●平成21(行ケ)10389 審決取消請求事件 実用新案権 行政訴訟

 本日は、『平成21(行ケ)10389 審決取消請求事件 実用新案権 行政訴訟「筆記具のクリップ取付装置」平成22年08月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100903113552.pdf)について取り上げます。


 本件は、差し戻された実用新案登録無効審判の無効審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、再訂正は認められないとした判断の誤り(取消事由1)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 中平健、裁判官 知野明)は、


 『審決は,無効審判請求の対象とされていない請求項についての再訂正が許されないことのみを理由として,無効審判請求の対象とされている請求項についての再訂正は認められないと判断した点で誤りがある(取消事由1)。


 しかし,審決は,無効審判請求の対象とされている請求項についての再訂正が認められたとしても,再訂正後の考案は,当業者がきわめて容易に考案することができたものであるとし,その実用新案登録を無効とする旨判断しており,その点の審決の判断に誤りはなく,その他の取消事由について,原告の主張はいずれも理由がないから,上記の審決の判断の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすことはない。したがって,審決に,これを取り消すべき違法はない。以下,原告主張の取消事由について検討する。


1 再訂正は認められないとした判断の誤り(取消事由1)について

(1) 判断の誤りの有無と審決の結論への影響

 実用新案登録無効審判請求について,各請求項ごとに個別に無効審判請求することが許されている点に鑑みると,実用新案登録無効審判手続における実用新案登録の有効性の判断及び訂正請求による訂正の効果は,いずれも請求項ごとに生じ,その確定時期も請求項ごとに異なるものというべきである。


 そうすると,2以上の請求項を対象とする無効審判の手続において,無効審判請求がされている2以上の請求項について訂正請求がされ,それが実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とする訂正である場合には,訂正の対象になっている請求項ごとに個別にその許否が判断されるべきものであるから,そのうちの1つの請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由として,他の請求項についての訂正事項を含む訂正の全部を一体として認めないとすることは許されない。


 そして,この理は,無効審判の手続において,無効審判請求の対象とされている請求項及び無効審判請求の対象とされていない請求項の双方について訂正請求がされた場合においても同様であって,無効審判請求の対象とされていない請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由(この場合,独立登録要件を欠くという理由も含む。)として,無効審判請求の対象とされている請求項についての訂正請求を認めないとすることは許されない。


 本件においては,請求項1,2及び5に係る考案について無効審判請求がされ,無効審判において,無効審判請求の対象とされている請求項1,2及び5のみならず,無効審判請求の対象とされていない請求項3,4及び6についても再訂正請求がされたところ,審決は,無効審判請求の対象とされていない請求項3,4及び6についての再訂正請求が独立登録要件を欠くことのみを理由として,再訂正は認められないと判断したから,審決には,上記説示した点に反する判断の誤りがある。


 しかし,後記6のとおり,請求項1,2及び5についての再訂正は認められるべきであるが,審決は,請求項1,2及び5についての再訂正が認められたとしても,再訂正考案1,2及び5は,引用例考案,引用例に記載された技術及び周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであるとし,再訂正考案1,2及び5についての実用新案登録を無効とする旨判断しており,その点の審決の判断に誤りはないから,上記の判断の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすことはない。


(2) 被告の主張に対し

 被告は,訂正の許否を請求項ごとに判断すると,無効審判請求された請求項を引用する無効審判請求されていない請求項について,常に無効審判請求された請求項の訂正の効果が及ぶという不合理が生ずるから,訂正の許否を請求項ごとに判断することはできず,訂正の許否は,訂正請求された請求項のすべてについて一体として判断すべきであると主張する。


 しかし,訂正の許否を請求項ごとに判断するのであれば,各請求項についてどのような訂正が請求されているかを検討し,それぞれの訂正の許否を判断するものであって,他の請求項を引用する従属項であることから,直ちに他の請求項の訂正の効力が及ぶとはいえない。


 本件において,原告は,請求項1,2及び5についてそれぞれ再訂正を請求するとともに,請求項3,4及び6についても,請求項2を引用する請求項3,及び請求項3を引用する請求項4を請求項2の再訂正に伴い再訂正し,請求項5を引用する請求項6を請求項5の再訂正に伴い再訂正するように,それぞれ再訂正を請求しており,請求項1,2及び5について訂正が認められるとしても,それとは別に請求項3,4及び6について訂正の許否を判断すれば足りるものであって,請求項1,2及び5についての訂正の効力は,当然に請求項3,4及び6の訂正の効力に影響するとはいえない。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。