●平成24(ネ)10016 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権

 本日は、『平成24(ネ)10016 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成24年7月18日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120809152117.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求控訴事件で、本件控訴が棄却された事案です。


 争点3(被控訴人は,本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権(特許法79条)を有するか)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 高部眞規子、裁判官 齋藤巌)は、


『1争点3(被控訴人は,本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権(特許法79条)を有するか)について


事案に鑑み,まず,争点3から判断を進めることとする。

(1)先使用に係る発明の成否について

 先使用による通常実施権が成立するには,まず,これを主張する者が特許出願に係る発明の内容を知らないで,当該特許出願に係る発明と同一の発明をしていること,あるいは,発明をした者から知得することが必要である(特許法79条)。そして,発明とは,自然法則を利用した技術的思想の創作であり(同法2条1項),一定の技術的課題(目的)の設定,その課題を解決するための技術的手段の採用及びその技術的手段により所期の目的を達成し得るという効果の確認という段階を経て完成されるものであるが,発明が完成したというためには,その技術的手段が,当該技術分野における通常の知識を有する者が反復継続して目的とする効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていることを要し,またこれをもって足りるものと解するのが相当である最高裁昭和49年(行ツ)第107号同52年10月13日第一小法廷判決・民集31巻6号805頁参照)。



(2)そこで,以上の観点から,被控訴人製品に係る発明が完成していたか否かを検討すると,前記前提となる事実及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。


 ・・・省略・・・


(3)以上のとおり,大阪ガスが開発したトルエン加水分解法は,BPEFの粗結晶を水とトルエンに溶かした後,不純物が溶けた水を取り除くと,BPEFのみが溶けたトルエンが得られ,これを精製して純度の高いBPEFを得るという方法であり,本件特許発明1とは異なるBPEFの製造方法であるところ,大阪ガス及び同社から平成11年4月頃にトルエン加水分解法を含んだBPEFの製造方法について開示を受けた被控訴人は,本件特許の優先権主張日である平成19年2月15日前に,本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFを少なくとも約30トン委託製造しているのであるから,被控訴人製品に係る発明は,その技術的手段が,当該技術分野における通常の知識を有する者が反復継続して目的とする効果を挙げることができる程度にまで具体的,客観的なものとして構成されていたということができる。


 したがって,被控訴人製品に係る発明は完成していたものと認められる。


(4)事業の実施について


 ・・・省略・・・


 以上の事実からすると,被控訴人による被控訴人製品の製造,販売は,その事業の実施に当たるものと認めるのが相当である。


 なお,被控訴人は,BPEFを原料とするOKP4の製造,販売もしていると主張するところ,OKP4の原料のサンプルとされたBPEFに本件特許発明2の技術的範囲に属すものが含まれていることは認められるものの(乙58の3,83の2),当該サンプルが実際にOKP4の製造に使用されていることを客観的に裏付ける証拠はなく,上記主張を採用することはできない。


 ・・・省略・・・


(5)通常実施権の成否について

 前記(2)イ(ア)のとおり,大阪ガスは,遅くとも,本件特許の優先権主張日の約8年前である平成11年3月頃から,本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFを製造していることからすれば,大阪ガスは本件特許発明2の内容を知らないで自らその発明をしたものであることは明らかであるということができる。また,前記(2)ア(ウ)のとおり,被控訴人は,大阪ガスから被控訴人製品に係る発明の内容を知得したものであることについても優に認めることができる。


 したがって,被告は,本件特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得し,優先権主張に係る先の出願の際現に日本国内において本件特許発明2の実施である事業をしていたことが認められるから,本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権を有するものというべきである。


(6)以上によれば,本件特許発明2に係る本件特許権に基づく原告の請求は理由がない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。