●平成18(ワ)11437 不正競争行為差止等請求事件「ヒュンメル」

  本日は、『平成18(ワ)11437 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟ヒュンメル」平成20年01月24日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080125161126.pdf)について取り上げます。


 本件は、不正競争行為の差止等を求めた事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では,原告の商品等表示が不正競争防止法2条1項1号にいう「他人の商品等表示…として需要者の間に広く認識されているもの」に該当するか否かを判断しており、この点で参考になる事案かと思います。


 つまり、大阪地裁(第26民事部 裁判長裁判官 山田知司、裁判官 高松宏之、裁判官 村上誠子)は、


1 争点(2)(周知商品等表示性)について


(1) 本件において原告は,原告商品等表示はヒュンメル社の商品等表示として周知であると主張するので,まず争点(2)について検討する。


(2) 前記前提事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

 ・・・省略・・・

(3) 以上に基づき検討する。

ア 靴の側面の図柄は,第一次的には靴のデザインの一部としての意味を有するものであって,需要者は普通はその図柄を特定の出所と結びつけて認識しないが,その図柄が他社商品の図柄と異なる独自の特徴を有しており , それが長期間にわたって独占的に使用されるなどして,需要者の間に浸透して特定の出所を示すものとして周知となった場合には,二次的に出所を識別する商品等表示として機能する場合があるといえる 。


 そして先に,(2)ウ,エ及びク(ア)で認定したところからすると,靴の側面に「2本のくの字」状と認識される図柄を施していることは,ヒュンメルブランドのサッカーシューズ・フットサルシューズのほとんどやカジュアルシューズの大半に共通する図柄の特徴であると認めることができ,またこのように認識される図柄を施した商品は,他の主要ブランドの商品中には存在していない(別紙1。その他に甲11で選ばれた人気23ブランド中でもそのように認められる。) 。そうすると,「2本のくの字」状という共通した図柄の特徴は,需要者に対する浸透度如何によっては,ヒュンメルブランドの商品等表示としての機能を獲得し得る独自性を有しているというべきである(前記(2)ク(イ)で認定した同種図柄の他社商品は,有力ブランドではなく,売上高も不明であるので,それらの例があるからといって,上記図柄がありふれているとか,独自性がないとはいえない。もっとも,これらの商品の存在は,周知性の獲得を妨げる方向に作用する要素として,その検討においては考慮されるべきである。)。


そして,本件で原告が主張する原告商品等表示1及び2は,このような共通の図柄の特徴を有する商品群の中から,特定の商品における図柄を個別に特定したものであるから,それらの周知商品等表示性を検討するに当たっては,単にその個別の図柄自体の需要者への浸透度を検討するのではなく,その背後に存する上記共通の図柄の特徴の需要者への浸透度を検討するべきである。


 この点について被告は,ヒュンメルブランドの靴の側面のデザインに施された「2本のくの字」状の図柄には種々の態様のものがあり,またそれを含めた側面のデザイン全体にも種々の態様のものがあることを指摘して,このようにデザインの統一性を欠く場合には,図柄が出所識別力を獲得することはあり得ないと主張する。


 しかし,複数の商品に付された図柄に異なる点があっても,それらの中に他の商品の図柄には見られない共通の特徴を看取し得る場合には,その共通の特徴に注目して一括して同様の図柄であると認識・記憶されるのであり,ヒュンメルブランドの靴の図柄には,そのように認識・記憶され得るだけの共通の特徴があることは前記のとおりである。したがって,被告が指摘するようなデザイン上の種々の態様があることは,前記の共通の特徴が出所識別力を獲得し得ることを妨げるものではない。


 なお,ヒュンメルブランドの靴には,側面に「2本のくの字」状の図柄を施していないものもある。しかし,同図柄は,ヒュンメルブランドのサッカーシューズ・フットサルシューズのほとんどやカジュアルシューズの大半において施されているのであるから,同図柄がヒュンメルブランドと結びつけて認識される素地は十分にあるというべきである。ただし,上記図柄を施していない靴があるという事実は,同図柄の周知性の獲得を困難にする方向に作用する要素として,その周知性の検討に当たり考慮するのが相当である。


