●「平成17(ワ)2274 特許権侵害差止請求事件 東京地方裁判所」

 昨日紹介した、「平成17(ワ)2274 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 平成18年05月26日 東京地方裁判所http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060529092637.pdf について、興味のある判断をしていますので、少し紹介しておきます。

 この判決文の中で、東京地裁は、
「(イ) 原告は,フロックが破壊されるような実施は,本件明細書の記載に照らし本件発明1の目的を逸脱することになるから,クレーム解釈上,当然技術的範囲外とされるはずである旨主張する。
 しかしながら,特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定めるものであり(特許法70条1項),安易に特許請求の範囲に記載されていない限定を読み込むことはできないから,原告の上記主張は採用することができない。

・・・

 (エ) 確かに,公知技術の存在を理由に,公知技術を除外するようなクレーム解釈が事実上されることがないではない。しかしながら,そのほとんどは,侵害訴訟において特許無効の判断ができなかったこと等を理由として,特許権者を敗訴させるためのテクニックにすぎなかったものである。しかも,特許権者が勝訴する可能性がある事案でクレーム解釈の下にそのような限定解釈を行うことは訂正の時期的制限や内容的制限のために訂正による無効の回避ができず,全体として無効となるべき特許についてまで権利行使を肯定する結果を招くことになるしたがって本件発明1の有効性を維持することはクレーム解釈ではなく訂正手続により実現されるべきである。

(5) 本件発明1についてのまとめ
 ア 訂正の可否の考慮について
 訂正により本件発明1が無効とはならないと認められる場合には,特許法104条の3第1項にいう「当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとき」には当たらないとして,侵害訴訟である本訴において本件特許権に基づく権利行使を認める余地があるが,原告は訂正審判を申し立てる意思はないことを明言しているから,本訴においては,訂正により本件発明1が維持されるかの点については判断を示さないこととする。

 イ まとめ
 以上によれば,本件発明1は,特許法29条2項に該当する無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから(同法123条1項2号),原告は,被告に対し,本件特許権(本件発明1)を行使することができない(同法104条の3)。」(以上、本件判決文より抜粋。)
と判断しました。


 つまり、今回、東京地裁では、
(1)原告は、特許発明の技術的範囲を明細書の記載に基づいて解釈することは主張できない。
(2)原告は、本件特許発明の有効性を維持するためには、クレーム解釈ではなく、訂正手続により実現すべき。
 と判断したようです。


 本事件では、特許発明の技術的範囲を明細書の記載に基づいて解釈することは被告の抗弁事由であって、原告は特許発明の有効性を維持するためには訂正審判により行うべきであり、また、104条の3により原告の請求却下で、特許自体が無効になったわけではないので、訂正審判を請求して、再度、訴訟すべし、ということを示唆しているのでしょうか?


 尚、東京地裁には、知財事件を扱う部門が確か4部門ほどあり、それぞれ独自の判断をしているようなことを聞いたことがあるので、今回の判断は、東京地裁民事第40部に限る判断かもしれません。