●昭和39(行ツ)110 「氷山印事件」昭和43年02月27日 最高裁判所第

 本日は、●『昭和39(行ツ)110 商標登録出願拒絶査定不服抗告審判審決取消請求 商標権 行政訴訟「氷山印事件」昭和43年02月27日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/C20EFADEA9BCA1F249256A850031236C.pdf)を再度取り上げます。


 つまり、本最高裁判決の内容は、次の通りです。


『                 主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
                  理    由

 上告代理人仁木立也、同鈴木茂、同江口俊夫の上告理由第一点について。
 商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。

 ところで、本件出願商標は、硝子繊維糸のみを指定商品とし、また商標の構成のうえからも硝子繊維糸以外の商品に使用されるものでないことは明らかである。従って、原判決が、その商標の類否を判定するにあたり、硝子繊維糸の現実の取引状況を取りあげ、その取引では商標の称呼のみによって商標を識別し、ひいて商品の出所を知り品質を認識するようなことはほとんど行なわれないものと認め、このような指定商品に係る商標については、称呼の対比考察を比較的緩かに解しても、商品の出所の誤認混同を生ずるおそれがない旨を判示したのを失当ということはできない。


 論旨は、これに対して、原判決は商号取引一般の経験則を商標の類否の判断に適用する過誤をおかしたものと非難するが、原判決は、硝子繊維糸の取引において、商標が商品の出所を識別する機能を有することを無視したわけではなく、そこには商標の称呼の類似から商品の出所の混同を生ずるというような一般取引における経験則はそのままには適用しがたく、商標の称呼は、取引者が商品の出所を識別するうえで一般取引におけるような重要さをもちえない旨を判示したものにほかならない。論旨は原判示を正解しないものというべきである。


 また論旨は、硝子繊維糸取引の実情に関する原判示をもって、それは実験則といえるほどの普遍性も固定性もないもので、新製品開発当初の特殊事情に基づく過去の一時的変則的な取引状況のように主張するが、原判決がその挙示の証拠および弁論の全趣旨によって適法に認定したところは、本件出願商標の出願当時およびその以降における硝子繊維糸の取引の状況であって、かつ、それが所論のように局所的あるいは浮動的な現象と認めるに足りる証拠もない。所論によっては本件出願商標の登録を拒否しえないものといわなければならない。


 なお論旨は、原判決は撤回された被上告人の主張と証拠に基づき硝子繊維糸の取引の実情を認定した違法があるというが、本件記録を精査するも、それが撤回されたものとは認められない。


 論旨は、いずれも採用できない。


 同第二点および第三点について。

 商標の外観、観念または称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、従って、右三点のうちその一において類似するものでも、他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によって、なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては、これを類似商標と解すべきではない。


 本件についてみるに、出願商標は氷山の図形のほか「硝子繊維」、「氷山印」、「日東紡績」の文字を含むものであるのに対し、引用登録商標は単に「しようざん」の文字のみから成る商標であるから、両者が外観を異にすることは明白であり、また後者から氷山を意味するような観念を生ずる余地のないことも疑なく、これらの点における非類似は、原審において上告人も争わないところである。そこで原判決は、上記のような商標の構成から生ずる称呼が、前者は「ひようざんじるし」ないし「ひようざん」、後者は「しようざんじるし」ないし「しようざん」であって、両者の称呼がよし比較的近似するものであるとしても、その外観および観念の差異を考慮すべく、単に両者の抽出された語音を対比して称呼の類否を決定して足れりとすべきでない旨を説示したものと認められる。


 そして、原判決は、両商標の称呼は近似するとはいえ、なお称呼上の差異は容易に認識しえられるのであるから、「ひ」と「し」の発音が明確に区別されにくい傾向のある一部地域があることその他諸般の事情を考慮しても、硝子繊維糸の前叙のような特殊な取引の実情のもとにおいては、外観および観念が著しく相違するうえ称呼においても右の程度に区別できる両商標をとりちがえて商品の出所の誤認混同を生ずるおそれは考えられず、両者は非類似と解したものと理解することができる。原判決が右両者は称呼において類似するものでない旨を判示した点は、論旨の非難するところであるが、硝子繊維糸の取引の実情に徴し、称呼比考察を比較的緩かに解して妨げないこと前叙のとおりであって、この見地から右の程度の称呼の相違をもってなお非類似と解したものと認められる右判示を、あながち失当というべきではない。


 論旨は、なお原判決が硝子繊維糸は商標の称呼のみによって取引されることがほとんどでないと認定したことおよび本件出願商標と引用登録商標の類否は単に両者の称呼の語音を抽出対比して決するだけでは足りるものでない旨を判示したことは、両商標の称呼自体も類似しないとする判断を支持する理由となるものではなく、却って相反撥矛盾するものと論ずる。しかし、所論の点について原判決の説く趣旨は、すべて前叙のとおりであって、そこにはもとより理由齟齬の違法も認められない。


 論旨は、いずれも理由がない。


 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    飯   村   義   美 』