●平成18(行ケ)10166 審決取消請求事件 特許権 多重音声通信やデ

 今日は、本日公表された『平成18(行ケ)10166 審決取消請求事件 特許権 「多重音声通信やデータ通信を複数チャンネルにより同時に行う無線通信システム」 平成19年02月14日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070215144031.pdf)について取上げます。


 本件は、拒絶審決に対する取消しを求めた審決取消し訴訟で、原告の請求が棄却された事案です。


 特許出願日から20年を経過しても、特許法65条1項の規定による補償金請求権の請求権の行使に必要な特許権の設定の登録を受けるため本訴における訴えの利益を有することを認めた点と、特許請求の範囲の記載が明細書の多岐にわたる記載箇所を参酌・総合して初めて理解できるようなものは旧特許法36条3項,4項の要件を満たすものとはいえないことを判示した点で、参考になる判決であると思います。



 つまり、知財高裁(第3部 三村量一裁判長裁判官)は、まず、


『1 訴えの利益について

 本願が平成15年8月29日に出願公開されたことは当事者間に争いがなく,また,平成18年2月26日をもって原出願の出願日から20年が経過したことは当裁判所に顕著である。しかしながら,本願に関する権利存続期間が満了したとしても,原告は,特許法65条1項の規定による請求権の行使に必要な特許権の設定の登録を受けるため,本願につき実体審査を受ける利益を有するから,本訴における訴えの利益を有するものと認められる。            』


と判示しました。


 次に、

『2 取消事由1(理由(1)の認定判断の誤り)について、

  原告は,本願が特許法36条3項,4項に規定する要件を満たさないとした審決の理由(1)の認定判断が誤りである旨主張するので,検討する。

(1)ア 審決は,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1における「一つの無線通信システム内で全部が互いに同期しているフレームの各々を同様に全部が互いに同期していて互いに相続く一つの群でそれぞれ画定する一連の繰返し時間スロットにそれぞれ分割された順方向チャンネルおよび逆方向チャンネルであって」との記載について,(i)「一つの無線通信システム内で全部が互いに同期しているフレーム」とあるが,順方向の送信フレーム,順方向の受信フレーム,逆方向の送信フレーム,逆方向の受信フレームのすべてが同期しているといったことは明細書に説明されていない,(ii)「……フレームの各々を同様に全部が互いに同期していて互いに相続く一つの群でそれぞれ画定する一連の繰返し時間スロットにそれぞれ分割された……」とあるが,「互いに相続く一つの群」,「それぞれ確定する」,「一連の繰り返し時間スロット」,「それぞれ画定する一連の繰り返しスロット」とはどういうことか内容不明確であるなどと認定判断した。


イ これに対し,原告は,「一つの無線通信システム内で全部が互いに同期しているフレームの各々を同様に全部が互いに同期していて互いに相続く一つの群でそれぞれ画定する一連の繰返し時間スロットにそれぞれ分割された順方向チャンネルおよび逆方向チャンネル」との文言は,(i)順方向チャンネル及び逆方向チャンネルの各々が両者間で互いに同期している複数のフレームをそれぞれ含む,(ii)それら複数のフレームの各々は,互いに相続く一群の繰り返しスロットにそれぞれ分割されており,順方向チャンネルと逆方向チャンネルとの間でそれら繰り返しスロットは互いに同期している,という意味である旨主張する。


(2)ア 原告の上記(1)イの主張は,基地局において,順方向周波数チャンネルと逆方向チャンネルとの間のフレーム相互間の同期及びスロット相互間の同期が達成されていることを前提とするものであるが,請求項1の「一つの無線通信システム内で全部が互いに同期しているフレームの各々を同様に全部が互いに同期していて互いに相続く一つの群でそれぞれ画定する一連の繰返し時間スロットにそれぞれ分割された順方向チャンネルおよび逆方向チャンネルであって」との記載から,そのような前提を読み取ることはできない。


イ 原告は,本願明細書(甲8)の発明の詳細な説明の記載から,(i)システム内のすべての加入者局の周波数,シンボル・タイミング及びフレーム・タイミングが基地局マスタ・タイミング・ベースに同期させていること,(ii)基地局内の複数の周波数チャンネルはすべて同一の時間基準を用いていること,(iii)基地局内の受信タイミングと基地局の送信タイミングが同一であること,(iv)加入者局は自局の位置に起因する伝送往復遅延を相殺するための最小時間だけ自局から基地局への送信タイミングを進め,これによって,複数の加入者局からの基地局受信信号が基地局時間基準に正しく合致するようになされていること,(v)加入者局・基地局間距離変動追跡のための「精密調整」がなされていることが理解できるとし,これらの記載内容を参酌すれば,請求項1の前記記載の意味は明確である旨主張する。


 しかし,請求項1における他の構成をみても,加入者局が,自局の位置に起因する伝送往復遅延を相殺するための最小時間だけ自局から基地局への送信タイミングを進め,これによって,複数の加入者局からの基地局受信信号が基地局時間基準に正しく合致するようになされていること等を示唆する記載はなく,そのような理解の手掛かりとなる記載もない。


