●平成17(ワ)5863 損害賠償等請求事件 特許権 「紙おむつ」 東京

  今日は、『平成17(ワ)5863 損害賠償等請求事件 特許権 「紙おむつ」 平成19年01月30日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070202132415.pdf )について取り上げます。


 本件は、原告が被告に対し,被告の製造販売する「紙おむつ」が,原告の有する「紙おむつ」についての特許発明の技術的範囲に含まれるとして,特許権侵害に基づく損害賠償等を求め、その請求が棄却された事案です。


 本事案では、明細書の発明の詳細な説明を参酌して請求の範囲の用語(本事案では『透液性』)の意義を解釈すると共に、出願経過を参酌して、被告製品が原告特許の特許発明の技術的範囲に属さないと判断した点で、参考になるものと思います。



 なお、問題になった特許発明は、

「ア 請求項1(以下,請求項1に係る発明を「本件特許発明1」という) 。

 不透液性シートと透液性シートと吸収体とを有し,さらに製品の幅方向両側部に弾性伸縮性の自由部が内側に向いたバリヤーカフスを有する紙おむつにおいて,

 前記バリヤーカフスの自由部より外側であってかつ吸収体の側縁から側外方にあるフラップ部を構成するフラップ部材シートが,製品紙おむつの全長にわたり,かつ,フラップ部材シートのほぼ全体が透液性であり,これによりフラップ部の製品紙おむつの全長にわたる領域が使用面側から裏面側に液が透過可能であることを特徴とする紙おむつ」。


 イ 請求項3(以下,請求項3に係る発明を「本件特許発明3」という) 。
「不透液性シートと透液性シートと吸収体とを有し,さらに製品の幅方向両側部に弾性伸縮性の自由部が内側に向いたバリヤーカフスを有する紙おむつにおいて,

 製品紙おむつの使用面側において,前記自由部の先端部に使用状態において前記透液性シートから離間するように起立させる弾性伸縮部材を有するバリヤーカフスを構成する透液性バリヤーシートが,前記吸収体の側縁から側外方に延在してフラップ部を構成し,かつ,前記透液性バリヤーシートの側外方部分は透液性シートの側縁より側外方に延在し,前記透液性シートおよび不透液性シートは製品紙おむつの全長にわたり,透液性シートの側縁は,不透液性シートの側縁より内側とし,かつ,透液性シートの側縁部が不透液性シートにホットメルト接着剤により固定され,前記フラップ部を構成する透液性バリヤーシートが,製品紙おむつの全長にわたりかつフラップ部の長手方向のほぼ全体において透液性を示し,かつ,前記透液性バリヤーシートの幅方向中間が前記不透液性シートの使用面側に対してホットメルト接着剤により固定されていることを特徴とする紙おむつ」。

であります。


 そして、請求の範囲中の「透水性」の用語の意義が争点の一つになり、原告は、

『被告は,透液性と撥水性とを対立する概念であると捉えている点で根本的に誤っている。撥水性とは水をはじくこと,すなわち,シート表面の性状・特性の問題であり,シートそのものの透液性とは異なる概念である。


 シート表面に撥水性があっても,蒸れの原因となる汗などの水分は透過するのであって,透液性と撥水性は違う次元の問題である。透液性の反対の概念は,文字どおり不透液性であって,撥水性ではない。現に,撥水性であり,かつ,透液性のシートが,他にも存在している。・・・被告各製品におけるバリヤーシート4や外装シート6は撥水性であるものの,透液性も有している(甲6,9) 。したがって,本件各特許発明の「透液性」を充足することは明らかである。

ウ 「透液性」の要件は,液を透す性質を有するか否かという基準で判断すれば足りることであって,その意義は明確であり,特に明細書の詳細な説明の記載を参酌するまでもない。そして,詳細な説明や図面は,透液性の意味を明白に裏付けるものであり,被告が主張するように「透液性の程度が高い」とか,撥水性のあるものを除外するなどという解釈の根拠には全くならない。


 また、本件明細書の・・・の記載に照らしても本件各特許発明の課題作用効果は透液性を有することによってもたらされるのであるから,限定解釈すべき理由は全くない。』

等と主張したのに対し、被告は、

『本件各特許発明における「透液性」とは,特許請求の範囲の記載,発明の詳細な説明及び出願経過に鑑みれば,透液性の程度の高い性質を意味し,撥水性ないし通気撥水性を含まないと解するのが合理的であり,被告各製品のフラップ部材シートが「透液性」の要件を充足しないことは明らかである。』

