●平成18(行ケ)10299 審決取消請求事件 商標権「ポロ」

  今日は、『平成18(行ケ)10299 審決取消請求事件 商標権「ポロ」平成19年01月31日 知財高裁』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070201120552.pdf)について取り上げます。


 本件は、著名なPoloの商標により商標法4条1項15号に該当するとした拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、原告の請求は棄却されました。



 つまり、知財高裁は、

『1 原告は,本願商標が商標法4条1項15号に該当するとした審決の認定判断は誤りであると主張するので,以下判断する。


 ア 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には当該商標をその指定商品等に使用したときに当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ,すなわち,いわゆる広義の混同を生ずるおそれがある商標をも包含するものであり同号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の関連性の程度,取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照。)


 そこで,上記の観点から,本願商標が商標法4条1項15号に該当するかどうかを,検討する。

イ 本願商標と引用商標の対比

(1) 本願商標と引用商標の構成

 本願商標は,別紙1のとおり,黒いシルエットで表された馬と人の図形よりなるものであって,これを詳しく見ると,疾走する馬にまたがったポロの競技者が,左手で手綱を持ったままで,馬の進行方向から右向きに身体をひねって,地上の玉を見下ろしながら,右手に持ったマレットでこれを打とうとしている様子を,馬の右前方約45度の方向から描いたものである。


 一方,引用商標は,別紙2のとおり,黒を基調として,これに白線により描写を施した図形よりなるものであって,これを詳しく見ると,疾走する馬にまたがったポロの競技者が,左手で手綱を持ったままで,馬の進行方向からやや右向きに身体を向けて,右手に持ったマレットを頭上に振りかぶっている様子を,馬の左前方約45度の方向から描いたものである。


(2) 本願商標と引用商標の対比

 そこで,本願商標と引用商標とを対比すると,外観において,両者は,疾走する馬にまたがったポロの競技者が右手にマレットを持った様子を馬の斜め前方から,黒色を基調として描いているという点で,基本的な構成が共通する。


 しかしながら,これを子細に検討すると,(i)描者と馬との位置関係の違いから,疾走する馬の向きが,画面上で,本願商標では右方向であるのに対して,引用商標では左向きである点,(ii)馬上のポロ競技者の姿勢が,本願商標では右向きに身体をひねり,ややかがみ込むようにして,下方を見ながら右手で下方に下げたマレットを操っているのに対して,引用商標では身体を伸ばし,馬の進行方向に向いて,右手に持ったマレットを上方に振り上げている点,(iii)本願商標では馬の下方に球が描かれているのに対して,引用商標では球は描かれていない点,(iv)本願商標では地上の球を打つために,馬の疾走速度が抑制されているのに対して,引用商標では馬は全速力で疾駆している点,(v)本願商標が黒一色のシルエットで描かれているの対して,引用商標は黒を基調としながら白線による描写が施されている点において,相違している。


 また。称呼観念については、本願商標及び引用商標からはいずれもスポーツとしてのポロ競技又はポロ競技者の称呼ないし観念が生ずる余地があるものの,それ以上に具体的な称呼や観念が生ずると直ちには認められないが,本願商標及び引用商標から何らかの称呼,観念が生ずるとすれば,両者は共通するものというべきである。

ウ引用商標の周知著名性

 本件訴訟において提出された乙号各証及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる(当該事実については,原告もこれを争っていない) 。


 アメリカ合衆国在住のデザイナーであるラルフ・ローレンは,1967年に幅広ネクタイをデザインして注目され,翌1968年にポロ・ファッションズ社を設立,ネクタイ,シャツ,セーター,靴,カバンなどのデザインをはじめ,トータルな展開を図ってきたが,1971年には婦人服デザインにも進出し,アメリカのファッション界では最も権威のある「コティ賞」を1970年と1973年の2回受賞したのをはじめ,数々の賞を受賞したもので,1974年に映画「華麗なるギャッツビー」の主演俳優ロバート・レッドフォードの衣装デザインを担当したことから,アメリカを代表するデザイナーとしての地位を確立した。


