●平成23(行ケ)10344 審決取消請求事件 商標権「いなば和幸」

  本日は、『平成23(行ケ)10344 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「いなば和幸」平成24年12月13日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121220111413.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標登録無効審判の棄却審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、商標法4条1項11号該当性の判断の誤り(取消事由2)および商標法4条1項15号該当性の判断の誤り(取消事由3)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 岡本岳、裁判官 武宮英子)は、


2 商標法4条1項11号該当性の判断の誤り(取消事由2)について

(1) 本願商標と引用商標の外観について

ア 本願商標

 本件商標は,別紙記載本件商標のとおり,「いなば和幸」の文字を明朝体で横書きしてなるものである。

イ 引用商標

(ア) 引用商標1は,別紙記載引用商標1のとおり,「とんかつ和幸」の文字を毛筆風の書体で横書きしてなるものである。


・・・省略・・・


(3) 判断

商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,同平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009号,前掲同平成20年9月8日第二小法廷判決)。


イ そこで,これを本件についてみると,本件商標は,上記のとおり,取引者,需要者から「いなば」と「和幸」とを結合したものとして認識され,結合商標に当たると解されるところ,前半の「いなば」の部分は,氏ないし地名として,一般的には,氏の1つとしての「稲葉」ないし地名の1つとしての「因幡」の読みを平仮名で表記したものと容易に理解,把握し得ることは上記のとおりである。


 そして,「いなば」の部分は,取引者,需要者から氏ないし地名に由来するものと認識されるものの,平仮名で表され,「稲葉」,「因幡」そのものではなく,また,指定役務「飲食物の提供」において一般に用いられている表示であるとも認められない上,後記のとおり後半部分の「和幸」の識別力が強く支配的であるとは認められないことに照らすと,本件商標がその指定役務「飲食物の提供」に使用された場合,その構成に対応して「イナバワコウ」の称呼が,その構成文字全体から「いなば(一般的には,「稲葉」の氏ないし「因幡」の地名)に関係した豚カツ料理店ないし飲食店の和幸」との観念が,それぞれ生じるものである。したがって,「いなば」の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないというのは相当でない。


 後半の「和幸」の部分については,「和幸」の文字を含む名称の豚カツ料理店ないし飲食店を想起させるものであると認められることは上記(2)アのとおりである。そして,原告らは,上記1(1)アの宣伝,広告を行っていたことが認められるが,他方,協和は昭和35年から,被告は昭和51年から,それぞれ「とんかつ和幸」の名称を使用して豚カツ料理店としての営業を開始していること(なお,被告は,別件和解において「平成八年一〇月末日限り,被告の営業するとんかつ屋の表示である「とんかつ和幸」に冠を付する等,原告の表示である「とんかつ和幸」と明確に区別できる表示(以下,「新表示」という。)に変更する」旨を約したこと伴い,平成8年ころからは,「いなば和幸」の名称と参考商標2の標章を使用している。),ミシュラン発行の2008年度版ミシュランガイドで2つ星に評価された懐石料理店「和幸」のほか,「和幸」の表示を含む店名の飲食店が全国に多数存在することに照らすと,「和幸」の表示を含む標章に接した取引者,需要者は,「和幸」の部分のみではいずれの事業主体に係るものであるかを認識することが困難であり,「和幸」の部分が,識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めることはできない。


ウ 以上のとおり,本件商標の構成中,「和幸」の部分が取引者,需要者に対し役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めることはできず,他方,「いなば」の部分から出所識別標識として固有の称呼を生じ,観念を生じ得るのであるから,本件商標の構成中「和幸」の部分だけを抽出して引用商標と対比することは許されないというべきである。


 そして,本件商標の構成部分全体と引用商標1,2を対比すると,両者は外観上「和幸」の文字において共通性を見いだし得るにすぎず,また,引用商標1の「とんかつ」の文字部分,及び引用商標2の「□」内に「とん」「かつ」の文字を配した部分はいずれも指定役務の対象そのものを表す語からなるものであることから,引用商標1,2からは「ワコウ」の称呼及び「「和幸」の文字を含む名称の豚カツ料理店ないし飲食店」の観念が生じるとしても,本件商標からは,「イナバワコウ」の称呼及び「いなば(一般的には,「稲葉」の氏ないし「因幡」の地名)に関係した豚カツ料理店ないし飲食店の和幸」の観念しか生じないのであるから,本件商標と引用商標1,2とは,外観,称呼及び観念のいずれの点においても異なるものである。