等と反論していました。



 東京地裁は、

『1 争点2−1(被告各製品が構成要件1Bの「フラップ部材シートのほぼ全体が透液性」を,被告製品1が構成要件3Bi,iiび3Di,iiiの「透液性バリヤーシート」を充足するか)について

(1) 本件各特許発明の特許請求の範囲の記載には「不透液性シート(構成要件1A,3A)」,「透液性シート(構成要件1A,3A )」,「フラップ部材シートのほぼ全体が透液性(構成要件1B)」,「フラップ部の製品紙おむつの全長にわたる領域が使用面側から裏面側に液が透過可能(構成要件1C)」,「透液性バリヤーシート(構成要件3Bi,ii及び3Di,iii),「フラップ部を構成する透液性バリヤーシートが・・・透液性を示し(構成要件3Di,ii)」等の記載があり,紙おむつの各構成部材について用いられている「透液性」の用語の意義について争いがある。


 そこで,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌してフラップ部材シートにおける「透液性」(構成要件1B),フラップ部を構成する透液性バリヤーシートにおける「透液性」(構成要件3Bi,ii及び3Di,iii)の意義を解釈する。

(2) 本件明細書(甲2)には,次のとおり記載されている。

ア 産業上の利用分野

「【0001】本発明は,フラップ部分が透液性を有し,蒸れを防止した紙おむつに関する」。

イ 従来の技術
「【0002】近年の紙おむつの改良には著しいものがあり,その改良の課題としては,着用時における蒸れの防止がある」。

「【0003】この課題を解決するために,実開昭62−88705号公報には,いわゆるサイドカット部分に対してそのサイドカット部分を埋め紙おむつ全体が方形となるように通気防水性シートを取付たもの(以下,先行例1という)が知られている」。

ウ 発明が解決しようとする課題

「【0005】前述の先行例1によれば,確かにサイドフラップ部における通気防水性シートの存在により着用時の蒸れをある程度防止できるとしても,少なくとも前後の部分での蒸れはまったく防止できない。たとえば幼児が仰向けまたはうつ伏せに寝ている場合には,背中側または腹側での蒸れが著しい。」。

「【0007】したがって,本発明の課題は,第1義的には着用時における蒸れ特にバリヤーカフスを有することで軟便中の液分に伴う蒸れを背中側および腹側においても確実に防止すること,付随的には大量生産に適した紙おむつの構造を提供することにある」。

エ 作用

「【0011】本発明では,吸収体の側縁から側外方に延在するフラップ部のほぼ全体が,透液性とされている。たとえば具体的に,フラップ部分において,透液性シートおよび不透液性シートが存在せず,実質的に透液性不織布のみからなるフラップ部材シートにより構成され,このフラップ部材シートは紙おむつの実質的に全長にわたり配設されているので,サイドフラップ部分のみならず前後においても,蒸れが防止される。」


「【0013】他方,軟便の阻止機能を有するバリヤーカフスを有する紙おむつが知られている。この種のバリヤーカフスを構成する場合,軟便の阻止のために,軟便中の液分の紙おむつ側方への浸透を防止するために撥水性不織布を用いるとともに,そのバリヤーカフスを構成するバリヤーシートを不透液性シートに固定してフラップ部を構成する思想が一般的である。したがってフラップ部においては透液性を示さないものである。」


「【0014】しかるに,特に請求項1記載の発明においては,バリヤーカフスを有する紙おむつにおけるフラップ部において,不透液性シートの側縁を製品紙おむつの側縁まで延在させる構成を採らないで,透液性を有する(したがって当然に通気性も有する)ものとした」。


「【0015】軟便を阻止する機能の紙おむつにおいては,その軟便中の液分が吸収体に吸収されないまま使用面側に残存するので特に蒸れが生じやすい。しかし,請求項1記載の発明においては,バリヤーカフスを有する紙おむつにおけるフラップ部において,不透液性シートを存在させることなく,透液性を示すようにしたものであるために,たとえば通気撥水性のシートを用いる場合に比較して蒸れの防止効果はきわめて高いものとなる。」


