●平成21(ワ)6755 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟

 本日は、『平成21(ワ)6755 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 平成22年12月16日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101227182046.pdf)について取り上げます。


 本件は、不正競争行為差止等請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、争点1(原告商品陳列デザインは周知又は著名な原告の営業表示であるか)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 森崎英二、裁判官 達野ゆき、裁判官 山下隼人)は、

『1 争点1(原告商品陳列デザインは周知又は著名な原告の営業表示であるか)について

(1)ア原告は,原告商品陳列デザイン1ないし3は,いずれも他店にない独自のものであって本来的な識別力があり,またベビー・子供服販売の業界トップの原告が長年にわたり使用してきたことから,二次的出所表示機能も十分獲得しているとした上で,主位的にはそれぞれ独立して,第1次予備的に原告商品陳列デザイン1及び2の組み合わせにより,第2次予備的に原告商品陳列デザイン1ないし3の組み合わせにより,原告の営業表示として周知又は著名であることを前提に,被告の行為が不正競争防止法2条1項1号又は2号に定める不正競争に該当する旨を主張している。


 本件における原告の不正競争防止法に基づく主張が認められるためには,主張に係る原告商品陳列デザインが,不正競争防止法2条1項1号又は2号にいう商品等表示(営業表示)であることがまず認められなければならないが,そもそも商品陳列デザインとは,原告も自認するとおり「通常,いかに消費者にとって商品を選択しやすく,かつ手にとりやすい配置を実現するか,そして,如何に多くの種類・数量の商品を効率的に配置するか,などの機能的な観点から選択される」ものであって,営業主体の出所表示を目的とするものではないから,本来的には営業表示には当たらないものである(なお被告は「商品, 陳列方法」と称すべき旨主張しているが,本件で問題であるのは,特定の陳列方法を用いた商品陳列の結果として作り出される商品陳列の外観であるから,以下においては,その意味で,原告の表現に従った「商品陳列デザイン」という表現を用いる。)。


しかし,商品陳列デザインは,売場という営業そのものが行われる場に置かれて来店した需要者である顧客によって必ず認識されるものであるから,本来的な営業表示ではないとしても,顧客によって当該営業主体との関連性において認識記憶され,やがて営業主体を想起させるようになる可能性があることは一概に否定できないはずである。


 したがって,商品陳列デザインであるという一事によって営業表示性を取得することがあり得ないと直ちにいうことはできないと考えられる。


ウただ,商品購入のため来店する顧客は,売場において,まず目的とする商品を探すために商品群を中心として見ることによって,商品が商品陳列棚に陳列されている状態である商品陳列デザインも見ることになるが,売場に居る以上,それと同時に什器備品類の配置状況や売場に巡らされた通路の設置状況,外部からの採光の有無や照明の明暗及び照明設備の状況,売場そのものを形作る天井,壁面及び床面の材質や色合い,さらには売場の天井の高さや売場の幅や奥行きなど平面的な広がりなど,売場を構成する一般的な要素をすべて見るはずであるから,通常であれば,顧客は,これら見たもの全部を売場を構成する一体のものとして認識し,これによって売場全体の視覚的イメージを記憶するはずである。


 そうすると,商品陳列デザインに少し特徴があるとしても,これを見る顧客が,それを売場における一般的な構成要素である商品陳列棚に商品が陳列されている状態であると認識するのであれば,それは売場全体の視覚的イメージの一要素として認識記憶されるにとどまるのが通常と考えられるから,商品陳列デザインだけが,売場の他の視覚的要素から切り離されて営業表示性を取得するに至るということは考えにくいといわなければならない。


 したがって,もし商品陳列デザインだけで営業表示性を取得するような場合があるとするなら,それは商品陳列デザインそのものが,本来的な営業表示である看板やサインマークと同様,それだけでも売場の他の視覚的要素から切り離されて認識記憶されるような極めて特徴的なものであることが少なくとも必要であると考えられる。


(2) そこで原告商品陳列デザインが,以上のような極めて特徴的なものであり,ひいては営業表示性を有すると認めることができるのか検討する前提として,原告店舗における営業そのものから他店における商品陳列デザイン等について見てみると,証拠(各項末尾に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。


