●平成18(行ケ)10225 審決取消請求事件 商標権「LAB」

 今日は、『平成18(行ケ)10225 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「LAB」
平成18年09月21日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060921142210.pdf)について取り上げます。


 本件は、指定商品が第3類「化粧品,歯みがき,香料類」で「LAB」の文字を横書きした登録商標の不使用取消審決が知財高裁により取り消された事案で、1.通常使用権者による本件使用標章の使用、2.使用標章と登録商標との社会通念上の同一性、そして3.審決取消訴訟における新証拠の提出が争点になりました。


 つまり、知財高裁は、

『1.通常使用権者による本件使用標章の使用について
(1) 証拠(甲22ないし24)によれば,原告は,本件予告登録前である平成8年以降,現在に至るまで,エスティローダー社に対し,本件商標の通常使用権を許諾し,同社は,その通常使用権者であることが認められる。

(2) 証拠(甲5,7ないし9,11ないし19)によれば,エスティーローダ社が,本件予告登録前3年以内に,「アラミス ラボ シリーズ」と称する洗顔フォームその他の男性用化粧品を販売したこと,それらの男性用化粧品ラインナップに含まれる化粧品には,別紙2のとおりの「LAB」「SERIES」「FOR MEN」の各文字を三段に横書きしてなる本件使用標章が付されていること,同期間に作成,頒布されたエスティローダー社の取り扱いに係る男性用化粧品のパンフレットやそれらの商品を紹介する雑誌の記事にも本件使用標章が付された化粧品が掲載されていることが認められる。

 なお,本件予告登録後である平成18年2月にエスティローダー社が発行したパンフレット(甲10)には,「LAB」「SERIES」「SKINCARE FOR MEN」の各文字を三段に横書きしてなる本件関連標章が付された商品等が記載されている。

(3) 以上のとおり,本件商標の通常使用権者であるエスティローダー社は,本件予告登録前3年以内に,日本国内において,本件使用標章を商標として使用(商標法2条3項1号,8号)したことが明らかである。


2.本件使用標章と本件商標との社会通念上の同一性について
(1) 本件使用標章は,上記のとおり,「LAB」「SERIES」「FOR MEN」の各文字を三段に横書きしてなるものであり,いずれも同一書体により表示され,かつ,各文字の語頭は縦にそろうように配置されているが,「FOR MEN」の表示は,「LAB」と「SERIES」の表示に比べて小さい上,本件使用標章が取消請求に係る指定商品の「化粧品」に付された場合には,取引者・需要者は,それが「男性用化粧品」という商品の用途を示す標章であると認識,理解するものと認められる。したがって,本件使用標章の構成中の「FOR MEN」という部分には自他商品の識別力がないというほかはない。

(2) 次に,「LAB」と「SERIES」の各文字は,上記のとおり,いずれも同一書体により表示され,かつ,各文字の語頭は縦にそろうように配置されているが,各文字は段を違えて表示されているのであり,一列に併記した場合に比して,「LAB」と「SERIES」の一体性を希薄化させているばかりでなく,最上段にあってわずか3文字からなる「LAB」の部分を,これより字数が多く,やや文字が圧縮された感のある第二段の「SERIES」の部分より相対的に際立たせるものとなっている。

 また,「LAB」の語は,「実験室,研究室」等を意味する「laboratory」の略語である「lab」を大文字表記したものともいえるが,他の何らかの意味を表す既成の語あるいは造語であるとの理解も生じ得るところであり,一般的に,直ちに特定の観念を生じさせるものとまで断定することはできない。

 これに対し,「SERIES」の語は,「シリーズ」と読まれる平易な英語であって,「連続」,「続きもの」,「シリーズもの」の意味に認識され,それ自体としては,自他商品の識別機能は微弱である。加えて,証拠(甲26ないし69)によれば,化粧品の取引業界では,一つのブランド名で複数の商品ラインナップを発表し,そのラインナップに含まれる化粧品を「SERIES」「シリーズ」として総称することも広く行われていることが認められるから,本件使用標章の構成中,「LAB」と「SERIES」の語も,「LAB」の「シリーズ」という観念を生じさせるということができる。

 そうすると,本件使用標章は,取引者・需要者に対し,その構成中の「LAB」の部分が顕著な印象を与えるものであり,同部分に自他商品の識別力があると認めるのが相当である。

(3 ) 被告は,本件使用標章のうち,「LAB」と「SERIES」の文字は外観上不可分一体のものとして把握,認識されるものであることなどを理由に,本件使用標章と本件商標が社会通念上同一ではない旨主張する。

 しかしながら,上記(2)のとおり,本件使用標章は,その構成,外観,取引の実情等に照らし,「LAB」の部分に自他商品の識別機能を見いだすことができるのである。

 また,本件使用標章を付した商品のパンフレット(甲5,11,12)及び同商品を紹介した雑誌の記事(甲13ないし19)において,当該商品は「アラミス ラボ シリーズ」,「ラボ シリーズ」として紹介されているところ,「ラボ」と「シリーズ」の間には一字分の空白があるのであり,これらの記載をもって「LAB」と「SERIES」が不可分一体のものとして把握,認識されると認めるに足りず,その他取引の実情において,取引者・需要者において,「LAB」と「SERIES」を不可分一体のものとして把握,認識すると認めるに足りる証拠はない。

 なお,被告は,原告は,本件商標とは異なる「LAB SERIES」という商標の商標権者でもあるが,これは,原告自身,「LAB」と「LAB/SERIES」とが,同一の商標ではないと判断したことによるとか,エスティローダー社が使用する商標「LAB/SERIES」は,原告から使用許諾を受けた本件登録商標「LAB」ではないと主張するが,いずれも,上記(1),(2)の認定判断を妨げるものではない。

(4) 以上によれば,本件使用標章は,その構成中の「LAB」の部分が,独立して自他商品の識別機能を有していると認められるから,本件使用標章は,本件商標と社会通念上同一と認められる商標というべきである。


3. 審決取消訴訟における新証拠の提出について
 被告は,商標権者である原告が,不使用取消審判の段階において未提出の証拠(甲7ないし19)を本件訴訟に提出して,本件商標の使用の事実を主張することは許されない旨主張する。

 しかし,商標法50条2項本文は,商標登録の不使用取消審判の請求があった場合において,被請求人である商標権者が登録商標の使用の事実を証明しなければ,商標登録は取消しを免れない旨規定しているが,これは,商標権者が審決時において使用の事実を証明したことをもって,取消しを免れるための要件としたものではないから,登録商標の使用の事実の立証は,当該登録商標の不使用取消審決の取消訴訟における事実審の口頭弁論終結時に至るまで許されるものと解するのが相当である(平成3年最高裁判決参照)。以上の理は,現在の審決取消訴訟の実務において確立された取扱いとして定着しており,いまこれを変更する要をみない。被告の主張は,独自の見解にすぎず,採用することができない。

4 以上によれば,本件予告登録前3年以内に,本件商標の通常使用権者が,日本国内において,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を,取消請求に係る指定商品中の「化粧品」について使用していたことが認められる。

 したがって,原告主張の取消事由は理由があるから,審決は違法として取消しを免れない。

 よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。』

と判断しました。


 普段、商標の案件を取り扱わないせいか、本件等の商標の判決文の原告や被告の主張、そして裁判所の判断を読むと、商標実務上、特に、中間処理時における商標の自他商品識別力を生じる部分の判断や、不使用取消審判での答弁書における使用の立証等の点で、とても勉強になります。