●『平成18(行ケ)10259 審決取消請求事件 X線検査装置』

 今日はとうとう今年最後ですね!。読者の皆様、一年間お世話になりました。来年も宜しくお願い致します。


 さて、本日は、『平成18(行ケ)10259 審決取消請求事件 X線検査装置』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061226172002.pdf)について取り上げます。



 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた訴訟で、原告の請求は棄却された事件です。


 本件では、昨日紹介した、『平成18(行ケ)10236 審決取消請求事件 ポリアミドベースのガソリンフィードパイプ』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061226171810.pdf)と同様に、進歩性等の特許要件を争う査定系の訴訟における特許出願に係る発明の要旨認定が争点の一つになっており、最高裁リパーゼ判決(最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁参照)の原則の通り、明細書の記載を参酌せず、特許請求の範囲の記載の通り特許出願に係る発明の要旨を認定しています。なお、昨日紹介した判決と同様に、裁判長は、知財高裁第2部の中野哲弘裁判長です。


 つまり、知財高裁は、

『(1)本願発明の「変換手段」の意義につき
ア 原告は,本願発明における「変換手段」は,基本電子サブ画像の画素アドレスに依存する幾何学的変換処理を意味するところ,審決は,この点につき発明の認定を誤った結果,相違点2の判断を誤ったものであると主張するので,まず,本願発明における「変換手段」の意義について検討する。


 特許の要件を審理する前提としてされる特許出願に係る発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないなどの特段の事情がない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであると解される(最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁参照)。


 かかる観点に立って検討すると,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)には,幾何学的変換処理について,「それぞれの基本電子サブ画像にそれぞれ幾何学的変換処理を行うことにより変換電子サブ画像を生成する」と記載されているにとどまり,幾何学的変換処理の具体的方法については何らの限定がない。


 そうすると,本願発明における幾何学的変換処理の方法は,原告が主張するような,非線形の光学歪によるずれを補正するための「基本電子サブ画像の画素アドレスに依存する幾何学的変換処理」に限定されるものではなく,そのほかに,計算式を用いた計算による幾何学的変換処理をも含むことは明らかである。


 したがって,審決が,「変換手段」の意義を,基本電子サブ画像の画素アドレスに依存して幾何学的変換処理が行われることに限定して認定しなかったことに,原告主張の誤りはない。


イ 原告は,本件明細書(甲2)の段落【0011】,【0027】,【0028】,【0045】,【0048】等の記載によれば,本願発明の幾何学的変換処理の特徴は,基本電子サブ画像の画素アドレスに依存する幾何学的変換処理を行うことにある,と主張する。


 上記アのとおり,本願発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載に基づいて行うべきものではあるが,念のため,発明の詳細な説明におけるこれらの記載を参酌しても,以下のとおり,原告の主張は採用することができない。


(ア) まず,段落【0011】,【0027】,【0028】はいずれも「本発明のX線検査装置の別の望ましい実施例」についての記載であるから,これらの段落の記載をもって,本願発明全体の特徴であるとすることはできない。


(イ) 次に,段落【0045】について,原告は,「レンズ9a−dがその原因となる光学歪も又,画素アドレスの値,つまり変換されるサブ画像内の位置,に対応する幾何学的変換処理を採用することにより補正することが可能である。この事は,例えば,位置に依存するマトリックス要素を有する変換マトリックスを有する幾何学的変換処理を使用することにより達成される。」との記載を援用する。


 しかし,段落【0045】には、同記載に先立って,「………各々のサブ画像には,数多くの処理オペレーション,つまり,半導体画像センサとレンズ9a-dとの配置方向のずれを補正する、幾何学的変換処理が行われる。」との記載もあるから,段落【0045】の記載を全体としてみれば、本願発明における幾何学的変換処理が,基本電子サブ画像の画素アドレスに依存して行われるものに特定されているということはできない。


(ウ) さらに,段落【0048】については,原告は,同段落の後半の「レンズ系により生じる歪は非線形特性を有している場合がある。このような歪は,変換される画素アドレスに依存する幾何学的変換処理を使用することにより補正することができる。このことは,例えば,変換される画素の座標に依存する,マトリックスU及びマトリックス要素とベクトル成分とを各々有しているベクトルtを採用することにより得られる。」との記載を援用し,当該記載は,「画素アドレスに依存する」幾何学的変換処理について述べたものであると主張する。


 しかし,段落「………画像変換をアフィン変換により行うこともできる。【0048】の前半には,この方法はメモリ容量が少なくて済むという特徴を有している。このアフィン変換の特徴は,変換函数Fの形態が,F(x1,x2)=U(x1,x2)+tである(Uはスケーリングを伴った回転を表し,tは並進ベクトルである)点である。全ての座標を直接テーブルから得ることに代えて,各組の座標は専用の処理と記載されている。アフィン変換は,乙1文献ユニットにより計算される。」(1990年11月30日発行社団法人テレビジョン学会編「テレビジョン画像情報工学ハンドブック」オーム社)の408頁左欄15行〜23行の記載によれば,本件優先権主張日(1993年[平成5年]3月30日)において周知の幾何学的変換処理の一例であって,計算式に基づき線形変換をするものであると認められるから,段落【0048】の記載を全体としてみれば,本願発明における幾何学的変換処理が,基本電子サブ画像の画素アドレスに依存して行われるものに特定されているということはできない。


(エ) 以上のとおり,明細書の詳細な説明の記載を参酌しても,本願発明における「変換手段」を,画素アドレスに依存する幾何学的変換処理に限定して解釈することはできない。』

と判示されました。


 本願発明の要旨の認定を,リパーゼ最高裁の原則の通り、特許請求の範囲の記載に基づいて判断すると共に、念のため発明の詳細な説明における記載も参酌して,原告の主張を否定しており、ダメを押した形になっています。


追伸;<気になったニュース>
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http://www.kobe-np.co.jp/kobenews/sg/0000204708.shtml
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