●平成18(行ケ)10222 審決取消請求事件 交通機関積載物重量自己表

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 さて、本日は、『平成18(行ケ)10222 審決取消請求事件 特許権 「交通機関積載物重量自己表示機」平成19年01月30日  知財高裁』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070131141752.pdf
について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、原告の請求は棄却された事案です。


 本件では、本願発明の奏する作用効果が進歩性の審査基準の有利な作用効果に該当するか否か争われており、進歩性の審査基準の有利な作用効果について知財高裁の考え方がわかり、参考になる事案かと思います。


 なお、本件で問題になっている請求項2は、

「【請求項2】 交通機関に積載されている荷物の重量を計測し 外部の第三者に自己表示,外部の第三者には 外壁等に投影する方式等,
又は 窓ガラス内より表示,窓ガラス内より投影する方式等,
又は 天井の上部に表示機を搭載する方式,
又は プライバシーの問題があるのなら警察官等や関係者だけに 積載重量の内
容を取り出す事が出来る方式,有線 無線 音波 磁気 光等の通信,
又は 警察官等や関係者だけに分かる表示方式 。」


であります。


 そして、知財高裁は、

『2 取消事由2(顕著な作用効果の看過)について
 原告は、「本願補正発明1が奏する作用効果も,上記引用発明及び上記周知の技術から予測される程度以上のものでもない 」とした審決の判断に対し,本願補正発明1の投影による表示方式の場合には,(i)投影の倍率を変更するだけで,容易に表示サイズを大きくし 視認性を向上させることができるという作用効果を奏する、(ii)積載量などの数値を,進行方向の逆方向や順方向にスクロールさせ,又は直交する面にスクロールさせながら投影表示をし,対向車両や歩行者に対する視認性を向上させる作用効果を奏する,(iii)投影機の投影面を交通機関の外壁に向ける(交通機関の内側に向ける)ことができるから,引用発明の表示器に比べ,メンテナンスが容易で,メンテナンスコストが低減するという作用効果を奏するとして,本願補正発明1が顕著な作用効果を奏する旨主張する。


しかしながら,本願補正明細書には,投影による表示方式を採用した本願補正発明1が,上記作用効果を奏することについては,全く記載がない。


 もっとも,一般に,明細書に明示の記載がなくとも,明細書の記載に基づいて,当業者が推論することができる事項であれば,明細書に記載があるものとして扱ってよい場合があるということはできる。


しかしながら,本願補正明細書には,本願補正発明1に係る,又は外部の第三者に対する画像の表示方式として,投影による表示方式を採用した場合に係る,特有の効果に関連した記載は全くない。


 そうすると,当業者が,本願補正明細書の記載に基づき,本願補正発明1の作用効果として推論することができるのは,車両において外部の第三者に対する画像の表示方式として投影による表示方式を採用したという事実を基礎として推論し得る範囲の作用効果にとどまるものであり,それ以上のものではあり得ない。他方,上記1の(1)のとおり,車両における外部の第三者に対する画像の表示方式としての投影による表示方式は,本件特許出願当時において,周知技術であったものと認められるところ,この周知技術の内容は,本願補正明細書に記載され,上記推論の基礎となるべき事実と同一であり,そうすると,上記周知技術から,当業者が予測することができる作用効果は,同一の事実を基礎とする以上,本願補正明細書の記載に基づき,本願補正発明1の効果として推論することができる作用効果と同内容となるはずである。すなわち,仮に,本願補正発明1の作用効果として原告が主張する上記効果が,本願補正明細書から推論できるのであれば,それは,上記周知技術から予測できる効果でもあるということになる。


 したがって,原告が主張する上記本願補正発明1の作用効果は,明細書の記載に基づかないものであるか,又は,当業者が容易に予測し得るものであるかのいずれかであり,そのいずれであるにせよ,失当である点では異ならない。


 なお,原告は,上記1の作用効果に関し 「審査及び審判の運用」の「請求項に係る発明が、有利な効果であって引用発明が有するものとは異質の効果を有する場合、あるいは同質の有利な効果であるが際だって優れた効果を有し、これらが技術水準から当業者が予測することができたものではない場合には、この事実により進歩性の存在が推認される (66頁16〜20行)との記載を引用した上,投影の倍率を変更するだけで,容易に表示サイズを大きくし得ることは,投影による表示方式に特有なものであって,引用発明が有する効果とは異質の効果であるから,当業者の予測可能性は問題とはならない。」と主張する。


 しかしながら 「審査及び審判の運用」の上記記載中の「引用発明」の語が,いわゆる主引用例に係る発明に限られるものではなく 副引用例に係る発明も含めて「 引用発明 」と称していることは上記記載の直前にある「複数の引用発明の組み合わせにより,一見,当業者が容易に想到できたとされる場合であっても 」との記載における「引用発明」の語の用い方に照らして明らかであり,そうであれば,副引用例に係る発明と同様の機能を営む周知技術も,この記載に係る「引用発明」に含まれるというべきである。


