●平成21(ネ)10006 補償金等請求控訴事件「中空ゴルフクラブヘッド

 本日は、一昨日取り上げた事件の中間判決である、●『平成21(ネ)10006 補償金等請求控訴事件 特許権 民事訴訟「中空ゴルフクラブヘッド」平成21年06月29日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090630100213.pdf)について取り上げます。


 本件は、原判決である、●『平成19(ワ)28614 補償金等請求事件 特許権 民事訴訟「中空ゴルフクラブヘッド」平成20年12月09日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081212131656.pdf)では、均等侵害が認容されなかったのに対し、その控訴審である本件高裁事件では、均等侵害が認容された事案です。


 本件では、その判断が割れた、非本質的な部分か否かについての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 中平健、裁判官 上田洋幸)は、


『2 争点(2)〔均等侵害の成否〕について

 原判決45頁24行目ないし46頁20行目を次のとおり改める。

「当裁判所は,被告製品の構成〈d〉における「(炭素繊維からなる短小な)帯片8」は,本件発明の構成要件(d)における「(繊維強化プラスチック製の)縫合材」の均等物であると判断する。その理由は,以下のとおりである。前記のとおり,「(炭素繊維からなる短小な)帯片8」は,金属製外殻部材に設けた一つの貫通穴に1回だけ通すものであって,金属製外殻部材の一方の側(接着界面側)と他方の側(その反対面側)を貫く複数の貫通穴に複数回(2回以上)通すものではなく,金属製外殻部材の上下において上部繊維強化プラスチック製外殻部材(本件発明の「繊維強化プラスチック製外殻部材」に相当する。)及び下部繊維強化プラスチック製外殻部材と各1か所で接着するにとどまり,少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)するものではない。

 本件発明の構成中,被告製品の構成と異なる部分は,上記の点である。

(1)置換可能性について

ア本件明細書

(ア) 本件明細書には,次のとおりの記載がある。


 ・・・省略・・・


(イ) 前記(ア)の本件明細書の記載によれば,本件発明の構成要件


(d)において「(繊維強化プラスチック製の)縫合材」を用いたことによる目的,作用効果(ないし課題の解決原理)は,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めることにあるものと認められる。


イ被告製品における目的,作用効果の達成の有無

 被告製品の構成〈d〉における「炭素繊維からなる短小な帯片8」は,「金属製外殻部材1の上面側のFRP製上部外殻部材10との接着界面側とその反対面側の前記金属製外殻部材1の下面側のFRP製下部外殻部材9との接着界面側とに一つの貫通穴を通して,上面側のFRP製上部外殻部材10及び下面側のFRP製下部外殻部材9と各1か所で接着した炭素繊維」であり,金属製外殻部材に設けた一つの貫通穴に1回だけ通すものであって,複数の貫通穴に通し,金属製外殻部材の一方の側(接着界面側)と他方の側(その反対面側)を複数回(2回以上)通しているものではない。


 本件発明の縫合材は,金属製外殻部材の貫通穴を複数回(2回以上)通すものであり,金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側で少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合することになるから,その接着性によって,必然的に,接合強度を高める効果を生じることになる。


 他方,被告製品では,FRP製下部外殻部材9は,前方フランジ部5aにおいては,帯片8の下縁部の下面に一体的に接着されており,クラウン部を構成するFRP製上部外殻部材10は前方フランジ部5aにおいては,帯片8の上縁部の上面に一体的に接着されており,金属製外殻部材1の上面フランジ部5を上下から挟むようにFRP製下部外殻部材9とFRP製上部外殻部材10が金属製外殻部材1に接着されている。


 前方フランジ部5aにおいて,炭素繊維からなる帯片8は,一つの貫通穴に通され,上面側のFRP製上部外殻部材10及び下面側のFRP製下部外殻部材9と各1か所で接着されることにより,金属製の外殻部材(金属製外殻部材1)と繊維強化プラスチック製の外殻部材(FRP製上部外殻部材10)との接合強度を高める効果を奏している。同効果は,本件発明において「(繊維強化プラスチック製の)縫合材」を用いたことによる目的,作用効果と共通するものである。

 すなわち,被告製品では,金属製外殻部材の接着界面のみならず,その反対面側においても,FRP製下部外殻部材9を当てて加熱・加圧する成形がされているため,帯片8は,金属製外殻部材の接着界面の反対面側においても,繊維強化プラスチック製の外殻部材(FRP製上部外殻部材9)と,一体に接合している(甲11,弁論の全趣旨)。

 そのため,帯片8を,金属製外殻部材に設けた貫通穴に複数回通すことによって強度を確保する必要がない。

 以上のとおりであり,本件発明の構成要件(d)における「(繊維強化プラスチック製の)縫合材」と被告製品の構成〈d〉における「(炭素繊維からなる)短小な帯片8」とは,目的,作用効果(ないし課題解決原理)を共通にするものであるから,置換可能性がある。


