●平成17(行ケ)10673 審決取消請求事件 「ひよ子」立体商標

 『平成17(行ケ)10673 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 「ひよ子」立体商標』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061129162739.pdf)に記載されているように、知財高裁は、商標法63条2項の準用する特許法180条の2により特許庁長官の意見を聴いた上で、 特許庁が無効2004−89076号事件について平成17年7月28日にした棄却(無効不成立)の審決を取り消しました。


 つまり、知財高裁は、「ひよ子」の立体商標の登録を取消したことになります。


 まず、この判決所の中で、特許庁長官意見は、下記の通りです。

『当裁判所が,商標法63条2項の準用する特許法180条の2第3項に基づき,平成18年5月10日付けで意見を求め,同年7月11日付けで回答を得た特許庁長官の意見の概要は,次のとおりである。

(1) 立体商標制度について
 ア 立体商標制度は,平成8年改正商標法において導入された制度である。
立体商標の審査・運用に関しては「商標審査便覧」の中の「立体商標の識別力の審査に関する運用」において,需要者が指定商品等の形状そのものの範囲を出ないと認識するにすぎない形状のみからなる立体商標及び極めて簡単,かつ,ありふれた立体的形状の範囲を超えないと認識される形状のみからなる立体商標であっても,相当長期間にわたる使用,または短期間でも強力な広告,宣伝等による使用の結果,同種の商品等の形状から区別し得る程度に周知となり,需要者が何人かの業務に係る商品であるとを認識できるに至った立体商標は識別力を有するものとする,とされている。本件立体商標については,これに該当すると判断した結果,法3条2項を適用して登録したものである。


 また,平成8年改正商標法は,第4条「商標登録を受けることができない商標」の第1項に新たに「第18号」を設け「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又は商品の包装の機能を確保するに不可欠な立体的形状のみからなる商標」は,商標登録を受けることができないこととした。原告は,商標登録無効審判において,本件立体商標が識別力を有しない商標であると主張するとともに,その後,上記4条1項18号にも該当する旨主張したところ,これは,法56条1項で準用する特許法131条の2第1項本文に該当し,請求の理由の要旨を変更するものであるとの理由で却下された。

 仮に,上記主張が適法になされたとしても,本件立体商標の形状が「商品の機能を確保するに不可避な形状」であるか否かについては,本件審決でも言及したとおり(審決14頁下12行〜下10行「頭部をやや左前方に向け,小さな嘴と目をもつ(審決13頁22行)本件立体商標の」形状が商品の機能を確保するに不可避な形状であるとは到底いえない。

 イ(ア) 原告は,商品の立体的形状に商標法による半永久的な保護を与えると,意匠登録を行う動機付けが失われ,意匠法による意匠登録が無意味になると主張する。しかし,商標法は,商標を保護することにより商標を使用する者の業務上の信用の維持等を図ることを目的とし,他方,意匠法は,意匠の保護・利用を図ることにより,意匠の創作を奨励し,産業の発達に寄与することを目的としているから,商標法に基づいて本件立体商標が登録されたからといって,その制度目的を異にする意匠法に基づく意匠登録が無意味となることはない。

・・・

(2) 本件立体商標への商標法3条2項の適用について
 ア 原告は,本件立体商標に法3条2項を適用して商標登録が認められた結果,鳥の形をした菓子を製造するのは被告に限られることとなって,自由競争を不当に阻害すると主張する。しかし,本件立体商標が登録されたからといって,およそ鳥の形をした全ての菓子に権利が及ぶものでないことは明らかであり,あくまでも,本件立体商標と類似する範囲にのみ権利が及ぶものであるから,あたかも鳥の形をした菓子の製造が被告に限られるかのごとき主張は誤りである。

 イ 原告は,本件立体商標の使用はデザイン的使用であり商標的使用ではないから,法3条2項の適用の前提がないと主張する。しかし,そもそも商標にはデザイン的要素が含まれることは否定し得ず,デザインか商標かの二者択一的なものではない。本件立体商標が「まんじゅう」のデザイン的な側面をもつ一方,自他商品の識別標識として機能を果たすものであれば,商標の使用ともいえるのであるから,一概に商標の使用でないと断定することはできない。

