●平成17(行ケ)10523 審決取消請求事件 特許権 識別対象偏向装置

本日は、『平成17(行ケ)10523 審決取消請求事件 特許権 識別対象偏向装置 平成19年01月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070201105245.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許法第29条2項の進歩性なしの拒絶の審決の取消を求めた審決取消訴訟で、原告の請求が棄却された事案です。


 本件では、特許法第29条2項の拒絶の際、引用した引用発明と周知例とが発明の分野が異なるものの、その組み合わせにより本願発明の進歩性を否定することを認めた点で、参考になるものと思います。


 なお、本願の特許請求の範囲は、

「連続的に移動する識別対象を連続的に識別する識別部と,
 前記識別対象の識別後に前記識別部の識別速度に応じて識別対象を連続的に移動させる通路と,
 該通路の一側に連通する偏向路と,
 該偏向路に対向して前記通路の他側に設けられた開口に偏向板を備え前記識別部の識別信号に応じて前記偏向板を通路内に高速駆動により出没させ前記通路を移動する識別対象を前記偏向路へ向けてはじく偏向駆動部と,
 前記識別部の識別信号に応じて前記偏向駆動部を駆動制御する制御部とより
なることを特徴とする識別対象偏向装置。」

であります。


 そして、原告は、取消事由3(相違点2の判断の誤り)として、

『(1) 前記1のとおり,引用発明について「正貨ゲートの下方において,硬貨通路に連通してその一側に分岐する偽貨通路が設けられて」いるとの認定は誤りであるから,引用発明に周知技術を採用しても,偏向路と開口(偏向板)とを対向させ,偏向板により識別対象を偏向路へ向けてはじく構成を採ることはできず,審決の判断に誤りがある。

(2) 引用発明は「硬貨選別装置」に関するものであり,周知例の技術は「穀粒選別機」に関するものであるから,引用発明と周知例の技術とは,技術分野が異なる。また,引用発明は,正貨ゲート12の突出状態と没入状態との静的な状態を切り換えて識別対象である硬貨を振り分けるものであり,出没の運動エネルギーをはじくという衝突エネルギーに変換しているものではないのに対し,周知例の技術は,ソレノイドプランジャ52の突出の運動エネルギーを板バネ48へ衝突エネルギーとして伝え,衝突エネルギーによって運動する板バネ48を介して再選対象穀粒に衝突エネルギーを与え,はじく構成であって(周知例の段落【0027】),「出没」の技術的意義が全く異なるから,引用発明に周知例の技術を組み合わせることはできない。

(3) 周知例の技術は,穀粒のような軽量の識別対象であれば問題がないが,穀粒よりも重い硬貨(引用例)を高速駆動ではじく場合には,板バネ自体の弾性及び慣性により板バネとプランジャとに相反した動きを招く恐れがあり,他方では,この相反した動きを抑制するために板バネのバネ定数を大きくすると高速駆動ができなくなる恐れがあるから,引用例に周知例の技術を適用することには阻害事由がある。周知例の技術は,メダル等の重量のある識別対象を高速駆動により識別することには適さないし,偏向路と開口(偏向板)とを対向させ,偏向板により識別対象を偏向路へ向けてはじく構成を採ることもできない。したがって,引用発明に周知例の技術を採用しても,本願発明のような速い仕分けをすることに限界があり,審決の判断に誤りがある。』

と主張されました。


 これに対し、被告である特許庁は、取消事由3(相違点2の判断の誤り)について、

『(1) 原告らは,前記1(1)のとおり,引用発明の認定に誤りがあるから,引用発明に周知技術を採用しても,本願発明に至らないと主張するが,「正貨ゲートの下方において,硬貨通路に連通してその一側に分岐する偽貨通路が設けられており,」との認定に誤りはないから,この認定に基づいて相違点2を認定したことに誤りはない。

(2) 特許請求の範囲において,本願発明の識別対象がメダルであることを限定する記載も識別対象が重いものであることを示唆する記載もなく,さらに,識別対象が重いものであるために偏向板等に関して何らかの限定条件を付しているものでもない。識別対象の重量に関する原告らの主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであって,失当である。


