●平成22(ワ)4770 意匠権侵害差止等請求事件 意匠権「長柄鋏」

 本日は、『平成22(ワ)4770 意匠権侵害差止等請求事件 意匠権「長柄鋏」平成22年12月16日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101221093055.pdf)について取り上げます。


 本件は、意匠権侵害差止等請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、修正混同説(創作的混同説)を採用しての意匠の類似の判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第26民事部 裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 達野ゆき、裁判官 北岡裕章)は、


『1 争点1(被告意匠の形態が本件登録意匠の形態と類似するか)について

(3) 本件登録意匠の要部

 登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものである(意匠法24条2項)。したがって,その判断に当たっては,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して,需要者の注意を惹き付ける部分を要部として把握した上で,両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察し,全体として美感を共通にするか否かを判断すべきである。


 そこで,まず,本件登録意匠の要部について検討する。


ア長柄鋏の性質,用途,使用態様等

 本件登録意匠に係る物品である長柄鋏は,枝の剪定作業等を行うためのものであり,柄を長くしたことにより,脚立等を使用せずに,高所等手の届きにくい箇所の剪定作業等を可能にする実用品である。


 そして,需要者は,長柄鋏を使用する際,すなわち剪定作業等をする際には,長柄鋏の刃を剪定しようとする枝の方向に近づけて剪定するのであるから,必然的に長柄鋏の刃の部分に注目することになる。また,需要者が長柄鋏を購入する際には,どの程度の太さの枝が剪定できるか,またどの程度の高さにある枝が剪定できるかを考慮するものと考えられるから,需要者は刃部の形状や長柄鋏全体の長さに注目すると考えられる。


 また,柄部は,需要者が実際に枝を剪定する際に両手で握持して力を加える部分であり,その長さによって,持ち易さや剪定の際に必要となる力の強さが異なってくるものである。そうとすると,需要者が長柄鋏を購入する際には,柄部の形状や,同部が長柄鋏全体に占める長さの割合にも注目すると考えられる。


イ公知意匠

 ・・・省略・・・

ウ検討

(ア) 前記アで検討したとおり,長柄鋏の需要者は,刃部の形状,長柄鋏の長さ,長柄鋏全体に占める固定連結部や柄部の長さの比率及び柄部の形状について注目すると考えられる(もっとも,長柄鋏の長さ自体は本件登録意匠の要素ではない。)。


 また,前記イで指摘した公知意匠によると,刃部,固定連結部及び柄部を有する長柄鋏自体は本件意匠登録出願前に既に公知であったといえるが,刃部の具体的形状については様々なものがあり,少なくとも,本件登録意匠における刃部は固定刃の刃部が大きく湾曲し,これに扇状刃を有する可動刃が連結されているという特徴的な形状を有しているところ,上記形状が本件意匠登録出願前に公知であったと認めることはできない。また,長柄鋏全体に占める固定連結部及び柄部の各長さの比率についても,本件登録意匠と同様のものは見当たらない。


 したがって,本件登録意匠の刃部の形状及び長柄鋏全体に占める固定連結部及び柄部の各長さの比率については,需要者の注意を惹く部分であると認められる。なお,被告は,本件登録意匠と本件類似意匠とは固定連結部の長さが異なるから,各部の比率は本件登録意匠の要部とならない旨主張する。たしかに,類似意匠が登録されている場合において,登録意匠と類似意匠の共通点は要部を推認させる根拠となり得るが,類似意匠との共通点しか要部たり得ないというものではないというべきである。むしろ,本件の場合,本件類似意匠が登録されたことによって,本件登録意匠において,刃部の形状が最も重要な特徴点であるということができる。


(イ) 柄部の形状については,もともと固定柄と可動柄からなる2本の柄と固定連結部をジョイント部で締結するという本件登録意匠と同様の構成態様が上記先行公知意匠2,同3及び同6において採用されている上,本件登録意匠における柄部の形状はシンプルであり,本件登録意匠において,柄部の形状が需要者の注意を惹くとは認め難い。


(ウ) 上記に対し,被告は,本件登録意匠において,ジョイント部の形状が要部である旨主張する。しかし,ジョイント部は固定連結部と固定柄及び可動柄を締結する部分にすぎず,この部分に特段の創作があるのであればともかく,長柄鋏を使用する際や購入する際において,刃部や,全体の長さと柄部の長さとのバランスに比べると,需要者がジョイント部に注目する度合いが高いとは考えにくい。したがって,ジョイント部の形状が需要者の注意を惹くとは認められない。

(エ) 以上より,本件登録意匠の要部は,刃部の形状及び長柄鋏全体に占める固定連結部や柄部の長さの比率であると認めるのが相当である。


(4) 本件登録意匠と被告意匠との類否判断

 前記(1)及び(2)で認定した本件登録意匠と被告意匠の構成態様に基づき,両意匠の基本的構成態様及び要部を中心とする具体的構成態様に係る共通点及び差異点を抽出した上,両意匠の類否判断を行うこととする。


ア基本的構成態様

 前記(1),(2)のとおり,両意匠の基本的構成態様は同じである。


 これによると,両意匠は,刃部と固定連結部及び持ち手部の比率が,およそ1:7:4である点で共通する。


 ・・・省略・・・


エ検討

(ア) 要部に係る共通点・差異点について

 上記アのとおり,本件登録意匠と被告意匠とは基本的構成態様が完全に共通する上,要部の1つといえる長柄鋏全体に占める固定連結部及び柄部の各長さの比率において共通している。また,具体的構成態様のうち刃部の形状は,本件登録意匠における最も重要な特徴点であるといえるところ,上記イで認定したとおり,両意匠は,固定刃及び可動刃の形状において,ほぼ一致している。


 これに対し,上記ウで認定したとおり,本件登録意匠では,可動刃連結部の下端は,固定連結部の上端に設けられた取付具に一体的に取り付けられているのに対し,被告意匠では,可動刃連結部の下端は,固定連結部の上端に設けられた取付具にねじ止めして取り付けられている。


 しかし,需要者は,刃部の形状自体については,長柄鋏における最も重要な機能を有する箇所であるため,注目するものの,そのなかでも,刃部の刃体の形状に関心が集まるのであり,その取付部に対する関心の度合いは高いとは考えられない。そして,両意匠とも,固定連結部の上端にある円筒状取付部の側面に垂直方向に取り付けている点で共通しており,被告意匠の方がタグ状の取付部があるため頑丈な印象を与える程度の違いにしか過ぎない。


 また,上記ウで認定したとおり,両意匠の固定刃の形状について,被告意匠には角状の引掛部が形成されているのに対し,本件登録意匠にはこのような部分は形成されていない。しかし,上記引掛部は,固定刃に1つの機能を付加するために取り付けられたものであるが,上記引掛部の形状は,刃自体の有する機能とは別の機能を付加したに過ぎず,しかも,刃部全体の大きさに占める割合が小さいことからすると,上記引掛部が加わることによって,元の形状と一体化し,別の美感を生じさせるものではないというべきである。


 そうすると,これらの差異点が看者に与える印象は大きくなく,上記共通点から受ける印象を凌駕するものとはいえない。


 なお,上記ウで認定したその余の差異点については明らかに微差の類であり,需要者の美感に影響を及ぼすものではない。


 ・・・省略・・・


オ以上のとおり,被告意匠においては,本件登録意匠との共通点から受ける印象が,差異点に係る具体的な形状の違いから受ける印象を凌駕しており,両意匠が視覚を通じて起こさせる全体としての美感を共通にしているということができる。


 よって,被告意匠は,本件登録意匠と類似すると認められる。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。