●平成21(ワ)297 特許権移転登録手続等請求事件 特許権 民事訴訟

 本日は、『平成21(ワ)297 特許権移転登録手続等請求事件 特許権 民事訴訟 平成22年11月18日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101203115717.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権移転登録手続等請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、争点4(原告が本件各特許権の移転登録手続を求めることができるか)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 森崎英二、裁判官 達野ゆき、裁判官 山下隼人)は、

『2 争点4(原告が本件各特許権の移転登録手続を求めることができるか)について

(1) 原告の被告に対する本件各特1 許権についての移転登録請求は,主張に係る各発明者から,原告あるいは旧デーロスにその特許を受ける権利を承継した事実が認めらず,したがって上記各請求は,その余の判断に及ぶまでもなく理由がないことは上記1で認定判断したとおりであるが,仮に原告が,本件発明1ないし3について,各発明者から特許を受ける権利を承継した事実が認められたとしても,本件の事実関係のもとでは,その請求をそもそも認める余地はないので,以下において念のためその点について判断を示すこととする。


(2) すなわち特許を受ける権利を有する者は,特許法の規定に従って,特許出願をして特許登録を受けることにより,特許権者となることができる。特許を受ける権利は,発明と同時に発生し,発明者に原始的に帰属する。この権利は移転することができるから,特許を受けられるのは,発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者(以下「発明者等」という。)に限られる(特許法29条1項柱書,33条1項)。


 そして,特許法は,発明者等でない者による特許出願(以下「冒認出願」という。)については拒絶査定すべきこと(同法49条7号),冒認出願に基づいて特許登録がされた場合には特許が無効とされること(特許法123条1項6号)をそれぞれ規定するとともに,発明者等の救済として,冒認出願を先願から除外する規定(29条の2括弧書き,39条6項)及び新規性喪失の例外とする規定(30条2項)を設け,一定の条件の下で発明者等が特許出願することにより特許を受けられる場合があることを規定しているが,これはいずれも冒認出願による特許の無効を前提に,発明者等に別途に特許を受ける方法を残しているにすぎないものである。

 
 以上からすると特許法の規定は,冒認出願に基づいて特許権の設定登録がされた場合には,当然には,発明者等が冒認出願者に対する特許権の移転登録手続を求めることはできない規定構造になっているものと解される。


(3) そうすると,前記第2・1で 認定したとおり,本件発明1については,平成16年6月1日にP2が特許出願をした後,平成19年11月21日にP2から被告に出願人名義が変更され,同年12月28日に被告を特許権者として特許権(本件特許権1)の設定登録がされ,本件発明2については,平成17年12月27日に被告が特許出願をし,平成20年3月14日に被告を特許権者として特許権(本件特許権2)の設定登録がされ,本件発明3については,平成17年10月26日に被告が特許出願をし,平成21年10月2日に被告を特許権者として特許権(本件特許権3)の設定登録がされたというのであるから,原告の主張事実を前提としても,本件各特許権は冒認出願の結果得られた特許として無効と扱われる可能性があるだけであって,原告が本件発明1ないし本件発明3についての特許を受ける権利に基づき,これら本件各特許権の有効を前提として,被告に対し,その移転登録手続を求めることはできないということになる。


(4) これに対し原告は,本件各特許権を被告が有するという事実関係は,原告が被告(被告と同視しうる被告の代表取締役であるP2)の行為によって,財産的利益である特許を受ける権利を失ったのに対し,被告が法律上の原因なしに本件各特許権を得ている関係にあり,その上,P2は,職務発明についての特許を受ける権利を原告に譲渡した者であり,しかも原告の代表取締役として原告を出願人として出願すべき立場にあった者であるから,本件各発明に関するP2又はP2が代表取締役を務める被告の特許出願行為は,原告による特許出願行為と同視すべきであるので,本件各特許権は,原告が有していた特許を受ける権利と連続性を有し,それが変形したものであり,平成13年最高裁判決に照らし,本件各特許権の移転登録請求は認められるべきである旨主張する。


 原告指摘にかかる平成13年最高裁判決は,特許を受ける権利の共有者甲が他の共有者と共同してした特許出願につき,乙が甲から特許を受ける権利の持分を承継した旨の譲渡証書を添付して特許出願人を甲から乙に変更する出願人名義変更届を特許庁長官に提出したことにより,乙を共有者とする特許権の設定の登録がされた場合において,乙が甲の承諾を得ずに上記譲渡証書を作成した無権利者であって,特許権の設定の登録に先立って甲が乙に対し特許を受ける権利の持分を有することの確認を求める訴訟を提起しており,上記特許を受ける権利と当該特許権とが同一の発明に係るものであるなどの判示の事情の下においては,甲は,乙に対し,当該特許権の乙の持分につき移転登録手続を請求することができる旨判示した判例であるが,当該判例は,上記説示した冒認出願に関する現行特許法の規定構造を前提としても,特許を受ける権利を有する者が特許出願をしたなどの判示した一連の事実関係のもとでは,設定登録された特許権が,特許を受ける権利と連続性を有し,変形したものであると評価できることなどから,例外的に特許を受ける権利を有していた者の救済のために特許権の移転登録手続を請求することを認める余地がある旨判示したものと解すべきものである。


 しかしながら,本件において原告が主張する上記事実関係がすべて認められたとしても,それは要するに発明者等と一定の契約関係ないし権利義務関係にある者が冒認出願をした結果,その者を特許権者として特許権が設定登録されたということにすぎず,その事実関係は,特許権の無効をもたらす典型的な冒認出願の事実関係と異なるところはないといわなければならない。


 また,そもそも原告自身は,特許出願を全くしていないのであるから,本件各特許権が原告が有していた特許を受ける権利と連続性を有し,変形したものと評価する余地はないというほかない。そうすると,原告主張にかかる本件の事実関係に平成13年度最高裁判決の判例法理が及ぶとする原告主張は失当であって,現行の特許法の規定構造を前提とする限り,上記主張に係る事実関係に基づく原告の被告に対する本件各特許権の移転登録手続請求は認めることができないといわなければならない。


(5) したがって,本件各特許権の移転登録手続を求める原告の請求は,上記1の認定判断如何にかかわらず,それ自体主張自体失当であって,その余の点について判断するまでもなく理由がないということになる。』


 と判示さました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。