 そして「Polo」ないし「POLO」の,文字よりなる標章「by RALPH LAUREN」の文字よりなる標,章及び引用商標と同一の「馬に乗ったポロ競技のプレーヤー」の図形よりなる標章並びにこれらを組み合わせた標章は,我が国においては,遅くとも本願商標の登録出願時までにはラルフ・ローレンのデザインに係る商品(同人又は同人の設立に係る米国会社の商品)を表示するものとして,被服類,眼鏡等のいわゆるファッション関連の商品分野の取引者,需要者の間において広く認識され,かつ著名となっていたものであり,その状態は審決当時においても継続していた。


エ 本願商標の指定商品と引用商標に係る商品との関連性等本願商標は,第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,・・・」を指定商品として登録出願されたものであるところ,当該指定商品は,引用商標の著名性が取引者,需要者に認識されている分野である洋服等のファッション関連の商品を含むものである。


オ 商標法4条1項15号該当性について

 上記のアないしエにおいて認定したところによれば,本願商標と引用商標は,いずれも馬上のポロ競技者を描いている点で,基本的構成を共通にするものであり,また,引用商標が,ファッション関連の商品分野において,ラルフ・ローレンのデザインに係る商品を表示するものとして,取引者,需要者の間において著名であるところ,本願商標の指定商品には,引用商標の著名性が取引者,需要者に認識されているファッション関連の商品を含むものであるから,本願商標をその指定商品に使用した場合には,これに接する取引者,需要者は,著名商標である引用商標を連想,想起して,当該商品がラルフ・ローレン又は同人との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品であると誤信するおそれがあるものというべきである。


 したがって,本願商標は,商標法4条1項15号に該当するものとして商標登録を受けることができないというべきであるから,これと同旨の審決の判断に誤りはない。


2 原告の主張について

 ア 原告は,審決の誤りとして,前記(a)〜(c)の3点を挙げて,審決の取消しを求めている(前記第3参照。)

・・・

イ 引用商標は,確かに原告の指摘するとおり,ポロ競技を描いた図柄としてありふれたものであり,それ自体において独創的な図形ということはできない。しかしながら,前記認定のとおり,引用商標は,上記のような図柄であるにもかかわらず,ラルフ・ローレンのデザインに係る商品を表示するものとして被服類等のいわゆるファッション関連の商品分野において取引者需要者の間において著名性を有していたものであり,一方,本願商標の指定商品は洋服をはじめとしてファッション関連の商品を含むものであるから本願商標をその指定商品に使用した場合には,これに接する取引者,需要者において,当該商品がラルフ・ローレン又は同人(ないし同社)との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品であると誤信するおそれがあるものというべきである。


 原告は,本願商標と引用商標との間には,具体的な構成においてはいくつかの相違点があり,全体的な印象を異にすると主張する。確かに,本願商標と引用商標とを対比すると,前記1イ(2)に記載したとおり,具体的な構成においていくつかの相違点が認められるものであるが既に判示したとおり,商標法4条1項15号の該当性の判断は、当該商標をその指定商品等に使用したときに,当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれが存するかどうかを問題とするものであって,当該商標が他人の商標等に類似するかどうかは,上記判断における考慮要素のひとつにすぎない。そして,本件においては,ファッション関連の商品分野における引用商標の著名性の程度が高く,高い顧客吸引力を有していることに照らせば,上記認定のような具体的構成における相違点が存在するとしても,引用商標と基本的な構成を同じくする本願商標をファッション関連の商品に付した場合には,取引者,需要者において上記誤信をするおそれが存在するといわざるを得ない。


 原告は,引用商標は当該具体的態様において著名となったものであり,商標が著名であるほど当該商標についての認識が高まるので商品の出所につき混同を生ずる範囲は狭くなるなどと主張して,混同のおそれを否定するが,一般に,商標の著名性が高い場合には商品の出所につき混同を生ずる範囲は広くなるというべきであり,本件において,これと異なる判断をすべき特段の事情は認められない。また,本願商標と引用商標との間の具体的構成の相違点の存在は,両者を時と所を異にして隔離的に観察した場合における混同のおそれを否定するに足りるものではない。


