1において,パンツ上部とパンツ下部とが重ね合わされるように折り畳むことは,当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。


(2) これに対し原告は,引用刊行物2は,「括れ部に係る技術」と「前後方向に2つ折り以上に折り畳む技術」とが一体不可分の技術として記載されているため,使い捨てパンツにおいて,更にコンパクト化を図る目的で,引用刊行物2の技術を適用することには阻害要因があると主張する。


 しかし,原告の上記主張は,以下のとおり理由がない。


 引用刊行物2(甲2)には「しかし,その折り畳み後,紙おむつの両端部を内側に折り畳むと,その折り畳み線の両端において,吸収体が4層になり,嵩高となるばかりでなく,折り畳み後の形状安定性が悪い」(2頁左上欄3〜6行),「〔課題を解決するための手段〕上記課題は,不透液性シートと透液性シートとの間に吸収体を内包し,少なくとも前後方向に少なくとも一個所折り畳んで販売に供される紙おむつにおいて,前記折り畳み個所位置の吸収体の両側縁に内方に括れる括れ部を形成したことで解決できる。」(2頁左上欄15行〜右上欄1行)と記載されているが,同記載によれば,「括れ部」は,紙おむつが嵩高になり形状安定性が悪化するのを避けつつ,コンパクトなものとするための手段の一つにすぎないのであるから,嵩高や形状安定性の悪化防止を配慮する必要のない場合であれば,「括れ部」を設けることなく,複数回折り畳むとの手段を採ることが考えられる。以上のとおり,吸収体に「括れ部」が設けられていない引用発明1の使い捨てパンツに,さらにコンパクト化を図るために,引用刊行物2の技術を適用することは,困難とはいえない。原告の上記主張は採用することはできない。


(3) したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。


・・・


5 取消事由4(手続違背)について

 原告は,審決は,本願補正発明が容易想到であるとした周知技術の内容及び周知例の引用文献が,拒絶査定と異なっており,この点は,新たな拒絶理由に該当すると解され,本件審判において,出願人である原告に対し,上記の新たな拒絶理由を通知し,反論及び補正の機会を与えるべきであったにもかかわらず,その手続を行っていない点で,本件審判手続には,特許法159条2項において準用する同法50条に違反する手続違背があると主張する。


 しかし,審決の上記認定部分は,周知技術として本願の出願当時の技術水準を示したものであり,特段の事情のない限り,特許法159条2項において準用する同法50条の適用はないというべきところ,本件においては特段の事情は認められない。したがって,原告の上記主張は採用することができず,取消事由4も理由がない。


6 結論

 以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。  』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。



追伸;<気になった記事>

●『マイクロソフト富士ゼロックスと特許のクロスライセンス契約を締結』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070322-00000027-rbb-sci
●『マイクロソフト富士ゼロックス、特許でクロスライセンスを締結』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070322-00000012-cnet-sci
●『マイクロソフト富士ゼロックス、特許でクロスライセンスを締結』http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20345602,00.htm
●『米マイクロソフト富士ゼロックス、特許クロスライセンス契約を締結』http://www.yomiuri.co.jp/net/cnet/20070322nt16.htm
●『富士ゼロックスと米マイクロソフト、特許のクロスライセンス契約締結』http://jp.ibtimes.com/article/company/070322/5505.html
●『2007/03/22-13:03 米マイクロソフト富士ゼロックス、開発力強化へ、特許を相互利用』http://www.jiji.com/jc/c?g=ind_30&k=2007032200511

●『WSJ-クアルコム、EV−DO携帯電話機の米輸入禁止要求に反論』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070322-00000019-dwj-biz
●『MP3特許侵害訴訟でMicrosoftに不利な判決 』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070322/266024/?ST=win

●『海賊版DVD探知犬 マレーシアで大手柄 100万枚押収』http://www.business-i.jp/news/world-page/news/200703220027a.nwc
●『映像コンテンツの二次利用への環境整備を--経団連ガイドライン策定で提言』http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20345513,00.htm
●『Yahoo! オークション、海賊版ビジネスソフトの出品点数が96%減少』http://japan.internet.com/busnews/20070322/3.html
●『今後のYouTubeとの協議方針をJASRAC渡辺氏に聞く 著作権権利者団体・事業者、3月中にYouTubeに要望書を提出へ』
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/special/2007/03/22/15147.html


●『「意匠審査基準の改正案」に寄せられた御意見及び「意匠審査基準の改正」について』
http://www.jpo.go.jp/iken/iken_d_kizyun2.htm

●『松下、ソニーら、IPTV関連技術の標準化を目指す業界団体設立』http://news.braina.com/2007/0322/move_20070322_001____.html