●平成17(行ケ)10707 審決取消訴訟「中空糸膜濾過装置事件」

 特許ニュースの11/6号を読んでいたら、特許庁が無効審判で進歩性ありとした審決を知財高裁が取消した『平成17(行ケ)10707 審決取消訴訟中空糸膜濾過装置事件」知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060328134607.pdf)が見つかりました。


 今日は、本事件について取り上げます。


 本件は、被告の有する特許について原告が無効審判を請求したところ、特許庁が進歩性ありとして請求不成立の棄却審決をしたことから、原告がその取消しを求めた事案で、知財高裁は、進歩性ありと判断して、その棄却審決を取消したものです。


 つまり、知財高裁は、

『(1) 審決は,本件発明と引用発明1との相違点1について,(i)引用発明1と引用発明2は「技術分野の共通性による適用の動機付けが有るとはいえない」(18頁2行目〜3行目),(ii)「引用発明2の構成Aを引用発明1に適用する課題の共通性による動機付けが有るとはいえない」(19頁28行目〜29行目),(iii)引用例1及び引用例2から「本件発明の顕著な作用効果を予測することはできない」(25頁13行目〜14行目)などとした上,本件発明は引用発明1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないと判断した(25頁13行目〜16行目)ものである。

 これに対し,原告は,(i)引用発明1と引用発明2は技術分野が共通し,引用発明1に引用発明2を組み合せる動機付けがある,(ii)引用発明1と引用発明2は課題及び作用効果が共通し,引用発明1の課題を解決するために引用発明2の技術的思想を採用する動機付けがある,(iii)本件発明には,引用発明1と引用発明2を組み合せて得られる効果を超えるような顕著な作用効果が奏されるということはない等として,本件発明は引用発明1に引用発明2を組み合せて当業者が容易に発明できたものであると主張するので,以下において順次検討する。

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(4) 審決は,「引用発明2は,「中空糸膜モジュールは,多数本の中空糸膜フィルタと,中空糸膜フィルタの近傍に配置された取水管と,取水管と中空糸膜フィルタの両端を解放状態で接着固定した端部材とから構成され,前記中空糸膜フィルタ内に浸透した処理液の一部が上記中空糸膜フィルタの中空部の一端から取水管に流れること」(引用発明2の構成A)である点で相違点1を充当」する(16頁下4行目〜17頁2行目)が,引用発明2の「半透性の中空糸フィラメント1」は,逆浸透法に関するものであって,この点で,精密濾過法と限外濾過法に関するものである本件発明の「液体中の分散固形物を捕捉する中空糸膜フィルタ」と相違し(17頁3行目〜8行目),両者は技術分野の共通性による適用の動機付けが有るとはいえず(18頁2行目〜3行目),引用発明2の構成Aを引用発明1に適用する課題の共通性による動機付けはない(19頁下7行目〜6行目)とした。


 しかし,本件発明及び引用発明1が精密濾過法と限外濾過法に限定されるとすることはできないことは前述したとおりである。


・ ・・・


 精密濾過法及び限外濾過法と逆浸透法とは,粒子を分離するのに用いられる原理において相違することは,上記(2)イ(ウ)のとおりであるが,いずれの濾過方法も,圧力を推進力として溶液を分離する点において共通するものであり,かつ,圧損の問題は,本件特許出願当時,当業者において普遍的ないし周知の課題であったのであるから,この課題を解決するため,引用発明1の「中空糸膜モジュール」に,引用発明2に開示された「前記中空糸フィラメント1内に浸透した処理液の一部が上記中空糸フィラメント1の中空部の一端から連通管13に流れること」との技術的思想を適用する動機付けは存在するというべきである。

 したがって,引用発明2が逆浸透法に関するものであることを理由に,技術分野の共通性による適用の動機付けがあるとはいえず,引用発明2の構成Aを引用発明1に適用する課題の共通性による動機付けはないとした審決の上記説示は,誤りというほかない。


(5) 審決は,本件発明においては,引用発明2の構成Aを採用することにより従来のI型モジュールに比べて約2倍の透水量という格別顕著な作用効果が奏されるのに対して,引用発明2においては,(i)逆浸透を原理とするものであるから,その透水量が原液側に掛かる圧力と処理液側に掛かる圧力との圧力差にほぼ比例しているのかどうか明らかでなく,(ii)従来のI型モジュールにおける透水量が得られる駆動力が明らかでなく,引用発明2の構成を採用することで透水量が得られる駆動力が増分するのかどうかも明らかではないなどとして,引用発明2の構成Aを採用することにより従来のI型モジュールに比べてどのような効果があるのかが不明であるから,引用例1及び引用例2から本件発明の顕著な作用効果を予測することができない(25頁13行目〜14行目)とした。