 そして,車両における外部の第三者に対する画像の表示方式としての投影による表示方式が,本件特許出願当時において,周知技術であったと認められること,及び,本件において 上記周知技術が副引用例に係る発明と同様の機能を営んでいることは上記1の(1)のとおりであるから,たとえ,投影の倍率を変更するだけで,容易に表示サイズを大きくし得ることが,投影による表示方式に特有なものであったとしても,それが 「審査及び審判の運用」の上記記載における「引用発明」と異質の効果であるということはできない。


 のみならず,たとえ 「請求項に係る発明」が,引用発明の効果とは異質な効果を奏する場合であっても,その異質の効果が,技術水準から当業者が予測することができるものである場合には,当該異質の効果を奏するからといって,進歩性の存在が推認されるものではない。


原告の上記主張は,上記「平成6年改正特許法等における審査及び審判の運用」の記載を誤解したことに基づくものであり,そもそも失当である。


3 結論

 以上によれば,原告の主張はすべて理由がなく,原告の請求は棄却されるべきである。』

と判示されました。


 妥当な審決および判決だと思います。


 詳細は、上記判決文を参照して下さい。



追伸;<今日、新たに出された判決>
●『平成18(行ケ)10318 審決取消請求事件 意匠権 「プーリー」 平成19年01月31日 知財高裁』
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070131145630.pdf
●『平成18(行ケ)10317 審決取消請求事件 意匠権 「プーリー」 平成19年01月31日知財高裁』
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070131145507.pdf
●『平成18(行ケ)10356 審決取消請求事件 商標権 「ワンショットコース」 平成19年01月31日 知財高裁』
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070131144748.pdf
●『平成18(ネ)10026 損害賠償等請求控訴事件 商標権 平成19年01月30日 知財高裁』
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070131143409.pdf
●『平成18(行ケ)10367 審決取消請求事件 意匠権 「ゲーム機」 平成19年01月30日知財高裁』
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070131143134.pdf
●『平成18(行ケ)10300 審決取消請求事件 商標権 「U S POLO ASSOCIATION」 平成19年01月30日 知財高裁』
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070131142330.pdf
●『平成18(行ケ)10222 審決取消請求事件 特許権 「交通機関積載物重量自己表示機」平成19年01月30日  知財高裁』
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070131141752.pdf
●『平成17(ワ)12138 著作権に基づく差止請求権不存在確認請求事件 著作権 平成19年01月30日 大阪地裁』
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070131160125.pdf
●『平成17(ワ)10324 著作権侵害差止等請求事件 著作権 平成19年01月30日 大阪地裁』
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070131152830.pdf



追伸;<気になったニュース>
●『中国:昨年の全国特許出願数は2割増の57万件』
http://www.nikkeibp.co.jp/news/biz07q1/524185/
●『国際特許出願件数、3千件の大台を突破 06年』
http://www.asahi.com/international/jinmin/TKY200701310301.html
http://www.people.ne.jp/2007/01/31/jp20070131_67431.html
●『MS、Vistaの中国発売で違法コピー対策を強調』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0701/31/news035.html
●『《知財外資知財濫用規制へ、産業財産権法改正[経済]』
http://www.nikkeibp.co.jp/news/biz07q1/524185/
●『「知的財産保護、最悪は中国」 国際商業会議所報告 』
http://www.business-i.jp/news/china-page/news/200701310044a.nwc
●『2006年、中国特許出願件数が急増 (2007/01/31 12:25:11)』
http://www.xinhua.jp/newsdetails.aspx?newsid=P100006393&cate_id=210
●『知財権保護強化に向け、戦略文書まもなく公布 (2007/01/31 13:26:48)』
http://www.xinhua.jp/newsdetails.aspx?newsid=P100006397&cate_id=210
●『特許審判6カ月以内に終結、集中審理制拡大』
http://japanese.yna.co.kr/service/article_view.asp?News_id=632007013102300
●『知はうごく 第1部 著作権攻防:』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0701/31/news061.html
●『【知はうごく】30年を経て、ソニー第2の“ベータマックス訴訟” 著作権攻防(2)』
http://www.sankei.co.jp/keizai/sangyo/070128/sng070128000.htm
●『地域団体商標 協議会立ち上げ構想浮上』
http://www.business-i.jp/news/for-page/chizai/200701310001o.nwc
●『東京都が「産業振興基本戦略」の素案を策定、大企業の休眠特許活用支援へ(東京都)』
http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=755
●『知財に関心持つ技術者に追い風,「知的財産検定」が国家試験へ』
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070131/127166/
●『知はうごく 第1部 著作権攻防:「まねきTV」3者インタビュー』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0701/30/news024.html
●『ルネサス:韓国サムスン電子を米で提訴−4件の半導体の特許侵害で (ブルームバーグ)』
http://news.www.infoseek.co.jp/search/story/30bloombergaS.TI9q9Jh2Y/%25C6%25C3%25B5%25F6/