●平成23(行ケ)10240 審決取消請求事件 意匠権「印刷用はくり紙」

 本日は、『平成23(行ケ)10240 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟「印刷用はくり紙」平成23年12月15日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120110155551.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、本願意匠の創作容易性についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 高部眞規子、裁判官 齋藤巌)は、


『1 本願意匠の創作容易性について

(1) 意匠法3条2項について

 意匠法3条2項は,物品との関係を離れた抽象的なモチーフとして日本国内において広く知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(周知のモチーフ)を基準として,それからその意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に創作することができた意匠でないことを登録要件としたものであり,上記の周知のモチーフを基準として,当業者の立場からみた意匠の着想の新しさないし独創性を問題とするものである最高裁昭和45年(行ツ)第45号同49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁,最高裁昭和48年(行ツ)第82号同50年2月28日第二小法廷判決・裁判集民事114号287頁参照)。


(2) 本願意匠の認定

 本願意匠は,別紙第1の図面に記載されたとおりのものである。

 すなわち,意匠に係る物品は,写真等が印刷可能な印刷部を台紙から剥がし冊子状にして使用可能な「印刷用はくり紙」である(別紙第1「意匠に係る物品の説明」)。そして,本願意匠は,横長長方形状の台紙の表面に2段の横長帯状の印刷部(帯状印刷部)を設け,帯状印刷部には実線で囲まれた横長矩形状が2つずつ配され,その中央に縦方向にミシン目を設け,ミシン目は上下の余白部にも設けられたものである。なお,使用時には山折りにする縦の実線部や谷折りにする破線部のミシン目に沿って蛇腹状に折り曲げ,裏面を貼り合わせることにより,冊子状に形成できるものである(別紙第1「使用状態を示す参考図1,2」)。


(3) 引用意匠の認定

 引用意匠は,別紙第2の図面に記載されたとおりのものである。なお,本件審決の引用意匠の認定については,争いがない。


 すなわち,引用意匠は,写真等が印刷可能な印刷部を台紙から剥がし冊子状にして使用可能な「ミニアルバム用写真印刷用紙」に係る。引用意匠は,右に90度回転すると,横長長方形状の台紙の表面に4段の横長帯状の帯状印刷部を設け,帯状印刷部には,実線と破線で囲まれた横長隅丸矩形状が5つずつ配され,その中央に縦方向にミシン目を設け,5つのうち1段目と3段目の最も右側の横長隅丸矩形状は,中央に細帯状の表紙用の背当て部が設けられており,その余の横長隅丸矩形状は背当て部を有さないものである。また,使用時にはミシン目に沿って蛇腹状に折り曲げ,裏面を貼り合わせることにより,冊子状に形成できるものである。


(4) 本願意匠と引用意匠との対比

ア 上記(2)(3)によれば,本願意匠と引用意匠とは,以下の点において共通する。

(ア) 写真等が印刷可能な印刷部を台紙から剥がし冊子状にして使用可能な印刷用紙であり,使用時には折り目やミシン目に沿って蛇腹状に折り曲げ,裏面を貼り合わせることにより,冊子状に形成できるものである点
(イ) 横長長方形状の台紙の表面に,複数の横長帯状の帯状印刷部を設けている点
(ウ) 帯状印刷部には,複数の横長矩形状が配され,中央に縦方向にミシン目が設けられている点

イ また,上記(2)(3)によれば,本願意匠と引用意匠とは,以下の点において相違する。

(ア) 横長長方形状の台紙の表面に設けられた横長帯状の帯状印刷部について,本願意匠は,2段の帯状印刷部を設け,それぞれの帯状印刷部に2つの横長矩形状が配されているのに対し,引用意匠は,4段の帯状印刷部を設け,それぞれの帯状印刷部に5つの横長隅丸矩形状が配されている点
(イ) 横長矩形状について,本願意匠は,いずれも,実線で囲まれ,その中央に縦方向に上下の余白部までミシン目を設けたものであるのに対し,引用意匠は,帯状印刷部の輪郭が実線で囲まれ,1段目と3段目の最右のものには中央に細帯状の表紙用の背当て部が設けられており,それ以外は,いずれも隣接する横長隅丸矩形状との間及び中央に縦方向にミシン目を設けたものである点


(5) 創作容易性ア 帯状印刷部の段数及び構成について

 上記のとおり,引用意匠は,4段の帯状印刷部を設け,それぞれの帯状印刷部に5つの横長隅丸矩形状が配されているのに対し,本願意匠は,2段の帯状印刷部を設け,それぞれの帯状印刷部に2つの横長矩形状が配されている。

 本願意匠出願前に,さまざまな段数の帯状印刷部を設け,それぞれの帯状印刷部にさまざまな個数の横長矩形状が配されている印刷用台紙が存在し,横長矩形状にも四隅が隅丸のものも直角状のものも存在していたこと(乙1),そして,2段の帯状印刷部を設け,それぞれの帯状印刷部に四隅が直角状の2つの横長矩形状が配されている印刷用紙の態様があったこと(甲2)に照らせば,公知の引用意匠の上記構成から,本願意匠の上記構成を創作することに,着想の新しさないし独創性を見出すことはできず,当業者が容易に創作することができたものといわざるを得ない。

イ 横長矩形状について

 上記のとおり,引用意匠は,帯状印刷部の輪郭が実線で囲まれ,1段目と3段目の最右のものには中央に細帯状の表紙用の背当て部が設けられており,それ以外は,いずれも隣接する横長隅丸矩形状との間及び中央に縦方向にミシン目を設けたものであるのに対し,本願意匠の横長矩形状は,実線で囲まれ,いずれもその中央に上下の余白部まで縦方向にミシン目を設けたものである。


 本願意匠の実線とミシン目は,いずれも蛇腹状に折り曲げるための線であるところ(別紙第1「意匠に係る物品の説明」),実線とミシン目が折り方を区別する常套手段であることは,原告が自認するところである。そして,印刷用紙の分野においては,折り畳みのための山折りと谷折りを区別するために,その指示線を区別して表すことは,本願意匠の出願前から写真用アルバム作成用の印刷用用紙として既に行われていることである(乙6)。また,ミシン目を実線にすること及びミシン目を上下の余白部まで設けることは,当業者にとって,容易に創作することができる事項であり,さらに,背当て部を設けた引用意匠からそれをなくした本願意匠に想到し創作することにも,格別の困難は見当たらない。


ウ 小括

 そうすると,横長長方形状の台紙の表面に,4段の横長帯状の帯状印刷部を設け,それぞれの帯状印刷部に5つの横長隅丸矩形状が配され,帯状印刷部の輪郭が実線で囲まれ,1段目と3段目の最右の横長隅丸矩形状には中央に細帯状の表紙用の背当て部が設けられており,それ以外は,いずれも隣接する横長隅丸矩形状との間及び中央に縦方向にミシン目を設けた公知の意匠から,2段の帯状印刷部を設け,それぞれの帯状印刷部に2つの横長矩形状が配され,いずれもその中央に上下の余白部まで縦方向にミシン目を設けた本願意匠を創作することは,いわばその一部を切り取って横長矩形状の隅丸を直角状にし,ミシン目の一部を上下の余白部まで設け,又は実線に変更する程度のものであり,その意匠の全体から見ても,本願意匠出願時の当業者の立場からみて意匠の着想の新しさないし独創性があるとはいえず,容易に創作することができたものというべきである。


 よって,本願意匠は,意匠法3条2項に該当する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。