 ・・・省略・・・


(オ) 上記(イ)ないし(エ)で検討してきたところによれば,アンケート調査で回答者に示された写真は,被写体を売場の一部に限定したものであって,そのためアンケート回答者は店舗を現実に訪れたときとは全く異なる方法で売場内を認識し,その限られた情報に基づいて売場の他の視覚的構成要素を記憶ないし想像で補って当該店舗の営業主体を選択することを余儀なくされるため,その回答結果の信頼性には一定の限界があることは否定できないが,少なくとも,原告が主張する商品陳列デザインが,原告という営業主体を想起する上で一定の役割を果たしていることは否定できないと思われる。


 しかしながら,指摘した写真の被写体の違いとなって表れているそれ以外の売場の特徴,とりわけ原告が会社案内に店内の特徴として掲げている特徴(上記(2)オ(ウ))のみならず,マネキンや子供のイメージ写真などの装飾的要素が存在しないことも原告の売場を想起させる上で一定の役割を果たしていることも明らかに認められるということができる(また,上記(エ)の検討結果からは,低価格帯の商品を提供する原告においては,下二桁を「99円」とする特徴的な価格設定が営業主体としての原告との関係で顧客に強く印象づけられている様子もうかがえるところである。)。



 そうすると,このアンケート結果からは,原告店舗を訪れる顧客が売場の様子から原告を想起することができるようになっていたとしても,それは商品陳列デザインだけではなく売場内の他の構成要素も一体のものと認識して,そこから空間的広がりや色合い明るさなども含めて顧客が原告独自の売場全体のイメージを記憶している結果を示していると見る余地さえあるということができる。


 したがって,このアンケート結果に基づいて,原告商品陳列デザイン1ないし3だけが売場内の他の視覚的要素から切り離され,本来的営業表示である看板やサインマーク同様の営業表示性を取得していると判断することはできないといわなければならない(なお,このアンケート(甲47)の調査目的は,「消費者がベビー・子供服売場から想起するチェーン店名を調査する。」というものであって,商品陳列デザインに限っての消費者の認知の程度を特に調査対象としたものではなく,現に示された各写真は上記のとおりであるから,そもそもこのアンケート結果から,消費者がチェーンごとに,その商品陳列デザインをどのように認識し記憶しているかを分析検討するには無理があるといわなければならない。)。


 エなお仮に,原告商品陳列デザインが,それ自体で売場の他の構成要素から切り離されて認識記憶される対象であると認められる余地があったとしても,原告商品陳列デザインは,以下に述べるような観点に照らし,不正競争防止法による保護が与えられるべきものではないというべきである。


 すなわち,上記(2 )エ認定の事実によれば,原告において売上増大を目的としてされた商品陳列デザイン変更の到達点として確立した原告商品陳列デザインは,商品の陳列が容易となるとともに,顧客が一度手にとった商品を畳み直す必要がなくなり,見やすさから顧客自らが商品を探し出し,それだけでなく高いところの商品であっても顧客自らが取る作業をするので,そのための店員の対応は不要となり,結果として少人数の店員だけで店舗運営が可能となって,店舗運営管理コストを削減する効果を原告にもたらし,原告事業の著しい成長にも貢献しているものと認められるのであるから,原告商品陳列デザインは,原告独自の営業方法ないしノウハウの一端が具体化したものとして見るべきものである。


 そうすると,上記性質を有する原告商品陳列デザインを不正競争防止法によって保護するということは,その実質において,原告の営業方法ないしアイデアそのものを原告に独占させる結果を生じさせることになりかねないのであって,そのような結果は,公正な競争を確保するという不正競争防止法の立法目的に照らして相当でないといわなければならない。


 したがって,原告商品陳列デザインは,仮にそれ自体で売場の他の視覚的構成要素から切り離されて認識記憶される対象であると認められたとしても,営業表示であるとして,不正競争防止法による保護を与えることは相当ではないということになる。


(4) 以上によれば,原告商品陳列デザインが営業表示に当たることを前提とする原告の被告に対する不正競争防止法に基づく請求は,その余の判断に及ぶまでもなく理由がないというべきである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。