「【0016】一方,バリヤーカフスを構成する場合,バリヤーシートを通しての液分の外側外方への浸出性について考慮することが必要である。この点については,バリヤーシートをたとえば撥水性不織布を用いるで対処できるものの,トップシートを構成する透液性シートをそのままフラップ部に延在させると,その透液性シートを伝わってその側縁から液が浸出し,製品の外面に滲み出す虞れがある。」


「【0017】しかるに,請求項3記載の発明によれば,透液性シートの側縁を,不透液性シートの側縁より内側とし,かつ,透液性シートの側縁部が不透液性シートにホットメルト接着剤により固定されているので,その固定部分において液の透液性シートでの伝わりが阻止され,製品の外面に滲み出すことはない。」

オ 実施例

「【0021】このように構成された紙おむつにおいては,紙おむつの吸収体3の側縁の外方のほぼ全体が透液性で通気性のフラップ部材シート10から構成されているので,脚回り部分において蒸れを防止することができるとともに,紙おむつ長手方向前後においても,汗などによる水分がフラップ部材シート10を通して透過するので,背中および腹部分におおても(判決注: 「においても」の誤記と認める。)蒸れを防止できる」。


カ 発明の効果

「【0033】以上の通り,本発明によれば,着用時における蒸れを脚回りのみならず腹および背中においても蒸れを防止できるとともに,製造がきわめて容易となる」。


(3) 本件明細書の上記記載によれば,本件各特許発明は着用時における蒸れ,特に軟便の阻止機能を有するバリヤーカフスを有することによる軟便中の液分に伴う蒸れを,背中側及び腹側においても確実に防止することを課題とするものである。


ア 本件特許発明1について

a) 本件明細書の上記記載によれば,軟便の阻止機能を有するバリヤーカフスは,従来技術においては,軟便中の液分の紙おむつ側方への浸透を防止するために,撥水性不織布を用いるとともに,バリヤーカフスを構成するバリヤーシートを不透液性シートに固定してフラップ部を構成するのが一般的であり,かかる従来技術においては,フラップ部は透液性を示さないものであった(【0013】)ため,バリヤーカフスを有する紙おむつが特に蒸れが生じやすいことから,本件特許発明1は,フラップ部において,不透液性シートを存在させることなく,透液性を示すようにしたものであり,その結果,たとえば通気撥水性のシートを用いる場合に比較して蒸れの防止効果が極めて高いものとなったものと認められる(【0014】,【0015】)。


b )「撥水性」とは,「水」をはじく性質のことであり(甲25,26),「水」を透す性質である透液性とは両立する概念である。一方,「撥水性」のものと「撥水性」でないものとを比較すれば「撥水性」のものの方が水を透す程度が低いということは明らかであり「透液性」の程度と,「撥水性」とは無関係ではない。


c) 上記のとおり,従来は,液分の浸透を防止するためにバリヤーカフスに撥水性不織布を用いるとともに,バリヤーカフスを構成するバリヤーシートを不透液性シートに固定してフラップ部を構成していたのであるから,従来技術における撥水性不織布は液の浸透を防止するために用いられていたものであることも明らかである。もっとも,撥水性不織布は直ちに不透液性を意味するものではないので,その浸透防止効果が不透液といえる程度のものであったとまでいうことはできない。

 
 このような状況下において,本件特許発明1は,フラップ部材シートを蒸れ防止のために透液性としたのであるから,従来の撥水性不織布を用いていた場合(前記のとおり,液分の浸透防止効果は不透液といえる程度のものではないものの,蒸れを発生させる程度の透液性しか有していなかった)よりも高度の透液性を要求したと考えられる。このことは「通気撥水性」のシートと比較して蒸れの防止効果が極めて高くなったとの上記記載からも裏付けられるものである。


 したがって,本件特許発明1における「透液性」のフラップ部材シートは,通気撥水性のシートより高度の「透液性」があり,通気撥水性のシートを用いた場合よりも蒸れ防止効果が大きいものと解するのが相当であり,フラップ部材シートが撥水性である場合は,本件特許発明1の技術的範囲に含まれないと解すべきである。


イ 本件特許発明3について

 本件明細書の上記記載によれば,バリヤーカフスを構成する場合,バリヤーシートを通しての液分の外側外方への浸出を防止することが求められ,液分がトップシートを構成する透液性シートを伝わって製品の外面に滲み出すことを阻止する必要がある(【0016】)。


