●特許請求の範囲と、明細書との関係

 なお、5/13の日記で、「特許発明の技術的範囲を解釈する際、原則として明細書の記載を考慮するのか、それとも特許請求の範囲の用語の一義的に明らかでない場合のみ明細書の記載を考慮するのかについて、今回、東京地裁は後者を採用?している点(判決文または昨日の日記を参酌願います。)が個人的には他の侵害訴訟事件や特許法第1条等との関係で多少気にはなりますが」と書いたのは、昨年の9/9の日記に記載した通り、元東京高裁判事の濱崎浩一先生が「法律知識ライブラリー5 特許・知識・商標の基礎知識」(牧野利秋編 青林書院)の「38 特許発明の技術的範囲」の欄で記載している以下の考え方に、基づいたからです。


 『(ロ)次に、「第3項4項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。1 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」という規定(特36条第6項1号)に照らしても明らかなように、特許請求の範囲に記載された発明の内容は、発明の詳細な説明によって基礎づけられていなければいけないから、発明の内容を理解するためには、明細書中の他の記載を参酌することになる。特許侵害訴訟の実務では、従前からこのようにして特許発明の技術的範囲を定めていた(最高昭50.5.27裁判民115号1頁は、実用新案の事案に関するものであるが、「実用新案の技術的範囲は、登録請求の願書添付の明細書にある登録請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないのであるが、右範囲の記載の意味内容をより具体的に正確に判断する際の資料として右明細書の他の部分に記載されている考案の構造及び作用効果を考慮することは、なんら差し支えないものといわなければならない。」と判示している。)

  ・・・

 このように特許発明の技術的範囲を定めるには、特許請求の範囲のみならず、明細書全体の記載及び図面を参酌するのに対し、特許出願に係る発明の特許要件を審理する場合の発明の要旨の認定は、最判平3.3.8民集45巻3号123頁(※平成6年法改正により特許法第70条第2項の追加の一番の理由となったリパーゼ最高裁判決)が判示するとおり、「特段の事情がない限り、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。」と解すべきである。 特許発明の技術的範囲すなわち成立している特許権の効力の及ぶ客観的範囲を定める場合と、これから特許すべき発明の特許要件を審理する場合とで、その基準が異なることは当然のことといえよう。
(以上、「法律知識ライブラリー5 特許・知識・商標の基礎知識」から引用。」)


 元東京高裁判事の濱崎浩一先生がこのように書いている以上、推測ですが、東京高裁は、侵害訴訟では、以上のように判断していたのではないでしょうか?



 なお、平成7年7月1日以降出願された特許は、特許法第70条第2項があるので、特許発明の技術的範囲を確定する際、原則として、明細書等の記載を参照して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈することになります。


 ※「最高昭50.5.27裁判民115号1頁」とは、以前日記中でも述べた「オール事件」のことで、明細書中の記載を基に、実用新案登録請求の範囲を限定解釈した事件です。


追伸;<今日、参考になったニュース>
●『平成17年度産業財産権制度各国比較調査研究等事業報告書』
http://www.aippi.or.jp/japan/report.htm
・・・各国の早期審査・優先審査に関する調査結果が参考になります。



追伸;<今日、気になった判例>
●『平成17(ワ)5058 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟
平成18年05月12日 東京地方裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060516165711.pdf
・・・本事件では、「本件特許権は,特許法29条2項に該当する無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから(同法123条1項2号),原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない(同法104条の3)。」と判示し、原告の請求を棄却しました。特許ニュースか何かで読みましたが、無効審判を経由せず、104条の3の権利濫用による請求棄却は、結構、多いとのことです。