●平成22(ワ)1360261 損害賠償請求事件 不正競争防止法 

 本日は、『平成22(ワ)1360261 損害賠償請求事件 不正競争防止法 平成23年06月23日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110627113741.pdf)について取り上げます。


 本件は、不正競争防止法に基づく損害賠償請求事件でその請求が棄却された事案です。


 本件では、争点(1)および(2)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 森崎英二、裁判官 達野ゆき、裁判官 網田圭亮)は、


『1争点(1)について

(1) 原告は,「一葉」(半懐紙版,半紙版)は,色彩や模様の選択,50枚を一組として販売している点に特徴があり,その商品形態は,不正競争防止法2条1項1号にいう商品等表示性を有している旨主張する。


 ところで商品の形態は,本来的には,商品としての機能・効用の発揮や商品の美観の向上等のために選択されるものであり,商品の出所を表示する目的を有するものではない。しかし,特定の商品の形態が独自の特徴を有し,かつ,この形態が長期間継続的かつ独占的に使用されるか,又は短期間でも強力な宣伝等が伴って使用されることにより,その形態が特定の者の商品であることを示す表示であると需要者の間で広く認識されるようになった場合には,当該商品の形態が,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」として保護されることがあり得ると解される。


(2) そこで,「一葉」(半懐紙版,半紙版)の商品形態が,上記の観点から商品等表示性を取得しているか検討すべきところ,以下のとおり「一葉」(半懐紙版,半紙版)の商品形態として原告の主張する色彩や模様の選択,50枚を一組として販売している点については,いずれも独自の特徴であるとはいえず,その商品形態に商品等表示性を認めることはできない。


アすなわち,「一葉」(半懐紙版,半紙版)には,原告の主張するとおり比較的落ち着いた色合いの色彩(小豆色,灰色,緑灰色,橙色及び濃緑灰色)が選択されているといえるが,証拠(乙10ないし12)によれば,市販されている他の書道用和紙(商品名「蜻蛉」,「花衣」,「草まくら」)においても,全く同一ではないにせよ,概ね同じ系統の色彩が選択されていると認められる(商品名「蜻蛉」[乙10]では,灰色系,緑色系,橙色系の色彩が,商品名「花衣」[乙11]では,緑色系の色彩が,商品名「草まくら」[乙12]では,緑色系の色彩がそれぞれ選択されている。)。したがって「一葉」(半懐紙版,半紙版)に用いられた色彩は,書道用和紙としては一般的なものといえ,これらの色彩の選択をもって,他の同種商品と比較して独自の特徴であると認めることはできない。


イまた,「一葉」(半懐紙版,半紙版)は,その地に唐草柄あるいは格子柄などの模様を用い,適宜の箇所にぼかしを加えることによって模様が表面の適宜の部分に浮かび上がるようにされているほか,縦横に薄い線が入れられているが,そもそも,模様については,いずれも市販された見本帖である「唐紙紋様型見本帖」(乙6の1ないし6)からそのまま写し取ったものであるから,各模様そのものが商品として独自の特徴であるということはできない。また,ぼかしによって模様を一部だけに配するようにされている点や,縦横に薄い線が入っている点についても,同様の手法は,他の書道用和紙(商品名「蜻蛉」,「花衣」,「草まくら」)においても用いられていると認められるから(乙10ないし12),ぼかしの大きさや加える箇所の違いによって模様の配され方が商品ごとに異なってくるとしても,「一葉」(半懐紙版,半紙版)と前掲の他の書道用和紙(商品名「蜻蛉」,「花衣」,「草まくら」)との間で,際だった違いがあるとはおよそ認められない(なお,上記のとおり,「一葉」には比較的落ち着いた色合いの色彩が選択されており,それゆえに,ぼかしの大きさや箇所の違いは,看る者にそれほど強い印象を与えるものではないといえる。)。したがって,「一葉」(半懐紙版,半紙版)に用いられた模様(ぼかしを使った配置のされ方も含む。)について,他の商品から峻別されるような独自の特徴があるとはいうことはできない。
なお,「一葉」(半懐紙版,半紙版)には,金銀砂子が漉き込まれているが,このように金銀砂子を入れる手法についても,他の書道用和紙(商品名「蜻蛉」,「花衣」,「草まくら」)において採られており(乙10ないし12),一般的な装飾の手法と認められるから,やはり独自の特徴とはいえない。