 確かに,引用発明は「硬貨選別装置」であり,周知例として例示したものは「穀粒選別機」であるが,識別対象を直接押圧することにより偏向路に移動させることは,実願昭56−105693号(実開昭58−10882号)のマイクロフィルム(乙第3号証),特開平2−77610号公報(乙第4号証),特開昭64−38316号公報(乙第5号証)に示されるように,種々の分野において行われていることである。「識別対象を押圧する」という技術手段が識別対象の重量に関係なく実施されていることを勘案すれば,引用例と周知例の技術分野が異なること,識別対象の重量に差があることは,周知例における「識別対象をはじく」という技術手段を引用例に適用する際の阻害事由とはならない。また,識別対象の重量が異なる場合,はじく力(板バネの強さ)等をどの程度のものにするかは当業者の設計事項であって,その設計において格別な困難性があるとは認められないから,原告らの「高速駆動ができなくなる恐れがある」との主張は失当である。


(3) 本願発明において,識別対象がメダル等「重量のあるもの」との限定はなく,単に識別対象を偏向板によりはじくことが限定されているだけであるから,その限度において,作用効果は予測することができ,特許請求の範囲において何ら限定されていない識別対象の軽重は,作用効果の判断に影響するものではない。原告らの作用効果に関する主張も理由がなく,審決の判断に誤りはない。』

と反論されました。



 そして、知財高裁第3部(裁判長三村量一判事)は、

『3 取消事由3(相違点2の判断の誤り)について

(1) 原告らは,引用発明について「正貨ゲートの下方において,硬貨通路に連通してその一側に分岐する偽貨通路が設けられて」いるとの認定は誤りであるから,引用発明に周知技術を採用しても,偏向路と開口(偏向板)とを対向させ,偏向板により識別対象を偏向路へ向けてはじく構成を採ることはできないと主張する。


 引用発明の認定につき,一部に誤りがあるが,「硬貨通路に連通してその一側に分岐する偽貨通路が設けられて」いるとの認定に誤りはないから,この認定に基づいて,相違点2を認定したことに誤りはない。


(2) 原告らは,(i)引用発明と周知例の技術とは技術分野が異なり,また,「出没」の技術的意義が全く異なるから,引用発明に周知例の技術を組み合わせることはできない,(ii)周知の技術手段は,穀粒より重い引用例の硬貨を高速駆動ではじく場合は,板バネ自体の弾性及び慣性により板バネとプランジャとに相反した動きを招く恐れがあり,かつ,この相反した動きを抑制するために板バネのバネ定数を大きくすると高速駆動ができなくなる恐れがあるから,引用例に周知例を適用することには阻害事由がある,と主張する。


 しかし,特許請求の範囲において,本願発明の識別対象がメダルであることを限定する記載はなく,識別対象が重いものであることを示唆する記載もなく,さらに,識別対象が重いものであるために偏向板等に関して何らかの限定条件を付しているものでもないから,識別対象の重量に関する原告らの主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。


 引用発明は「硬貨選別装置」であり,周知例として例示したものは「穀粒選別機」であるが,乙第3ないし第5号証によれば,識別対象を直接押圧することにより偏向路に移動させることは,種々の分野において行われていることが認められる。


 また,「識別対象を押圧する」という技術手段が識別対象の重量に関係なく実施されていることを勘案すれば,引用例と周知例の技術分野が異なること,識別対象の重量に差があることは,周知例における「識別対象をはじく」という技術手段を引用例に適用する際の阻害事由にならない。また,識別対象の重量が異なるときに,はじく力(板バネの強さ)等を重量に応じたものにすることは,当業者の設計事項であって,格別な困難性があるとは認められない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。


4 結論

 以上に検討したところによれば,原告らの主張する取消事由にはいずれも理由がなく,審決を取り消すべきその他の誤りも認められない。


 よって,原告らの請求は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。』

と判示されました。


 詳細は、上記判決文を参照して下さい。


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