●『平成17(行ケ)10780 審決取消請求事件 発泡形耐火塗料』

 「知財みちしるべ」(http://www.furutani.co.jp/matsushita/jikeiretsu.html)の11/16より、『平成17(行ケ)10780 審決取消請求事件 発泡形耐火塗料』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061114110400.pdf)の内容を知りました。


 本件は,「発泡形耐火塗料」の発明の特許出願の拒絶審決の取り消しを求めて訴えた事案で、「知財みちしるべ」に記載されているように、知財高裁は、(出願)後に提出した実験証明書についての効果に基づく進歩性の主張は認められないと判断され、棄却された事件です。


 つまり、知財高裁は、取消事由1(本願発明の効果についての判断の誤り)について

『(1) 原告は,本訴提起後になされた甲1,甲13,甲16実験の結果を根拠として,本願発明が,引用発明から予測することのできない顕著な耐火性能を奏するものであって,審決の「引用発明に基づいて容易に想到する構成に基づく効果の単なる確認にすぎず,引用発明から予測できない程度の優れたものであると認めることはできない」との判断が誤りであると主張する。


 しかしながら,甲1,甲13,甲16実験及びその結果は,本願明細書に記載されているものではないから,これによって,本願明細書の記載を敷衍補強する趣旨であれば格別,その実験結果のみを根拠として,本願発明が,顕著な作用効果を奏する旨主張するのであれば,明細書に基づかない主張として許容されるものではない。


 そこでまず本願明細書の作用効果に関する記載を検討し当該記載によって又は甲1,甲13,甲16実験の結果が当該記載を敷衍補強することによって,本願発明が,引用発明から予測することのできない顕著な耐火性能を奏するものと認め得るかどうかを検討する。


(2) 本願明細書には「発明の目的」として「この発明は,バランスのとれた発泡のコントロールによって,脱落しにくい発泡層の形成を実現し,薄膜において優れた耐火性能(例えば,JIS A 1304(建築構造部分の耐火試験方法)の加熱試験において,耐火塗料を2mm厚で塗装した試験体の裏面温度が500℃に到達するまでの時間が45分以上であること)を得ることを目的とする(甲第8号証,段落【0003】)との記載,及び「発明の効果」として「本発明によれば,2mm厚の塗布により45分間以上の耐火試験に耐えうる優れた耐火性能を持った発泡形耐火塗料が得られる(甲第8号証,段落【0025】)との記載がある。」


 また,本願明細書には,耐火性能を比較実証するものとして,各成分につき,本願発明の組成要件を充足する発泡形耐火塗料(実施例1〜11)と,これを充足しない発泡形耐火塗料(比較例1〜22,ただし,比較例14については,下記の理由で除外せざるを得ない)について,耐火性能を試験した経過と結果とが記載されている(甲第8号証段落【0018】〜【0024】、甲第9号証段落【0017】。以下この試験を「明細書試験」という。)。


・・・


 しかるところ,明細書試験の比較例の組成は,(あ)〜(お)成分に係る具体的な構成成分(物質)が,すべての例で本願発明の限定の範囲内である「ペンタエリスリトール」((あ)成分)、「メラミン((い)成分)、「酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン」((う)成分)、「ポリリン酸アンモニウム」((え)成分)、「二酸化チタン」」,((お)成分)から成り,その配合量が,少なくとも1成分について,本願発明の組成要件を充足していないというものである他方実施例については実施例10,11が,(う)成分を,それぞれ「アクリル樹脂エマルジョン「酢酸ビニル樹脂エ」,マルジョン」としているが,(あ),(い),(え),(お)の各構成成分(物質)は比較例と同一であり,実施例1〜9については,(う)成分も含め,全部の構成成分(物質)が比較例と同一である。


 そうすると,仮に,明細書試験の結果に基づいて,実施例が比較例に比べて顕著な耐火性能を奏するものといえるとしても,その効果の相違は,本願発明の(あ)〜(お)成分に係る構成成分(物質)の限定に含まれるか否かよってもたらされたものではなく,主として「ペンタエリスリトール,メラミン,酢酸ビニル/アクリル樹脂エマルジョン,ポリリン酸アンモニウム,二酸化チタン」という物質の組合せの範囲内における,各成分の配合量の相違によってもたらされたものといわざるを得ない。


 すなわち,二酸化チタンのみに限定されている(お)成分は別として,(あ)〜(え)成分について,本願発明の限定の範囲内である他の物質の組合せから成るものが奏する効果や,(あ)〜(え)成分のうちの一又はそれ以上が,本願発明の限定の範囲外である物質に置き換わったものが奏する効果が,明細書試験からは明らかとならず,そうであれば,明細書試験によっては,本願発明の(あ)〜(お)成分に係る構成成分(物質)と配合量の限定に含まれるあらゆる実施態様が,顕著な効果を奏するということはできないし,また,少なくとも構成成分(物質)の限定に含まれるものが,この限定から外れるものに対して,効果の優位性を示しているということもできないから,結局,明細書試験が,本願発明が顕著な作用効果を奏することを示すものと認めることはできない。


 本願明細書の上記発明の目的や発明の効果に関する記載は本願発明が塗料を2mm厚で塗装した試験体の裏面温度が500℃に到達するまでの時間を45分間以上とすることができるという効果を奏することを内容とするものであるが,この記載の根拠も明細書試験以外には存在しないから,明細書試験が,本願発明が顕著な作用効果を奏することを示すものとは認められない以上,この記載も同様であるといわざるを得ない。


(3) 上記(2)のとおり,本願明細書の記載は,本願発明が顕著な作用効果を奏することを示しているとはいえず,そうであれば,仮に,甲1,甲13,甲16実験の結果により本願発明に顕著な作用効果が認められたとすれば当該作用効果は専らこれらの実験を根拠として認められるに至ったものであって,これらの実験が明細書の記載を敷衍補強するものとはいえないから当該作用効果に関する主張は明細書の記載に基づくものといえず,主張自体失当というべきである。

と判示されました。


 化学分野は、当方の専門ではなく、技術的にも特許的にもわからない点が多いですが、化学担当の人と話をすると、明細書に構成(化学式)の記載があっても、その実験結果の記載がないと、発明として未完成とか、発明が記載されてない、と判断されると良く聞きます。


 電機や機械の特許の明細書の場合、ほとんど実験結果の記載の必要性がなく、構成さえ記載されていれば、作用効果の明示的な記載がなくても、なんとかなる場合が多いのですが。


追伸;<気になったニュース>
●『中国の知財法改正支援(日刊工業新聞)』
http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=439
●『 有限責任事業組合の役割 ライセンシング 』
http://www.business-i.jp/news/for-page/chizai/200611150005o.nwc
●『日米欧が特許を相互承認 実務的な検討を開始』
http://www.tokyo-np.co.jp/flash/2006111601000547.html
●『AMD、特許侵害で提訴される』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061116-00000093-zdn_n-sci