●平成18(行ケ)10391 審決取消請求事件 商標権 DEGITEX safire

  本日は、『平成18(行ケ)10391 審決取消請求事件 商標権 DEGITEX safire 平成19年02月13日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070214163414.pdf)について取上げます。


 本件は、商標法4条1項第11号の拒絶審決に対する取消を求めた訴訟で、原告の請求は棄却されました。


 商標法4条1項第11号に関し新しい判断はありませんが、特許庁および知財高裁における結合商標に対する商標法4条1項第11号の類似判断の手法が参考になります。


 つまり、特許庁は、原告の主張に対し、

『審決の認定判断は正当であり,以下に述べるとおり,原告主張の取消事由は理由がない。

(1)外観,称呼,観念の類否についての主張に対し

 本願商標は,「DIGITEX」「safire」「Shimadzu Advanced Flat ImagingREceptor」の三つの欧文字部分から成るところ,各文字部分は,文字の大きさに顕著な差異を有し,かつ,文字種,書体を異にし,視覚的に分離して看取され得るものである。そして,その構成全体をもって特定の称呼,観念を生ずる等,これらが常に一体不可分のものとしてのみ把握されるとする特段の事情は見いだし得ない。また,「Shimadzu Advanced Flat ImagingREceptor」の文字部分は,注視しないと理解できない位に極めて小さく,かつ,付記的に記載されているものである。


 そうすると,本願商標の構成のうち,「DIGITEX」及び「safire」の各文字部分も独立して自他商品の識別標識としての機能を有するというべきであり,特に,中央に顕著に表された「safire」の文字部分に着目し,該文字部分をもって取引に資する場合も決して少なくないというべきである。


 また,「DIGITEX」及び「safire」の文字から生ずる「デジテックスサファイア」の称呼は,促音を含めると10音構成であり,比較的長い称呼である。加えて,「サファイア」の発音は宝石の「サファイア」を想起することから,上記称呼は,「デジテックス」と「サファイア」という2つの語から成るものと認識されるというべきである。


 そうすると,本願商標の構成中の「safire」の文字部分も自他商品の識別標識としての機能を有するものというべきである。


(2)出所混同のおそれに関する認定判断についての主張に対し原告は,本願商標は取引者・需要者間に広く知られるに至っているから,かかる取引の実情からして,商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれはないと主張する。


 しかし,原告の主張に係る取引の実情とは,本願商標の指定商品のうち一部の商品である循環器X線診断装置についての取引の実情にとどまるものであって,本願商標の広範な指定商品全般についての一般的,恒常的な取引の実情といい得るものでない。したがって,原告の主張は明らかに失当である。』

と反論しています。



 そして、知財高裁は、

『1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(本願の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。

 そこで,以下において,原告の主張する取消事由に即して審決の当否を判断する。


2 外観,称呼,観念の類否に関する審決の認定について

 原告は,審決が,本願商標の構成中の「safire」の文字部分から生ずる「サファイア」の称呼のみに着目して引用商標との類否判断を行ったことは誤りであると主張するが,以下のとおり,採用することができない。


(1) 本願商標は, 前記のとおり「DIGITEX」・「safire」・「ShimadzuAdvanced Flat Imaging REceptor」の三つの欧文字部分から成り,うち「DIGITEX」は左上方部に小さくゴシック風の書体で表したものであり,「safire」は中央部に大きく(4倍程度)イタリック風の書体で表したものであり,「Shimadzu Advanced Flat Imaging REceptor」は右下方部に極めて小さく(「safire」の「ire」の下にその3文字の範囲の大きさで)ゴシック風の書体で欧文字で表したものである。このように,本願商標の三つの欧文字部分は,文字の大きさに顕著な差異を有し,かつ,文字種,書体を異にし,視覚的に分離して看取され得るばかりでなく,その構成全体をもって特定の称呼・観念を生ずる等,これらが常に一体不可分のものとしてのみ把握されるとする特段の事情は見いだし得ないものである。


 そうすると,本願商標は,その構成中,極めて小さく表された「ShimadzuAdvanced Flat Imaging REceptor」の部分を除き,「DIGITEX」及び「safire」の文字部分が独立して自他商品の識別標識としての機能を発揮し得るものであると認められる。そして,「DIGITEX」及び「safire」の文字部分のうちでも,「safire」が本願商標の中央に配置され,文字の大きさも「DIGITEX」に比べてはるかに大きいことに照らすと,本願商標に接する取引者・需要者が「safire」の文字部分のみに着目し,該文字部分から生じる称呼等をもって取引に資する場合も決して少なくないというべきである。