(2)置換容易性

 本件発明においても,被告製品においても,金属製外殻部材に設けられた貫通穴に繊維強化プラスチック製の部材を通すことは共通であり,金属製外殻部材の複数の貫通穴に複数回通し,少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する部材を,一つの貫通穴に1回だけ通し,金属製外殻部材の上下において上部繊維強化プラスチック製外殻部材及び下部繊維強化プラスチック製外殻部材と各1か所で接着する部材に置き換えることは,被告製品の製造の時点において,当業者が容易に想到することができたものと認められる。したがって,置換容易性は認められる。

(3)非本質的な部分か否かについて

 本件発明の目的,作用効果は,前記(1)ア(ア)の本件明細書の記載によれば,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めることにある。特許請求の範囲及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らすと,本件発明は,金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け,貫通穴に繊維強化プラスチック製の部材を通すことによって上記目的を達成しようとするものであり,本件発明の課題解決のための重要な部分は,「該貫通穴を介して」「前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した」との構成にあると認められる。

 本件発明の特許請求の範囲には,接合させる部材について,「縫合材」と表現されている。

 しかし,既に詳細に述べたとおり,?本件発明の課題解決のための重要な部分は,構成要件(d)中の「該貫通穴を介して」「前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した」との構成部分にあること,?本件発明の「縫合材」の語は,繊維強化プラスチック製の部材を金属製外殻部材に通す形状ないし態様から用いられたものであって,通常の意味とは明らかに異なる用いられ方をしているから,「縫合」の語義を重視するのは,妥当とはいえないこと,?前記のとおり,「縫合材」の意味は,技術的な観点を入れると,「金属製外殻部材の複数の(二つ以上の)貫通穴を通し,かつ,少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する部材」と解すべきであるが,当該要件中の「一つの貫通穴ではなく複数の(二つ以上の)貫通穴に」との要件部分,「少なくとも2か所で(接合(接着)する)」との要件部分は,本件発明を特徴付けるほどの重要な部分であるとはいえないこと等の事情を総合すれば,「縫合材であること」は,本件発明の課題解決のための手段を基礎づける技術的思想の中核的,特徴的な部分であると解することはできない。


 したがって,本件発明において貫通穴に通す部材が縫合材であることは,本件発明の本質的部分であるとは認められない。


(4)対象製品の容易推考性について

 本件の全証拠によっても,被告製品が,本件特許の出願時における公知技術と同一又は当業者が公知技術から出願時に容易に推考できたものであるとは認められない。


(5)意識的除外について

ア本件特許の出願経過は,以下のとおりである。

 原告は,平成14年1月11日,本件特許を出願し(特願2002−4675号,甲4),平成15年7月22日,出願公開されたが(特開2003−205055号公報,乙5),同年11月18日,拒絶理由通知を受けた(乙6)。


 原告は,平成16年4月12日,同日付け手続補正書(甲5,乙12)を提出して明細書の補正を行うとともに同日付け意見書(乙7)を提出したが,平成17年2月15日,拒絶査定を受けた(乙8)。


 原告は,平成17年4月7日,拒絶査定不服審判を請求し(乙9),同年5月9日付けで,明細書を補正対象とする手続補正書(甲6)と,審判請求書を補正対象とする手続補正書(乙10)を提出した。


 本件特許は,平成17年9月30日,設定登録された(甲1,2)。


イ 前記1(1)ウのとおり,原告は,出願経過において,?縫合材を金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接着界面に通し,繊維強化プラスチック製の外殻部材に対しては貫通させることなく密着するように配置しているので,繊維強化プラスチック製の強度低下を回避することができ,?金属製の外殻部材の貫通穴に通した縫合材に基づいて金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを一体的に結合させた上で,繊維強化プラスチック製の外殻部材に貫通穴を設けた場合に起こる応力集中による破壊を抑制し,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を最大限に発揮するようにした点に,本件発明の特徴がある旨を述べている。


 しかし,出願経過及びその過程で提出された手続補正書や意見書の内容に照らして,原告が,本件特許の出願経過において,本件発明の「縫合材」を,一つの貫通穴を通し,金属製外殻部材の上下のFRP製外殻部材と各1か所で接着した部材に置換する構成を意識的に除外したと認めることはできない。


(6)均等の成否

 以上によれば,被告製品は,本件発明の構成と均等なものとして,その技術的範囲に属する。」


4 結論

 以上によれば,被告製品は本件発明の構成要件(d)を文言上充足しないが,本件発明の構成と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属するものであり,本件発明は進歩性を欠くものとはいえず,本件特許は無効とは認められない。


 そして,本件において,原告の補償金請求及び損害賠償請求について,これらの請求の可否及び内容等を最終的に確定するためには,争点(4)(補償金請求の可否,補償金及び損害賠償等の金額)について更に審理をする必要がある。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。