●昭和61年に出された知財事件の最高裁判決(その2)(再)

 本日は、昭和61年に出された知財事件で、裁判所HP(http://www.courts.go.jp/)に掲載されている最高裁判決2件について、下記の通り、簡単に紹介します。


●『昭和58(オ)516 損害賠償 著作権 民事訴訟「第2次パロディ事件モンタージュ写真事件」昭和61年05月30日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/4E794946F52D90E949256A8500311F33.pdf

 ・・・『1 複製権を内容とする著作財産権と公表権、氏名表示権及び同一性保持権を内容とする著作者人格権とは、それぞれ保護法益を異にし、また、著作財産権には譲渡性及び相続性が認められ、保護期間が定められているが(旧著作権法(昭和四五年法律第四八号による改正前のもの。以下「法」という。)二条ないし一〇条、二三条等)、著作者人格権には譲渡性及び相続性がなく、保護期間の定めがないなど、両者は、法的保護の態様を異にしている。


 したがつて、当該著作物に対する同一の行為により著作財産権と著作者人格権とが侵害された場合であつても、著作財産権侵害による精神的損害と著作者人格権侵害による精神的損害とは両立しうるものであつて、両者の賠償を訴訟上併せて請求するときは、訴訟物を異にする二個の請求が併合されているものであるから、被侵害利益の相違に従い著作財産権侵害に基づく慰謝料額と著作者人格権侵害に基づく慰謝料額とをそれぞれ特定して請求すべきである。


・・・


  法三六条ノ二は、著作者人格権の侵害をなした者に対して、著作者の声望名誉を回復するに適当なる処分を請求することができる旨規定するが、右規定にいう著作者の声望名誉とは、著作者がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的声望名誉を指すものであつて、人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情は含まれないものと解すべきである最高裁昭和四三年(オ)第一三五七号同四五年一二月一八日第二小法廷判決・民集二四巻一三号二一五一頁参照)。


 これを本件についてみると、原審の適法に確定した事実関係中には、上告人の被上告人に対する本件著作者人格権侵害行為により、被上告人の社会的声望名誉が毀損された事実が存しないのみならず、右事実関係から被上告人の社会的声望名誉が毀損された事実を推認することもできないといわなければならない。


 そうすると、被上告人の著作者人格権に基づく謝罪広告請求を認容すべきものとした原判決は、経験則に反して被上告人の社会的声望名誉が毀損されたと認定したか、又は法三六条ノ二の解釈適用を誤つたものといわなければならず、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決中著作者人格権に基づく謝罪広告請求に係る部分は破棄を免れない。そして、右部分について、右の観点に立つて更に事実関係について審理を尽くさせる必要がある。』、等と判示した最高裁判決。



●『昭和59(行ツ)286 特許権 行政訴訟「除草組成物事件」昭和61年04月25日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070314103902.pdf

 ・・・『そうすると、特許法の趣旨は、同法四八条の三第一項所定の期間の不遵守が出願人の責に帰すべき事由によると否とを問わず、右期間経過後は出願の取下げを擬制することにより(同条の三第四項)、以後の手続を明確化し、特許法律関係の安定化を図るところにあ ると解すべきである。


 以上みてきたところによれば、特許法四八条の三第一項所定の期間を遵守しなかつた場合について、民訴法一五九条一項の規定を準用ないし類推適用する余地はないものというべきである。


 これと異なる見解を採る原判決には、法令の解釈適用を誤つた違法があるものというべきであり、その違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。


 そして、被上告人は、本件出願につき、特許法四八条の三第一項所定の期間内に出願審査の請求をしなかつたものであるから、本件出願は、同条の三第四項の規定により取り下げられたものとみなされる。


 したがつて、本件訴えは、本件不受理処分の取消を求めるにつき法律上の利益を欠くから、却下を免れない。これと結論を同じくする第一審判決は正当であり、被上告人の控訴は、これを棄却すべきである。』、等と判示した最高裁判決。