 したがって,本願商標と引用商標1,2は,役務における出所の誤認混同を生じるおそれはなく,類似しないというべきである。


エ 以上のとおり,本件商標は商標法4条1項11号に該当しないとした本件審決の判断に誤りはなく,原告らの取消事由2の主張は理由がない。


3 商標法4条1項15号該当性の判断の誤り(取消事由3)について

(1) 原告らは,当初は協和と共に「とんかつ和幸」の表示を使用していたが,昭和53年から引用商標2の使用を開始し,既存の店舗についても当該商標を統一的に使用してきたこと,平成11年頃から一般の新聞,スポーツ新聞,ラジオ等の広告を行い,平成19年2月からはJ1及びヤマザキナビスコカップにおける川崎フロンターレのアップシャツスポンサーとなり,原告らのロゴ(「とんかつ和幸」からなり,引用商標2において縦一列に配置された「□」「和」「幸」を横一列に配置したもの。)が表示されたアップシャツ等を着用した選手たちの試合がテレビ中継されるなどしてきたこと,原告らは,平成19年時点において関東地方の207店舗(東京都89店舗,神奈川県49店舗,埼玉県31店舗,千葉県27店舗,茨城県7店舗,群馬県及び栃木県各2店舗)を含め全国24の都道府県に272店舗(とんかつ惣菜店を含む。)を有しているが,これらの店舗においては引用商標2が表示されていることは,上記1(1)アのとおりである。上記事実によれば,引用商標2は,遅くとも本件商標の登録出願の時(平成19年9月19日)には,原告らの業務に係る役務である豚カツ料理の提供を表示する商標として,少なくとも関東地方における取引者,需要者の間には広く認識され,その周知性は登録査定時(平成20年6月3日)においても継続していたものと認められる。


 しかしながら,ミシュラン発行の2008年度版ミシュランガイドで2つ星に評価された懐石料理店「和幸」のほか,「和幸」の表示を含む店名の飲食店が全国に多数存在し,取引者,需要者は「和幸」の部分のみではいずれの事業主体にかかるものであるかを認識することが困難であり,「和幸」が識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めることはできないことは,上記1(3)のとおりである。したがって,原告らの役務を表示するものとして,引用商標2は,構成全体として取引者,需要者の間に広く認識されていたと認めることはできても,「和幸」の部分のみで原告らに係る標識として広く認識されていたと認めることはできない。


(2) そして,本件商標と引用商標2の構成全体とを対比すると,両商標は,外観,称呼及び観念のいずれの点においても異なるものであり,役務における出所の誤認混同を生じるおそれがない非類似の商標であることは,上記2(3)のとおりである。


 したがって,被告が本件商標をその指定役務「飲食物の提供」に使用しても,これに接する取引者,需要者が原告らに係る引用商標2を連想又は想起するものと認めることはできず,その役務が原告ら又は原告らと緊密な営業上の関係ないし同一の表示による事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る役務と混同を生じるおそれがあるということはできない。


(3) 原告らは,引用商標2,「和幸」に全国的な周知,著名性が認められると主張する。しかし,引用商標2が全国的に周知であるとしても,本件商標と引用商標2とが非類似の商標であり,また,「和幸」のみで原告らに係る標識として広く認識されていたと認めることができないことも上記(1)のとおりであるから,上記判断を左右しない。


 原告らは,本件商標と引用商標2との役務の関連性が強固であり,取引者,需要者も共通するから,広義の混同のおそれは極めて高いとも主張する。しかし,本件商標と引用商標2とは非類似の商標であるから,役務の関連性,取引者,需要者の共通性を考慮しても,広義の混同のおそれがあると認めることはできない。


(4) 以上検討したところによれば,本件商標は商標法4条1項15号に該当しないとした本件審決の判断に誤りはなく,原告らの取消事由3の主張は理由がない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。