 そして,「簡易,迅速をたっとぶ取引の実際においては,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は,常に必らずしもその構成部分全体の名称によって称呼,観念されず,しばしば,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,一個の商標から二つ以上の称呼,観念の生ずることがあるのは,経験則の教えるところである」ところ(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁),本願商標に接する取引者・需要者が,その構成中,視覚的に分離され,かつ,本願商標の中央に顕著に表された「safire」の欧文字部分を捉えて,この部分から生ずる「サファイア」の称呼をもって取引に当たることは,取引の経験則に照らして極めて自然なことである。


 したがって,審決が本願商標と引用商標との類否判断をするに当たり,本願商標から「サファイア」の称呼が生ずると認定し,当該称呼をもって引用商標との類否判断に供したことに誤りはない。


(2)原告は,審決が,文字部分全体を一連のものとして発音した「デジテックスサファイア」が冗長であることを,本願商標から生ずる称呼が「サファイア」であるとの認定の理由としたのは誤りであると主張する。


 しかし,「デジテックスサファイア」という9音節(促音も含めれば10音節)の称呼が冗長でないということはできない上,本願商標においては,その構成上「DIGITEX」と「safire」の文字部分が上記(1)のとおり視覚的に分離されており,しかも「サファイア」が宝石の名称として一般に知られていることに照らすと,あえて「デジテックスサファイア」を一連に発音するよりも,これを「デジテックス」と「サファイア」とに分離して発音する方が,はるかに自然である。したがって,審決の上記認定に誤りはない。


(3)原告は,審決が「safire」の文字部分にのみ着目しているのは,審査段階の拒絶理由通知(甲4)において,「DIGITEX」の文字から成る登録商標第841243号(商公昭44−19203号。甲5)が引用商標とされているのと矛盾すると主張する。


 しかし,上記(1)のとおりの本願商標の構成に照らすと,本願商標からは,審決が認定した「サファイア」の称呼に加えて,「DIGITEX」の外観及び「デジテックス」の称呼も生じるということができる。そうすると,上記拒絶理由通知における拒絶の理由と,審決における理由とは,両立し得るものであって,何ら矛盾するものではない。


(4)原告は,「サファイア」の語は一般に知られた宝石の名称であってその識別力は弱く,本願商標の識別力は造語である「DIGITEX」に依存するから,審決が本願商標から「サファイア」の呼称のみを取り出して類否判断に供したのは誤りであると主張する。


 しかし,本願商標が宝飾品や装身具に用いられる場合には,宝石の一般名称である「サファイア」は識別力が弱いということもできようが,本願商標の指定商品は前記のとおり「医療用X線撮影装置,医療用機械器具,おしゃぶり」等なのであるから,これらの商品に用いられる場合において,本願商標の構成のうち「safire」の部分の識別力が格別弱いということはできない。よって,原告の主張は前提において理由がない。


(5)原告は,本願商標と引用商標が外観において相違し,観念において比較できないことを主張するが,これらの点を考慮しても,「サファイア」の称呼を共通にすることから両商標は類似するとした審決の認定が左右されるものではない。


3 出所混同のおそれに関する審決の認定判断について

(1)商標の類否は,対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきである最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。


 原告は,取引の実情に照らせば,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれはないから,審決が本願商標と引用商標とは類似すると判断したのは誤りであると主張するが,指定商品を前記のとおり「医療用X線撮影装置,医療用機械器具,おしゃぶり」等とする本願については,以下のとおり,採用することができない。


(2)原告は,本願商標を付した商品である循環器X線撮影装置の広告宣伝の態様,販売の状況,新聞雑誌等での扱い等に関する事実を指摘し,本願商標は「DIGITEX safire」という一連のものとしてして取引者・需要者に把握され,原告の製造販売に係る当該装置を指すものとして周知となっていると主張する。


 しかし,前記最高裁判決にいう具体的な取引状況とは,指定商品全般についての一般的・恒常的なそれを指すものであって,単に当該商標が現在使用されている商品についてのみの特殊的・限定的なそれを指すものではないことは明らかであるところ,原告の主張する事情は,正に,本願商標の指定商品の一部の商品についての特殊的・限定的な取引の実情にとどまるものであって,本願商標の広範な指定商品全般についての一般的・恒常的な取引の実情ではない。したがって,原告の主張は採用することができない。


