●平成24(行ケ)10250 審決取消請求事件 商標権「ランカスター」

 本日は、『平成24(行ケ)10250 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「ランカスター」平成25年1月10日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130116160732.pdf)について取り上げます。


 本件は、不使用を理由とする商標法50条の取消審判の取消審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、商標法50条における本件商標の使用の有無についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 �癲部眞規子、裁判官 齋藤巌)は、


『2本件商標の使用の有無について

(1) 本件時計に係る取引状況

 前記1認定の事実,すなわち,?ドウシシャが原告の本件商標が付された時計についての日本における独占的販売店であること,?原告とドウシシャ間の請求書,貨物受領書及び送金依頼書の番号が同一であり,商取引契約書に基づいた本件時計の取引の一部が,平成21年5月15日には現実に行われたものといえること,?ドウシシャが作成したLANCASTERブランドの時計の提案書(甲3)は,平成23年7月26日以降に印刷されたものではあるものの,平成22年1月以降は,ユーロパッションが日本における販売代理店となっていることに照らすと,それ以前の時期に上記提案書が作成されたものと推認されること等を総合すれば,少なくとも,原告が,平成21年5月15日には,日本における独占的販売店であるドウシシャに対し,本件使用商標を付した本件時計を輸出し,同社が日本において本件時計に関する取引書類に本件使用商標を付した商品写真を掲載してこれを展示した事実が認められる。


(2)商標の同一性

ア本件商標は,別紙記載のとおり,LANCASTERの欧文字を横書し,その「ANCASTE」の部分に下線を引いた構成からなる。なお,「L」,「E」及び「R」の文字は,若干図案化されている。本件商標からは,「ランカスター」の称呼が生じる。


イ本件使用商標は,前記1(3)のとおり,2段に記載されており,「ITALY」は,イタリア製の商品であることを示すにすぎないから,本件使用商標からは,「ランカスター」の称呼も生じる。


 そして,本件使用商標の上段部分は,本件商標と外観においても類似するものである。


ウそうすると,本件商標と本件使用商標とは,少なくとも称呼において同一のものであり,外観においても社会通念上類似であるから,両者は社会通念上同一と認められる。


(3)商標の使用の有無

ア前記のとおり,イタリア法人である原告は,平成21年5月15日,日本における独占的販売店であるドウシシャに対し,本件使用商標を付した時計を輸出し,ドウシシャがこれを取引書類に付して展示していたものである。


商標法は,商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もって産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護することを目的とする(商標法1条)。


 したがって,商標法上の保護は,商標の使用によって蓄積された信用に対して与えられるのが本来的な姿であり,一定期間登録商標の使用をしない場合には保護すべき信用が発生しないか,又は発生した信用も消滅してその保護の対象がなくなるものと解される。


 商標法50条は,そのような不使用の登録商標に対して排他独占的な権利を与えておくのは国民一般の利益を不当に侵害し,かつその存在により権利者以外の商標使用希望者の商標の選択の余地を狭めることになるところから,請求によりこのような商標登録を取り消す趣旨の制度である。


 商標権は,国ごとに出願及び登録を経て権利として認められるものであり,属地主義の原則に支配され,その効力は当該国の領域内においてのみ認められるのが原則である。


 もっとも,商標権者等が商品に付した商標は,その商品が転々流通した後においても,当該商標に手が加えられない限り,社会通念上は,当初,商品に商標を付した者による商標の使用であると解される。


 そして,外国法人が商標を付した商品が,日本において独占的販売店等を通じて輸入され,国内において取引される場合の取引書類に掲載された商品写真によって,当該外国法人が独占的販売店等を通じて日本における商標の使用をしているものと解しても,商標法50条の趣旨に反することはないというべきである。


ウよって,本件においては,商標権者である原告が,原告の時計に本件使用商標を付し,日本国内において,独占的販売店であるドウシシャを通じて上記時計に関する取引書類に本件使用商標を付した商品写真を掲載してこれを展示したものであるから,本件商標と社会通念上同一の商標を使用(商標法2条3項8号)していたということができる。


(4)小括

 商標権者が,不使用取消審判の請求の登録前3年以内に日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが指定商品のいずれかについて登録商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。)の使用をしていることを証明した場合には,登録商標の取消しを免れることができるところ(商標法50条2項本文),以上のとおり,商標権者である原告又は通常使用権者であるドウシシャは,本件審判請求の登録前3年以内に,日本国内において,指定商品の1つである計時用具について,本件商標と社会通念上同一の商標を使用していたということができる。


3結論

 以上の次第であるから,原告主張の取消事由には理由があり,本件審決は取り消されるべきものである。』


と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。