●平成23(行ケ)10292 審決取消請求事件 特許権「楽音生成方法」

 本日は、『平成23(行ケ)10292 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「楽音生成方法」平成24年6月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120629112601.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審決の棄却審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由1(補正要件に関する判断の当否)において「複数」の楽音を「単一」の音又は楽音と補正することが新規事項の追加には当たらないと判断した点で、とても参考になる事案と思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 池下朗、裁判官 古谷健二郎)は、


『1取消事由1(補正要件に関する判断の当否)について

(1)当初明細書(甲28)には,次の記載がある。


・・・省略・・・


(2)原告は,当初明細書に記載された,楽音波形を1サンプルずつ生成すると準備処理の負担が重くなるという課題は,同時に複数の音又は楽音が各発音チャンネルに割り当てられ,各発音チャンネルを切り換える場合に生じるのであって,単一の音又は楽音を発音する場合には,そのような課題は生じないから,当初明細書に記載された発明の技術的思想は,単一の音又は楽音を発生させる楽音生成方法を包含しないものであり,本件発明1及び7についてこれを包含するように補正することは新規事項の追加に当たる旨主張する。


 しかしながら,上記(1)の記載によれば,当初明細書に記載された発明は,演算処理装置を備える汎用処理装置により楽音を生成できるようにした楽音生成方法に関するものであり(段落【0001】),演算処理装置(CPU)が,アプリケーションプログラムを実行させて楽音を生成することに加えて,その他のアプリケーションプログラムを実行することも予定されているのであって(段落【0003】,【0004】),楽音を生成するアプリケーションプログラムの専属ではない。


 そうすると,単一の音又は楽音の波形を1サンプルずつ生成する場合であっても,1サンプリング周期の間に他のアプリケーションプログラム等の処理が行われる事態に備えて,その都度準備処理(事後処理も含む。)を実行する必要があるのであって,準備処理の負担が重くなるという課題は生じ得る。したがって,複数サンプル分をまとめて生成することで準備処理の負担を軽減するという当初明細書に記載された発明の技術的思想(段落【0013】)は,単一の音又は楽音を生成する場合においても発想されるものである。


 そして,当初明細書には,「…MIDIイベントが1つMIDI受信部において受信されると…」(段落【0030】)との記載があり,楽音が1つしか指定されない場合があり得ることが示されている。当初明細書の実施例に複数の楽音が指定された場合の処理が記載されているとしても,複数の楽音は1つ1つの楽音から構成されているものであって,複数の楽音が指定された場合に1つの楽音が指定された場合の記載が含まれるものと理解することができる。


 したがって,「複数」の楽音を「単一」の音又は楽音と補正することは,新規事項の追加には当たらない。


(3)原告は,当初明細書に記載された「楽音」は演奏情報により指定されたものであるのに対し,本件発明1の「音」についてはそのような限定がないから,請求項1において「楽音」を「音」と補正することは新規事項の追加に当たる旨主張する。


 しかし,複数サンプル分をまとめて生成することで準備処理の負担を軽減するという当初明細書に記載された発明の技術的思想(段落【0013】)は,請求項1における「指定」の対象が演奏情報によるものか,それ以外の何らかの情報によるものかとは無関係であり,当業者が,演奏情報以外の何らかの情報により音が指定された場合について,当初明細書に記載された発明の技術的思想の範囲内に含まれないと解すべき根拠はないから,演奏情報による楽音の指定を,何らかの情報による音の指定に補正することは,当初明細書に記載された事項の範囲内であるといえるのであり,「楽音」を「音」とする補正は,新規事項の追加には当たらない。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。