(3)原告は,指定商品の一般的な取引の実情という観点から考えても,本願商標の指定商品は取引者・需要者が慎重に検討の上で購入するものであるから,出所の混同を生じる可能性は著しく低いと主張する。しかし,本願商標及び引用商標に共通する指定商品である「医療用機械器具」について検討すると,原告の主張は採用することができない。


 すなわち,商標法施行規則6条別表によれば,第10類の「医療用機械器具」には「(一) 診断用機械器具」として「体温計」が含まれ,これは一般の消費者を対象にし,薬局やドラッグストア等でも取り扱われている日常生活に結びついた商品であるから,かかる商品に使用される商標に関する類否判断は,一般の消費者が通常有する注意力を基準としてなされるべきものである。また,需要者が医療従事者に限られる商品の中でも,「(三) 治療用機械器具」に属する「注射筒」「注射針」のように比較的安価な消耗品もあるから,必ずしもそのすべてが取引者・需要者において慎重に検討の上で購入するものであるということもできない。


(4)なお原告は,平成18年11月2日付けでなした本願からの前記分割出願(指定商品を第10類「医療用X線撮影装置」のみとするもの)の当否についても裁判所の判断を求めているが,その判断は,特許庁の審査・審判がなされた後で,かつ原告からの提訴を待って行うべきものである。


4 結語

 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,本願商標は商標法4条1項11号に該当するとした審決の認定判断に誤りはない。


 よって,原告の本訴請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 』

と判示されました。


詳細は、判決文を参照して下さい。



追伸;<新たに出された判決>

●『平成18(行ケ)10226 審決取消請求事件 特許権 吸収体製品の表面被覆シート  平成19年02月14日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070214154303.pdf
●『平成18(行ケ)10081 審決取消請求事件 特許権 多色LED照明装置 平成19年02月14日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070214154032.pdf
●『平成18(行ケ)10210等 審決取消請求事件 特許権 粒子,X線およびガンマ線量子のビーム制御装置  平成19年02月13日 知的財産高等裁判所』(一部認容判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070214163806.pdf
●『平成18(行ケ)10391 審決取消請求事件 商標権 DEGITEX,safire  平成19年02月13日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070214163414.pdf
●『平成18(行コ)10001 裁決取消等請求控訴事件 特許権 透析における廃液サンプル収集装置  平成19年02月13日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070214163025.pdf



追伸;<気になった記事>

●『アジア市場向けオンラインゲームで特許相互使用契約=カナダ2社〔BW〕』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070214-00000090-jij-biz
●『JASRAC、無許諾でCS再送信を続ける2社に間接強制申し立て−知財高裁判決を無視。「1日200万円の損害」』
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20070214/jasrac.htm
●『判決無視と間接強制求める ケーブル局に(JASRAC)』
http://www.tokyo-np.co.jp/flash/2007021401000712.html
●『判決無視と間接強制求める/ケーブル局に(JASRAC)』
http://www.shikoku-np.co.jp/national/social/article.aspx?id=20070214000428


●『松下、LGフィリップス株取得の可能性=韓国紙』
http://www.thinkit.co.jp/free/news/reuters/0702/14/3.html
●『液晶TVシェア、ソニーが初の年間首位 世界出荷金額』
http://www.asahi.com/digital/av/TKY200702130399.html
●『ファーウェイスリーコムジャパン、国内市場向け戦略発表会を開催』
http://ascii.jp/elem/000/000/017/17481/
●『NECなど3社、3G携帯インフラ分野で協業(日刊工業新聞)』
http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=825
●『ドコモ,ルネサス富士通三菱電機,シャープ,ソニエリが3Gケータイ用プラットフォーム共同開発』
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070208/127534/
●『Via Licensing Announces Joint Patent License for Interactive Television Services Using the DVB-MHP Standard 』
http://www.vialicensing.com/news/details.cfm?VIANEWS_ID=324
●「国際物流における電子タグの国際標準化」について
http://www.meti.go.jp/press/20070214003/denshitagu-p.r.pdf
●『「意匠審査基準の改正案」に対する意見募集』
http://www.jpo.go.jp/iken/iken_d_kizyun.htm