 ウ 原告は,コンピュータ画面を使用して本件立体商標と使用商標の相違を述べ,本件立体商標と一致する使用商標の菓子「ひよ子」は存在しないから,本件立体商標は使用されていないと主張する。しかし,コンピュータ画面による同一性が認められないからといって,同一性が否定されるものでもないとみるのが社会通念に照らして相当である。

 エ 原告は,本件立体商標の登録審決時において,既に多数の同一形状の菓子が存在したから,法3条2項の前提となる独占適応性がないと主張する。しかし,本件商標と同様の鳥の形状の菓子(まんじゅう)が存在することは否定し得ないが,本件立体商標と「同一」の形状の「まんじゅう」が多数存在することについてはにわかに認めがたい。また,仮に同様の鳥の形状の「まんじゅう」が存在するとしても,このことが法3条2項の適用を否定する根拠とはなり得ない。同種の商品等の形状が存在している場合であっても,他の同種商品の形状と区別し得る程度に周知となった場合は識別力を有するといえる。

 オ 原告は,本件立体商標は,著名文字商標「ひよ子」の自他商品識別性によってしか成立しないと主張する。しかし,たとえ,本件立体商標の使用に当たって,包装箱や包装紙に「ひよ子」の文字が存在したとしても,本件立体商標自体に「ひよ子」の文字が付されているわけではなく,実際に食する場合,包装紙は除かれ,中身のひよこ型のまんじゅうを手にとるのであるから,常に「ひよ子」の文字と一体のものとして把握されるわけではなく,本件立体商標自体も独立して自他商品の識別標識としての機能を具備するに至ったといえる。そして,本件立体商標は,本件審決(審決11頁14行〜12頁20行)でも述べているように,被告が大正元年から今日に至るまで盛大に使用した結果,本件立体商標自体,独立して自他商品の識別標識としての機能を具備するに至ったと判断されたからこそ,法3条2項を適用して登録審決を是認したものであって,本件審決の認定判断に誤りはない。』


 そして、知財高裁は、特許庁長官の意見を聞いた上で、

『1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯,(2)(審決の内容)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

 当事者双方は,本件立体商標が法3条1項3号に該当する旨の本件審決の判断は争わないので,本件訴訟の争点は,本件立体商標が法3条2項の要件を具備するに至ったかどうかである。

・・・


(4) 当裁判所の判断
 当裁判所は,被告の文字商標「ひよ子」は九州地方や関東地方を含む地域の需要者には広く知られていると認めることはできるものの,別紙「立体商標を表示した書面」のとおりの形状を有する本件立体商標それ自体は,未だ全国的な周知性を獲得するまでには至っていないと判断する。その理由は,以下に述べるとおりである。

 ア すなわち,被告は,前記のとおり,菓子「ひよ子」を大正元年から販売し,特に昭和32年以降は,各時代を通じて年間売上高,広告宣伝費とも多額であり,新聞・雑誌・テレビCM等を通じて頻繁に広告宣伝を行っており,多数の直営店舗,取引先を有していると認められるが,他方,菓子「ひよ子」は,その一つ一つが「ひよ子」と記載された包装紙に包まれ,「ひよ子」と記載された箱に詰められて販売されており(乙129〜130 ,また,展示品も,一箱のうち1,2個の「ひよ子」や合成樹脂模型)については上記包装紙に包まれていないものの,そのすぐ近辺を含む展示スペースの各所に多数の「ひよ子」の文字が溢れ(乙129〜130)、また,菓子「ひよ子」の形状を掲載した多数の広告宣伝も,平成4年及び平成6年において,朝日新聞,読売新聞,日本経済新聞等の全国紙に「日本のおいしいかたち」等のキャッチコピーとともに掲載されてはいるものの,そのすべてにおいて,その近辺のよく目立つ位置に「名菓ひよ子「ひよ子」等の文字が存在し,同形状が写る多数のテレビCMも,CMの中で必ずその画面に「名菓ひよ子「ひよ子」の文字も大きく写り(乙62の2〜47,189の1〜7,195の1〜4,196〜197 ),それに合わせて「ひよ子」との音声が入っている(乙196〜197 。)