 しかし,逆浸透法においても,透水量は,操作圧力と浸透圧との差(Δp−Δπ)にほぼ比例し,圧力を推進力として溶液を分離する点において精密濾過法や限外濾過法と共通するものであることは上記(4)のとおりである。


・・・


 そうすると,本件発明と引用発明2とは,中空糸膜フィルタの外側又は内側から浸透した水が中空糸膜フィルタの中空部を2方向に分かれて流れ,一方の水は取水管を通り,他方の水は取水管を通らずに同じ部位に集水されて排出される点で,流体の流れ方に係る構成は同じであるから,当業者は,引用発明1に引用発明2を適用することにより本件発明と同様の効果が得られることを把握できるものと認められる。


 したがって,引用例1及び引用例2から本件発明の顕著な作用効果を予測することができないとした審決の上記認定・判断は誤りというほかない。


 被告は,引用例2のような逆浸透法の装置では,半透性フィラメントの両端を開口しても,透水量が増加するという作用効果が得られないのであるから,このような作用効果が示唆されているなどということはあり得ない,引用発明2の装置は,透水量が増加するという本件発明の作用効果を奏さないから,引用発明2の装置から,本件発明の効果を予測することは不可能であるなどと主張する。

 しかし,引用発明2が逆浸透法の装置に関するものであっても,流体の流れ方に係る構成は本件発明と同じであり,当業者は引用発明2を適用することにより本件発明と同様の効果が得られることを把握できることは上記のとおりであり,被告の上記主張は採用することができない。

(6) 被告の「引用発明1に引用発明2を適用することが容易ではない」との主張について

 被告は,(i)引用例2においては「半透性フィラメントと非半透性フィラメントを交互に交叉させて層状とする構成」が必須の構成であり,また,膜モジュールの中心に配置された分散管から被処理液を供給して中空フィラメントの間隙を通過させることを必須とするものであるから,当業者が引用例2からこれらの構成を除外した発明を認識することは容易ではない,(ii)引用発明2の構成は,引用例2に記載された数多くの実施例のうちの1つの実施例のみに採用されているものにすぎず,あえてこの構成を抽出して,引用発明1に適用することは容易ではない,と主張する。

 確かに引用例2には,特許請求の範囲として,「半透性フィラメントと非半透性フィラメントを交互に交叉させて層状とする構成」(1欄「特許請求の範囲」1)が記載され,実施例として,膜モジュールの中心に配置された分散管から被処理液を供給して中空フィラメントの間隙を通過させること(3欄33行目〜4欄16行目,第2図,第10図)が記載されている。


 しかし,刊行物の記載中のいずれの部分を抽出して引用発明を認定するかは,審決において自由にすることができ,特許請求の範囲の記載や実施例の記載に限定されるわけではない。そして,引用例2(甲6)の上記(3)(ア)(i)ないし(iv)の記載及び第1図ないし第3図の図示から引用発明2を認定することができることは,上記(3)(イ)のとおりであり,被告の上記主張は採用することができない。


・・・

(8) 以上検討したところによれば,本件発明と引用発明1との相違点1は,引用発明2を引用発明1と組み合わせることによって当業者が容易に想到し得たものというべきであって,本件発明と引用発明1との相違点1についての審決の判断は,誤りというほかない。


3 以上のとおり,原告主張の取消事由には理由があり,審決は取消しを免れない。

 よって,原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとして,主文のとおり判決する。』

と判示しました。


 引用例同士で原理(本件では、濾過方法が圧力を推進力として溶液を分離する点)が共通し、かつ,課題(本件では、圧損の問題)が,本件特許出願当時,当業者において普遍的ないし周知の課題であれば、この課題を解決するためかかる複数の引用例を組み合わせるための動機付けは存在する、ということのようです。


追伸;
 今日、以前、受験資料を貸した知り合いから本年度弁理士試験合格のメールが来ました。その人は、まだ小さい子供が2人いる主婦でしかも働いており、正直、時間面などで環境的に厳しいと思っていたので、まさか受かると思わなかったので、とても驚きました。とにかく、おめでとうですね♪。

 もう一人、昔一緒に勉強をした受験仲間の結果が気になります。