ウさらに,「一葉」(半懐紙版,半紙版)が50枚一組で販売されている点については,書道用和紙をある程度の単位数にまとめて販売すること自体ありふれたものである上,他の書道用和紙(商品名「蜻蛉」,「草まくら」)においても,50枚一組で販売されていると認められることからすると(乙10,12。特に,商品名「草まくら」[乙12]については,「一葉」(半懐紙版,半紙版)と同様に,5色10枚ずつ計50枚を一組として販売されている。),そのような点に商品の特徴を見い出すことはできない。


エ以上のとおり,「一葉」(半懐紙版,半紙版)の商品形態には,書道用和紙として工夫された点があることは否定できないものの,いずれも他の書道用和紙一般にみられる範囲のものであり,上記工夫点をもって「一葉」(半懐紙版,半紙版)独自の特徴とみることはできない。


 したがって,「一葉」(半懐紙版,半紙版)の商品形態には商品等表示性があるものと認めることはできないから,原告の不正競争防止法に基づく請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。


2争点(2)について

(1)原告は,被告による「はる風」(半懐紙版,半紙版)の製造販売が,不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当しないとしても,被告が,他の被告商品も含めて製造販売した行為が,民法709条の不法行為を構成する旨主張する。


 確かに,被告商品を構成する個々の書道用和紙は,いずれも原告商品をスキャナーでコンピュータに取り込んで製造されたものであるため,その模様(ぼかしを使った配置のされ方も含む。)は全く同じであり,色彩も若干色合いが異なるものの,同じものが用いられている上,被告商品は,いずれも対応する大きさの原告商品と同じく,五通りの色彩及び模様の組合せの書道用和紙を同じ枚数組み合わせて販売されているのであるから,被告商品は,原告商品のいわゆるデッドコピー品で,「他人の商品の形態を模倣した」(不正競争防止法2条1項3号)商品に当たり,その製造販売行為は,同号の不正競争に該当し得る。


 しかしながら,原告商品を模倣する被告商品の製造販売行為が開始されたのは,「一葉」が最初に販売されてから約18年が経過した後であることから,不正競争防止法19条1項5号イにより,上記行為は同法3条1項に基づく差止請求権はもとより,同法4条に基づく損害賠償請求権の対象とはならないものである。


 ところで,不正競争防止法が,商品形態の模倣行為を不正競争として違法と評価する一方,不正競争防止法上の救済手段を与える期間を限定している立法趣旨は,もともと同法2条1項3号による規制の目的が,先行開発者の成果を模倣者がデッドコピーすることにより生じる競争上の不公正を是正することにあり,より具体的には,先行開発者が投下した資本の回収機会をその開発者に確保させることにあると解され,その反面として,投下資本の回収を終了し,通常期待し得る利益をあげた後については,デッドコピー品の製造販売行為であっても,競争上の不公正が直ちに生じるものではないから違法とは評価できないとの考えによっているものと解される。


 このように,不正競争防止法という特別法によって,商品形態の模倣行為について違法評価をした上で,その救済手段を与える期間を限定していることからすると,上記期間経過後については,商品形態の模倣行為がされたとしても,それが不正競争防止法における類型的な違法評価を超えるような違法評価がされるべきもの,たとえば著しく不公正な手段を用いて他人の営業活動上の利益をことさらに侵害し,その結果看過できない損害を与えたというような公正な自由競争秩序を著しく害するような特段の事情が認められるものでない限り,一般不法行為法上も違法とは評価できないものと解するのが相当である。


(2)そこで,以上の観点を踏まえて本件についてみると,以下の認定判断に示すとおり,被告が,原告商品のデッドコピー品である被告商品の製造販売をするようになった経緯及びそこから窺える被告の意図,あるいは被告の行為によりもたらされた原告商品の販売に対する影響などの諸般の事情を総合考慮しても,上記特段の事情は認められず,商道徳上の問題はともかく,一般不法行為民法709条)における違法性があると評価することはできないものというべきである。


(3)アすなわち,被告商品「雲彩」の販売に至る経緯をみるに,被告は,平成20年,取引先の文寶閣から,文寶閣が既に商品として取り扱っていた原告商品「雲彩」(乙1)を示された上で,同商品を参考として,より色が薄く墨跡が映えるような和紙の製造を依頼され,そのことを契機として,原告商品「雲彩」のデッドコピー品である被告商品「雲彩」を下請会社に製造させ,同年10月から,文寶閣に対して販売を開始したものと認められる(弁論の全趣旨)。