 イ 次に,被告以外の鳥の形状の焼き菓子についてみると,東北地方(岩手県,関東地方(東京都,神奈川県,埼玉県,栃木県,茨城県),中部地方(愛知県,岐阜県新潟県),近畿地方兵庫県滋賀県),北陸地方(石川県,福井県富山県),中国地方(島根県),四国地方高知県 ),九州地方(福岡県)というような全国の各地において,23もの業者が鳥の形状の菓子を製造販売しているのであり,しかも,これらの菓子は,被告の菓子「ひよ子」と,離隔的に観察する際にはその見分けが直ちにはつきにくいほど類似しているものである(甲58〜61の各1,2 )。


 しかるに,それぞれの菓子は,その商品名の文字商標の商標登録出願日頃から販売されていたと推認でき,しかもそれぞれの菓子が,数年間から数十年間の販売期間を有することが認められる。そして,原告の菓子「二鶴の親子」は,その販売開始時期が昭和40年前後であり,しかも,平成11年度〜平成16年度においては10万〜20万箱という規模で販売され,平成11年3月〜平成16年7月に,九州内の高速道路売店における売れ筋の菓子であった旨が雑誌に記載されている。

 また,菓子「名古屋コーチン」も,同様に,昭和63年頃には販売が開始されていたと推認され,平成12年6月〜平成14年5月に,愛知県,三重県滋賀県内の高速道路売店において,売れ筋の菓子であった旨が雑誌に記載されており,また,菓子「なかよし小鳥」も,同様に,昭和43年頃には販売が開始されていたと推認され,平成14年3月に,茨城県内に高速道路売店において売れ筋の菓子であった旨が雑誌に記載されており,また,菓子「浅草ぽっぽ」も,同様に,平成9年頃には販売が開始されていたと推認され,平成10年3月〜平成14年2月に,神奈川県,栃木県,山梨県内の高速道路売店において,売れ筋の菓子であった旨が雑誌に記載されており,さらに,菓子「都鳥の詩」も,平成10年1月〜平成14年6月に,茨城県内の高速道路売店において売れ筋の菓子であった旨が雑誌に記載されているというのである。

 ウ さらに,被告以外の鳥の形状の和菓子についてみると,菓子の老舗である虎屋が,江戸時代(正徳年間)から,目と嘴をつけ,鳩笛のような形にした,鳥の形状の「鶉餅」を作っており,最近では,平成16年に,同様の形状で販売したこと,他の鳥の形状の和菓子としては,京都の三宅八幡宮ゆかりの菓子「鳩餅」も存在すること,が認められる。これに,前記のように,現在でも鳥の形状の和菓子が各地に存在することを併せ考慮すれば,鳥の形状を有する和菓子は,わが国において伝統的なものということができる。

 しかるに,本件立体商標に係る鳥の形状は,上記「鶉餅」よりも単純な形状であるから,本件立体商標に係る鳥の形状自体は,伝統的な鳥の形状の和菓子を踏まえた単純な形状の焼き菓子として,ありふれたものとの評価を受けることを免れないものである。


 エ 以上のア〜ウによれば,被告の直営店舗の多くは九州北部,関東地方等に所在し,必ずしも日本全国にあまねく店舗が存在するものではなく,また,菓子「ひよ子」の販売形態や広告宣伝状況は,需要者が文字商標「ひよ子」に注目するような形態で行われているものであり,さらに,本件立体商標に係る鳥の形状と極めて類似した菓子が日本全国に多数存在し,その形状は和菓子としてありふれたものとの評価を免れないから,上記「ひよ子」の売上高の大きさ,広告宣伝等の頻繁さをもってしても,文字商標「ひよ子」についてはともかく,本件立体商標自体については,いまだ全国的な周知性を獲得するに至っていないものというべきである。


 したがって,本件立体商標が使用された結果,登録審決時において,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができたと認めることはできず,本件立体商標は,いわゆる「自他商品識別力(特別顕」著性)の獲得がなされていないものとして,法3条2項の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」との要件を満たさないというほかない。』

と判示されました。


 詳細は、上記判決文を参照して下さい。



追伸;<気になったニュース>
●『米最高裁、特許付与に関する現行の法的基準を痛烈に批判』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061129-00000011-cnet-sci
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20333207,00.htm
●『特許承認基準の変更を巡り最高裁で論争──マイクロソフトら5社は申立書を提出』
http://www.computerworld.jp/news/trd/53490.html
●『エプソン、米国での特許訴訟で6社と和解=プリンター用インク販売停止で』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061128-00000143-jij-biz
●『セイコーエプソンが米国で提訴の特許訴訟で6社と和解』
http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=472