 そこで,本件特許発明3は,透液性シートの側縁を,不透液性シートの側縁より内側とし,かつ,透液性シートの側縁部が不透液性シートにホットメルト接着剤により固定する構成を採用することによって,透液性シートでの伝わりを阻止したものである(【0017】)。


 このように,本件特許発明3は,トップシートを構成する透液性シートを伝わって液が浸出することを上記の構成を採用することにより防止するものであるから,フラップ部を構成する「透液性バリヤーシート」の「透液性」については,本件特許発明1のフラップ部材シートにおける「透液性」と同義と解することは当然である。


 なお,本件明細書においては,バリヤーシートを通しての液分の外側外方への浸出は「バリヤーシートをたとえば撥水性不織布を用いる」ことで対処可能と記載されている(【0016】)。


 しかし,かかる記載は,段落【0016】及び【0017】全体の記載,並びに,上記のとおり,軟便中の液分の浸透防止のために撥水性不織布を用いることが従来技術として挙げられ,かかる従来技術においても液分の浸出防止は一定程度果たされていたのであることからすれば,かかる従来技術について触れたものと解するのが相当であって,本件特許発明1と本件特許発明3における「透液性」を別異に解することの根拠となるものではない。


(4) 以上の解釈は,出願経過における出願人の陳述内容にも沿うものである。


ア 平成9年12月25日付け手続補正書(乙2)による補正後の請求項は次のとおりである。

「【請求項1】 ・・・通気性のフラップ部材シートが,製品紙おむつの全長にわたり,かつ,フラップ部の長手方向のほぼ全体が通気性を有する・・・」


「【請求項3】 ・・・通気性バリヤーシートが・・・フラップ部を構成し・・・,前記フラップ部を構成するバリヤーシートが,製品紙おむつの全長にわたり,かつ,フラップ部の長手方向のほぼ全体において通気性を示す・・・」


イ 前記ア記載の請求項に対する本件拒絶理由通知書(乙3)には,次の記載がある。

「引用文献1には,本願請求項4の,バリヤーシート及び透液性シートの取り付けをホットメルト接着剤で行う点の記載はないが,使い捨ておむつにおいてバリヤシートや透液シートを取り付ける手段として上記のものは汎用されている」。

「引用文献2,3には,通気性のフラップを設けた使い捨ておむつが記載されている」。


ウ 引用文献3(乙8)には,次の記載がある。

「撥水性を有し,かつ通気性の股下シートを設け(1頁10行ないし」11行)「股下シート4としては撥水性及び通気性を有するものであれば何でも良いが,望ましくは,ポリエステル,ポリプロピレンからなる不織布シート・・・が望ましい(5頁3行ないし7行) 。」


エ 本件意見書(乙4)には,次の記載がある。

「引用文献3の股下シートは通気性であるが撥水性のものである。股下シートは,弾性部材7により,外向き状態で斜め外方に向いて起立するものである。この引用文献3においても,バリヤーカフスの外側にフラップ部をさらに設け,そのフラップ部を透液性とする思想は一切ない。」


オ さらに,原告は,本件手続補正書(乙5)において,本件明細書(平成9年12月25日付け手続補正書(乙2)による補正後のもの)の全文補正を行った。


 本件手続補正書による補正前の【作用】欄(【0012】ないし【0018】)は,本件手続補正書により【0011】ないし【0017】に,補正されたその補正の内容は「通気性」を「透液性」に補正するほか「・・・しかし,本発明においては,バリヤーカフスを有する紙おむつにおけるフラップ部において,不透液性シートを存在させることなく,通気性を示すようにしたものであるために,蒸れを防止できる。」(補正前の【0016 】)を「・・・しかし,請求項1記載の発明においては,バリヤーカフスを有する紙おむつにおけるフラップ部において,不透液性シートを存在させることなく,透液性を示すようにしたものであるために,たとえば通気撥水性のシートを用いる場合に比較して蒸れの防止効果はきわめて高いものとなる(補正後の【0015】)に補正するというもの。」である(乙2,5。判決注:下線部は補正された箇所に付したものである。)。


カ 原告(出願人)は,通気性のフラップを有する例として示された引用文献2,3を踏まえ,本件手続補正書において,本件各特許発明は「透液性」のフラップを有する旨の補正を行った。そして,引用文献3の股下シートは通気性であるが撥水性のものであったところ,通気撥水性のシートと比較して,本件各特許発明の「透液性」のフラップによる蒸れの防止効果は極めて高い旨の記載(【0015】)を本件明細書に付加した。