ウ 要するに,原告は,特許請求の範囲に記載も示唆もない事項について,本願明細書の発明の詳細な説明における記載内容を,発明の構成として読み込むことを主張するものであり,採用することができない。


エ 上記アないしウのほか,請求項1の「一つの無線通信システム内で全部が互いに同期しているフレームの各々を同様に全部が互いに同期していて互いに相続く一つの群でそれぞれ画定する一連の繰返し時間スロットにそれぞれ分割された順方向チャンネルおよび逆方向チャンネル」との記載から,(i)順方向チャンネル及び逆方向チャンネルの各々が両者間で互いに同期している複数のフレームをそれぞれ含む,(ii)それら複数のフレームの各々は,互いに相続く一群の繰り返しスロットにそれぞれ分割されており,順方向チャンネルと逆方向チャンネルとの間でそれら繰り返しスロットは互いに同期している,との理解が当然に導けるとする積極的理由(例えば,時間スロットに分割された順方向チャンネルと逆方向チャンネルを有する無線通信システムでは,基地局において,順方向周波数チャンネルと逆方向チャンネルとの間のフレーム相互間の同期およびスロット相互間の同期が達成されていることが周知であり,請求項1においても当然の前提とされていることが当業者にとって明らかである,といった事情)は,本件記録を検討してもこれを見いだすことができない。


(3) そうすると,請求項1における「一つの無線通信システム内で全部が互いに同期しているフレームの各々を同様に全部が互いに同期していて互いに相続く一つの群でそれぞれ画定する一連の繰返し時間スロットにそれぞれ分割された順方向チャンネルおよび逆方向チャンネルであって」との記載の意味が明確であるとする原告の主張は理由がなく,この記載が不明りょうであるとした審決の認定判断は,本願明細書(甲13,8)の記載に照らし,これを是認することができる。


 付言するに,請求項1の「一つの無線通信システム内で全部が互いに同期しているフレームの各々を同様に全部が互いに同期していて互いに相続く一つの群でそれぞれ画定する一連の繰返し時間スロットにそれぞれ分割された順方向チャンネルおよび逆方向チャンネル」との記載が,(i)順方向チャンネル及び逆方向チャンネルの各々が両者間で互いに同期している複数のフレームをそれぞれ含むこと,(ii)それら複数のフレームの各々は,互いに相続く一群の繰り返しスロットにそれぞれ分割されており,順方向チャンネルと逆方向チャンネルとの間でそれら繰り返しスロットは互いに同期していること,を意味しているというのであれば,特許請求の範囲に直截に記載すべきである。


 特許請求の範囲の記載内容が,明細書の多岐にわたる記載箇所を参酌・総合して初めて理解できるようなものは,特許法36条3項,4項の要件を満たすものとはいえない。


 原告の上記主張によれば,請求項1の記載は,本来,簡明直截に記載できる内容をことさら不自然に表現したものであって,第三者の理解を妨げるものといわざるを得ない。


(4) 以上によれば,審決が記載不備として指摘したその余の点について検討するまでもなく,本願が特許法36条3項,4項に規定する要件を満たさないことは明らかである。したがって,本願を拒絶すべきであるとした審決の理由(1)の認定判断は,これを是認することができる。


3 結論

 上記検討したところによれば,「本件審判の請求は,成り立たない。」とした審決の結論は,審決の理由(2)の認定判断の当否を検討するまでもなく,これを是認することができる。よって,原告主張の取消事由2(理由(2)の認定判断の誤り)について検討するまでもなく,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。        』



 と判示されました。


 詳細は、上記判決文を参照してください。


 なお、特許法第65条の補償金請求権は、同条5項で準用する民法第724条の読み替えにより、当該請求権を有する者が特許権の設定の登録前に当該特許出願に係る発明の実施の事実及びその実施をした者を知ったときは、特許権設定の登録の日から3年間行使しないときに時効によって消滅します。



追伸;<本日公表された判決>

●『平成18(行ケ)10166 審決取消請求事件 特許権 「多重音声通信やデータ通信を複数チャンネルにより同時に行う無線通信システム」 平成19年02月14日 知的財産高等裁判所http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070215144031.pdf



追伸:<気になった記事>

●『紙おむつドレミ「特許権侵害」=王子ネピアに1億円賠償命令−東京地裁
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070215-00000235-jij-soci
●『紙おむつで王子ネピアの特許侵害認定』
http://www.nikkansports.com/general/f-gn-tp0-20070215-157120.html
●『紙おむつドレミ「特許権侵害」=王子ネピアに1億円賠償命令−東京地裁
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2007021501112

 ・・・本事件は、この日記の2/4に取り上げた『平成17(ワ)5863 損害賠償等請求事件特許権 「紙おむつ」平成19年01月30日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070202132415.pdf)の関連訴訟のようです。先の訴訟では、出願経過や発明の詳細な説明を参酌してイ号は請求の範囲に属さないと判断され、原告の請求は棄却されました。