 原告は「被服」等のファッション関連商品は商品として選択性が強く,需要者の注意力も高いなどとも主張するが本願商標の指定商品は洋服をはじめとして「セーター類,ワイシャツ類,下着,靴下」等であり,日常的に消費される商品が含まれ,これを購入する者が特別の商品知識を有しない一般消費者であることに照らせば,需要者の注意力が高いと直ちに認めることはできない。


また,上記の商品において,商標等の表示がいわゆるワンポイントマークとして比較的小さく付されることが多い実情に照らしても,本願商標と引用商標の間のマレットの位置や球の有無などの細部の相違点に需要者の注意点が向けられないままに商品の選択,購入がされる場合が少なくないことが,容易に予想されるところである。


ウ 原告は,本願商標の出願が,ポロ競技の統括団体である全米ポロ協会がポロ競技の振興,発展に貢献するために行っているライセンス・ビジネスの一環であることや,ポロ競技の図形商標は原告以外にも多数の者によって使用されており,これらの商標の中には商標登録を受けているものも含まれていることなどを挙げて,取引の実情を考慮すれば,本願商標と引用商標は出所の混同を生じていない旨を主張するが,これらの事情は,本願商標が商標法4条1項15号に該当するとの上記判断を左右するものではない。


エ なお,原告は,その主張において,東京高裁号判決(甲第9号証)及び東京高裁平成15年(行ケ)第371号判決(甲第10号証)を引用するが,前者は,商標法4条1項15号該当性が争われたものではあるが,対象とされた商標の態様及び指定商品が本件とは異なるものであり、また、後者は商標法4条1項11号該当性が争われたものでかつ,指定商品も異なるものであって,いずれも本件とは事案を異にするものというべきであるから,これらの判決における判断が本件に影響するものではない。


オ 原告の主張するところは,その余の点を含めて,いずれも採用することができない。


3 結論

 以上によれば,原告の本訴請求は,理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。』

と判示されました。


 妥当な判決だと思います。


 詳細は、上記判決文を参照して下さい。




追伸:<今日新たに出された判決>

●『平成18(行ケ)10299 審決取消請求事件 商標権 平成19年01月31日 知財高裁』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070201120552.pdf
●『平成18(行ケ)10205 審決取消請求事件 特許権 「冷凍バッグ」 平成19年01月31日 知財高裁』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070201115206.pdf
●『平成18(行ケ)10124 審決取消請求事件 特許権 平成19年01月31日 「眼鏡レンズの供給システム」 知財高裁』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070201113115.pdf
●『平成17(行ケ)10716 審決取消請求事件 特許権 平成19年01月31日 「マルエージング鋼およびその製造方法」 知財高裁』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070201110813.pdf
●『平成17(行ケ)10523 審決取消請求事件 特許権 平成19年01月31日 「識別対象偏向装置」 知財高裁』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070201105245.pdf


追伸;<気になったニュース>
●『ファルコバイオシステムズ、米社と大腸がん関連遺伝子特許の使用許諾契約を締結』
http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=151900&lindID=4
●『ファルコバイオシステムズ、ジェンザイム・コーポレーションとの特許使用許諾契約を締結』
http://www.japancorp.net/japan/Article.asp?Art_ID=36471&sec=18
●『世界税関機構、中国の海賊版取り締まりを評価』
http://www.people.ne.jp/2007/02/01/jp20070201_67464.html
●『日本弁理士会http://www.jpaa.or.jp/
・・・HPがリニューアルされました。


●『 【知はうごく】「著作権違反は甘くない」著作権攻防(7)−1』
http://www.sankei.co.jp/culture/bunka/070202/bnk070202001.htm
●『【知はうごく】「対立する2つの世界」著作権攻防(7)−2 』
http://www.sankei.co.jp/culture/bunka/070202/bnk070202000.htm
●『【知はうごく】「みんなで作るコンテンツ」著作権攻防(7)-3』
http://www.sankei.co.jp/culture/bunka/070202/bnk070202002.htm
●『【知はうごく】「既存メディアにも広がるCC」著作権攻防(7)−4』
http://www.sankei.co.jp/culture/bunka/070202/bnk070202003.htm