●平成21(行ケ)10133 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成21(行ケ)10133 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「杭埋込装置及び基礎用杭の埋込方法」平成22年03月03日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100305113608.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審決の棄却審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、1 取消事由1(本件訂正の適法性についての判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 高部眞規子、裁判官 杜下弘記)は、


1 取消事由1(本件訂正の適法性についての判断の誤り)について

(1) 原告の主張

 原告は,本件訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものであり,また,本件明細書又はこれに添付した図面に記載した事項の範囲内においてするものではないから,本件訂正を認めた上で,同訂正後の特許請求の範囲の記載に基づいて本件発明の要旨を認定した本件審決には,結論に影響を及ぼす違法があると主張するので,以下,原告の主張について検討する。


(2) 特許請求の範囲の拡張又は変更の有無

 本件訂正は,誤記を訂正し,穿孔装置の油圧モーターの番号を加えて明確にするとともに,本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び2の杭埋込装置について,特定の構成の台板を備え,かつ,嵌合部に特定のピン孔を備えるものに限定することを内容とするものであるから,本件訂正後の特許請求の範囲は同訂正前のものに比べて減縮したものとなることは明らかである。


 したがって,本件訂正によって,実質上特許請求の範囲が拡張又は変更されることになるということはできず,この点についての原告の主張を採用することはできない。

(3) 新規事項の追加の有無

ア本件明細書及び図面の記載

 ・・・省略・・・

 もっとも,訂正が,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものということができるので,本件訂正のうち特許請求の範囲に「上記台板(14)の四辺のうち油圧式ショベル系掘削機(9)側の辺は,油圧式ショベル系掘削機(9)側にある上記振動装置(2)の油圧モーター(21)の端よりも油圧式ショベル系掘削機(9)側にあり,」との記載を付加する部分が,本件明細書及び図面の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものかどうかを判断するに当たっては,この種の杭埋込装置における前記説示した意味での台板の存在及び形状についての当業者の認識を踏まえる必要がある。


イ本件特許出願時における技術状況を示す資料

 ・・・省略・・・
 
エ 小括

 以上によると,本件特許出願時における当業者にとって,油圧式ショベル系掘削機のアーム先端部に取り付ける埋込用アタッチメントとして,四角形の台板の上部に振動装置を備えるとともに,その下部略中央部に杭との嵌合部を備えるものはよく知られており,振動装置,四角形の台板及び嵌合部相互の関係については,四角形の台板を油圧モーターを含む振動装置が納まる程度の大きさとし,振動装置が隠れるように配置する構成のものが知られ,作業現場において長年にわたって使用されてきたものとして周知であったということができる。


 そうすると,本件訂正のうち,特許請求の範囲の【請求項1】及び【請求項2】について「上記台板(14)の四辺のうち油圧式ショベル系掘削機(9)側の辺は,油圧式ショベル系掘削機(9)側にある上記振動装置(2)の油圧モーター(21)の端よりも油圧式ショベル系掘削機(9)側にあり,」との限定を加える部分は,本件特許出願時において既に存在した「台板の上部に振動装置を設けるとともに,下面中央部に嵌合部を設ける」という基本的な構成を前提として,「振動装置の油圧モーターが油圧式ショベル系掘削機側にある」という当業者に周知の構成のうちの1つを特定するとともに,「台板」と「振動装置」の関係について,同様に当業者に周知の構成のうちの1つである「四角形の台板の上に油圧モーターが隠れるように振動装置を配置するという構成」に限定するものである。


 そして,上記イ(ア)ないし(ク)で認定した技術状況に照らすと,上記周知の各構成はいずれも設計的事項に類するものであるということができる。


 したがって,本件明細書及び図面に接した当業者は,当該図面の記載が必ずしも明確でないとしても,そのような周知の構成を備えた台板が記載されていると認識することができたものというべきであるから,本件訂正は,特許請求の範囲に記載された発明の特定の部材の構成について,設計的事項に類する当業者に周知のいくつかの構成のうちの1つに限定するにすぎないものであり,この程度の限定を加えることについて,新たな技術的事項を導入するものとまで評価することはできないから,本件訂正は本件明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてするものとした本件審決の判断に誤りはない。

(4) 小括

 以上によると,原告主張の取消事由1は理由がない。』


 と判示されました。


 なお、本件でも、訂正審判における新規事項追加の判断基準は、「訂正が,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものということができる。」、というように知財高裁大合議事件である、●『平成18(行ケ)10563 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「感光性熱硬化性樹脂組成物及びソルダーレジストパターン形成方法」平成20年05月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080530152605.pdf)にて示した判断基準にて判断しています。


 本件では、『したがって,本件明細書及び図面に接した当業者は,当該図面の記載が必ずしも明確でないとしても,そのような周知の構成を備えた台板が記載されていると認識することができたものというべきであるから,本件訂正は,特許請求の範囲に記載された発明の特定の部材の構成について,設計的事項に類する当業者に周知のいくつかの構成のうちの1つに限定するにすぎないものであり,この程度の限定を加えることについて,新たな技術的事項を導入するものとまで評価することはできないから,本件訂正は本件明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてするものとした本件審決の判断に誤りはない。』、
 と、設計的事項に類する当業者に周知のいくつかの構成のうちの1つに限定する程度の限定を加えることは、新たな技術的事項を導入するものとまで評価できない、という判示事項がポイントだと思います。
 

 詳細は、本判決文を参照してください。