 したがって,原告(出願人)は,フラップ部が「通気性」ではなく「透液性」である旨の補正を行い,さらに,通気撥水性のものと比較して本件各特許発明の作用効果である蒸れの防止効果が極めて高いとの補正を行ったのであるから「透液性」のフラップと補正することにより「通気撥水性」のものを除くことを前提にしていたと解するのが相当である。

(5) 原告は,本件明細書の【0015】の「通気撥水性」との記載は,本件明細書の従来の技術欄に記載されている先行例1(【0003】 )と対比しなければ意味が通じないのであって,「通気防水性」の誤記であると主張する。


 しかし,作用欄に従来技術として挙げられたバリヤーカフスに撥水性不織布を用いる構成(【0013】)と対比して,「通気撥水性」の用語を用いたものと理解することによって,本件明細書の記載を技術的に誤りなく解釈できることは,既に述べたとおりである。そして,本件明細書の【0015】の「通気撥水性」との記載が,通気撥水性の股下シートが記載された引用文献3を受けてなされたものであることからしても,比較の対象は通気撥水性のものであるというべきである。よって,上記記載を誤記と認めることはできない。


(6) したがって,フラップ部材シートにおける「透液性(構成要件1B )」フラップ部を構成する透液性バリヤーシートにおける「透液性(構成要件)3Bi,ii及び3Di,iii」の程度は,撥水性のものと比べ,より高度に液体が透過しやすいものと解するのが相当である。


(7) 被告各製品のフラップ部及び被告製品1のバリヤーカフスの素材は,ポリプロピレンスパンボンド不織布である。そして,ポリプロピレンスパンボンド不織布は「撥水性」である(乙15の2)。


 なお,被告各製品及び被告製品1の上記部分が撥水性であること自体は,争いがない。そして,証拠(乙21)によれば,被告各製品のフラップ部は,透液性シート部分に比べて耐水度及び透水度が異なり,透液性シート部分に比べて,試験水が透過しにくいことが認められる。


 これらの点からすれば,被告各製品のフラップ部の透液性は,撥水性のものが有するのと同等であり,本件特許発明1の構成要件1Bの「フラップ部材シートのほぼ全体が透液性であり」との構成を具備しない。また,被告製品1のバリヤーカフスの透液性も,撥水性のものが有するのと同等であるから,本件特許発明3の構成要件3Bi,ii及び3Di,iiiの「透液性バリヤーシート」との構成を具備しない。したがって,被告各製品は本件特許発明1の,被告製品1は本件特許発明3のいずれの技術的範囲にも属しないものである。


2 争点2−2(被告各製品が構成要件1C「透過可能」を,被告製品1が構成要件3D??「透液性」を充足するか)について


 構成要件1Cの「これによりフラップ部の製品紙おむつの全長にわたる領域が使用面側から裏面側に液が透過可能」は,構成要件1Bの「フラップ部を構成するフラップ部材シートが・・・透液性であり」を受けるものである。したがって,構成要件1Cの「透過可能」は,構成要件1Bの「透液性」を前提とした透過性を意味するものと解するのが相当である。被告各製品は,構成要件1Bの「透液性」を充足しないのであるから,構成要件1Cの「透過可能」も充足しないことは明らかである。


  構成要件3Diiのフラップ部の長手方向のほぼ全体において「透液性を示し」は,フラップ部を構成する「透液性バリヤーシート」(構成要件3Bi)の構造から導かれるものである。したがって,構成要件3Diiの「透液性」は,構成要件3B??の「透液性」と同等の透液性を意味するものと解すべきである。


  被告製品1は,構成要件3B??の「透液性」を充足しないのであるから,構成要件3Diiの「透液性」も充足しないことは明らかである。


 したがって,これらの点からも,被告各製品は本件特許発明1の,被告製品1は本件特許発明3のいずれの技術的範囲にも属しない。



3 結論

 よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないのでこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。』

と判示されました。


 特許法第70条2項の「前項の場合においては、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と、出願経過の原則とにより、請求の範囲の用語の意義が解釈されたものであり、従来通りの特許発明の技術的範囲の解釈であるものと思います。


 詳細は、上記判決文を参照ください。



 なお、本事件の裁判長は、東京地裁民事第46部の設樂隆一裁判長裁判官です。

追伸;<気になったニュース>

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