 したがって,被告には,被告商品「雲彩」の製造に当たり,原告商品「雲彩」をデッドコピーする認識があったことは否定できないものの,上記のような経緯からすると,それは競業者の人気商品を模倣して安易に商品の開発を行い,これによって不当な利益を得ようとしたものではなく,被告としては単に取引先の注文に応じて,その注文の商品を製造して販売しただけとも見られるのであって,その経緯において,不公正な手段が用いられたわけではなく,また少なくとも原告商品「雲彩」の製造元の利益をことさらに侵害しようとする積極的な意図があったと認めることはできない。


 なお,被告は,平成22年1月以降,被告商品「雲彩」につき,商品名を「はる風」として,文寶閣を介さず一般の市場において販売しているが,これは,被告商品「雲彩」について,下請会社から,取引量を増やさないと,そのままの発注価格で製造を継続するのは困難である旨の申し出があったことを受け,文寶閣の希望価格による販売供給を継続するために,ロット数を増やし,同じ商品を「はる風」として,文寶閣以外に販売するようになったものと認められる(弁論の全趣旨)。そしてさらに,被告は,「はる風」の半懐紙版について,商品名を「京の仮名料紙」として販売しているが,これも特定の顧客からの要望に応じたにすぎず(弁論の全趣旨),いずれについても,不公正な手段が用いられたわけではなく,また原告商品「雲彩」の製造元の利益をことさらに侵害しようとする積極的な意図が認められるわけではない。


イまた,被告商品の販売等によって生じた原告商品の販売に対する影響についてみても,被告が文寶閣に被告商品「雲彩」を販売するようになった平成20年10月頃に,文寶閣は原告商品「雲彩」の取引をやめたことが認められるものの(弁論の全趣旨),上記のとおり,被告が取引を開始したのは,文寶閣からの依頼を受けた結果であり,被告が,文寶閣に対して原告商品「雲彩」のデッドコピー品を売り込んで,原告の販路を奪ったような事実は認められない。そうである以上,原告商品「雲彩」の売上減少は,文寶閣が取引先を変更したことによるものといえるのであって,被告の行為によってもたらされたものといえないことは明らかである(原告は,被告と文寶閣が共謀していた可能性に言及するが,そのような事実をうかがわせる証拠はない。)。


 なお,文寶閣を介しない一般の市場においては,同じ色彩及び模様の組合せである原告商品(「一葉」)と被告商品(「はる風」,「京の仮名料紙」)が競合商品として販売されている関係にあるが,上記1(2)のとおり,原告商品及び被告商品の色彩及び模様の組合せは,他の同種商品と比較して独自の特徴とは認められず,類似する範囲にまで目を向ければ,原告商品ないし被告商品と同様の商品は市場に多く出回っている。そもそも,被告商品と原告商品とでは,商品名はもとより,商品名を記載したラベルの形状も明らかに異なっているし,現に需要者において原告商品と被告商品間の誤認混同が生じている事実を認めるに足りる証拠もない。したがって,原告商品と被告商品の色彩及び模様が同じであるからといって,これによって市場における競争が不正に歪められ,そのため原告に損害が生じたということはできない(なお,被告商品「雲彩」のラベルの形状,記載等は必ずしも明らかではないが,被告商品「雲彩」は文寶閣に納品された後,文寶閣のブランド名で販売されていた商品であると認められ[弁論の全趣旨],このことからすれば,いずれにしても,需要者において,出所に係る誤認混同が生じているとはいえない。)。


ウ原告は,被告がデッドコピー品を販売したことにより,原告の信用低下が生じているとも主張するところ,そもそもいかなる機序で信用低下が生じるのか,主張自体から明らかでないが,その点をおいても,上記のとおり,市場における誤認混同の事実も認められない以上,被告商品の販売が原告の信用低下を生じさせるものであると認めることはできない。


エ以上のとおりであって,被告商品は,原告商品のデッドコピー品であることは指摘できるものの,被告が,その販売等に当たって,著しく不公正な手段を用いて原告の営業活動上の利益をことさらに侵害した事実は認められないし,また,その行為によって,原告が看過できない損害を与えられた事実を認めることもできない。


(4)したがって,被告の行為は,不正競争防止法2条1項3号に該当する行為であるといい得るけれども,既に同法19条1項5号イの期間を経過しているところ,公正な自由競争秩序を著しく害するような特段の事情は認められず,不正競争防止法における類型的な違法評価を超えるような違法評価がされるべきものとはいえないから,これについて,一般不法行為法上,違法であると評価することはできない。


 よって,原告の一般不法行為に基づく請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。