●平成21(ワ)4998 著作権侵害等に基づく損害賠償等請求事件

 本日は、『平成21(ワ)4998 著作権侵害等に基づく損害賠償等請求事件 名古屋地方裁判所 民事第9部 平成23年9月15日』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111121131356.pdf)について取り上げます。


 本件は、著作権侵害等に基づく損害賠償等請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、著作権侵害の有無についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、名古屋地裁(民事第9部 裁判長裁判官 増田稔、裁判官 松本明敏、裁判官 山 田亜湖)は、


『2 著作権侵害の有無について

(1) 著作物の複製(著作権法21条)とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいう最高裁昭和50年(オ)第324号同53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁参照)。また,著作物の翻案(同法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的な表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号),既存の著作物に依拠して創作された著作物が思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,複製にも翻案にも当たらないと解するのが相当である最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。



(2) ところで,本件における原告各書籍及び本件各書籍のような法律問題の解説書においては,関連する法令の内容や法律用語の意味を整理して説明したり,法令又は判例,学説によって当然に導かれる一般的な法律解釈や実務の運用等を解説するなどし,それらを踏まえた見解を記述することが不可避である。しかるに,既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との同一性を有する部分が,法令や通達,判決,決定等である場合には,これが著作権の目的とすることができないものである以上(同法13条参照),当該法令等の記述そのものが複製,翻案となることはないのはもちろん,同一性を有する部分が,法令や判決等によって当然に導かれる事柄である場合にも,創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえないから,当該部分に係る記述も複製,翻案には当たらないと解すべきである。


 また,手続の流れや法令の内容等を法令の規定や実務の取扱いに従って図示したり図表にすること,さらには,手続上通常用いられる書面の書式を掲載することはアイデアの範ちゅうに属することであり,これを独自の観点から分類し,整理要約したなどの個性的表現がされているといった格別の場合でない限り,そのような図示,図表や書式は,創作的に表現した部分において同一性を有するものとはいえないから,複製,翻案に当たらないと解すべきである。


 さらに,同一性を有する部分が,ある法律問題に関する筆者の見解又は一般的な見解である場合にも,思想ないしアイデアにおいて同一性を有するにすぎないから,一般の法律書等に記載されていない独自の観点からそれを説明する上で通常用いられる表現にとらわれず,独自の表現を用いて整理要約したなど表現上の格別の工夫がある場合でない限り,複製,翻案に当たらないと解される。


 そして,ある法律問題について,関連する法令等の内容や法律用語の意味を説明し,一般的な法律解釈や実務の運用等を記述する場合には,確立した法律用語をあらかじめ定義された用法で使用し,法令等又は判例等によって当然に導かれる一般的な法律解釈を説明しなければならないという表現上の制約がある。そのため,これらの事項について説明する場合に,条文の順序にとらわれずに,独自の観点から分類し,通常用いられる表現にとらわれず,独自の表現を用いて整理要約したなど表現上の格別の工夫がある場合でない限り,筆者の個性が表れているとはいえないから,著作権法によって保護される著作物としての創作性を認めることはできず,複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。

(3) 原告各書籍は,前提事実,証拠(甲1,2,12,13)及び弁論の全趣旨によれば,過払金の回収方法を,弁護士,司法書士や,過払金を回収する債務者本人等を対象として,過払金の説明,法的問題点,裁判例の分析,貸金業者との交渉方法,過払金返還請求訴訟の開始から終わり方等の説明に加えて,実務にのっとった説明を盛り込み,フローチャート,表,書式等を用いるなどして,効率的に理解できるようにしたものであり,これらのことを踏まえれば,原告各書籍を全体として見れば,著者の思想を創作的,個性的に表現した著作物であると認めることのできるものとなっている。しかし,法律問題の解説書については,表現上の創作性について制約があるのは前記(2)のとおりであり,以下,前記(2)の観点から,本件各表現が原告各表現の複製又は翻案に当たるか否かを検討する。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。