イ そこで「2本のくの字」状の図柄の周知性について検討すると,ヒュンメルブランドのサッカーシューズは,ワールドカップで上位に勝ち進んだデンマークナショナルチームに長年採用され,ヨーロッパにおけるサッカークラブにそのウェアが採用されてきたこと(前記(2)ア),日本においてもサッカー専門雑誌に頻繁に広告が掲載されてきたこと(前記(2)オ ),原告によるサッカーシューズの出荷量の国内シェアは1.5%前後ではあるものの,ヒュンメルブランドのサッカーシューズ等競技用シューズの売上げは年間19億円に上っていること(前記(2)キ)から,サッカーシューズの需要者であるサッカー競技者や専門雑誌を購読するようなサッカーファンの間では,ヒュンメルブランドはサッカーシューズやサッカーウェアのブランドとして周知性を有していると認めることができる。そして,ヒュンメルブランドは,サッカーシューズに関しては,ほぼすべての商品に「2本のくの字」状の図柄が施されており,しかもそれは1923年の創立以来継続的に使用されてきたのであるから,ウェアにも「く」の字が2本並んでいる点で同様のシェブロン・マークが施されていることを併せ考慮すると,同図柄は,マルハナバチを象った商標や「hummel」の名称と並んで,上記のサッカーシューズ等の需要者の間では独自の周知性を獲得したものと認めるのが相当である。


ウ もっとも,本件で問題となっている被告商品はスニーカー(カジュアルシューズ)であり,その需要者はサッカーとの関係の有無を問わない一般消費者であるので,一般消費者に対する「2本のくの字」状の図柄の周知性を検討する必要がある。


(ア) この観点から検討すると,まず一般消費者向けの雑誌等の媒体でヒュンメルブランドのスニーカーが広告された例は,前記(2)カ(エ)及び(オ)程度にとどまっている。また,映画「旅の贈りもの」の中でヒュンメルブランドのスニーカーが重要な小道具として使用されている(前記(2)カ(キ))が,同映画が大ヒットしたとか,同映画を契機にヒュンメルブランドのスニーカーが大きな話題になったという事情は認められず,単に映画とタイアップした宣伝広告がされたという以上の評価をすることはできない。また,プロ野球の新庄選手が改造して使用した(前記(2)カ(ウ))というのも ,単発的なエピソードの域をでない 。さらに,ヒュンメルブランドのスニーカーがよく売れているという新聞記事(前記(2)カ(カ))はあるものの,統計数字としては,ヒュンメルブランドのスニーカーの売上も,年間1億1000万円にとどまっている(前記(2)キ(イ) 。)


(イ) もっとも,ヒュンメルブランドのスニーカーは,靴関係の専門雑誌のスニーカーの特集中で,2期続けて人気23ブランドの1つに数えられており(前記(2)カ(ア) ,同じく23ブランドに含まれているのが)別紙5の諸ブランドであることからすると,ヒュンメルブランドのスニーカーは,いわゆる価格が1万円を超えるようなブランド物の高級スニーカーとしては,そのような高級スニーカーの購入者層に対してそれ相応の知名度を有していると推認される。


 しかし,本件で問題とされている被告商品は,価格が1980円から2980円であり,ブランド物の高級スニーカーの需要者よりも広く,スニーカーのブランドに対する興味が格別高いというわけではない一般的な消費者を需要者とするものであるから, 上記専門雑誌の記事の存在をさほど重視することはできない。


(ウ) また,このようなより一般的な消費者の間における周知性という観点からすると,株式会社日本リサーチセンターが実施したアンケート調査の結果を軽視することはできない。


 この調査は,母集団を調査時刻ころに調査会場前を通りかかった人々とし,その中からスニーカーを持っており,調査への協力を承諾した20歳代から50歳代の男女を100人ずつ抽出して行ったものであるが,原告が主張するように,母集団の設定にも標本の抽出にも統計学的に求められる確率的正確さ(甲26,27の各号)を欠いており,この調査結果をもって直ちに全体の調査結果と同視することは統計理論的に許されないものではある。しかし,(i)調査場所が東京都の新宿区<以下略>と渋谷区<以下略>という,全国的に見てファッションやブランドに敏感な人々が比較的存すると考えられる場所であること,調査日が平日である金曜日と土曜日の双方で行っていること,対象年齢も20歳代から50歳までとし,スニーカーを持っていることを条件にしていることから,一般のスニーカーの需要者層の選定条件としては適切で,関係者も除外しており,調査方法としての誠実さも認められること,(ii)結果的に年齢・職業構成も一般のスニーカーの需要者層におけるものとしては,さして偏りがあるとはいえないこと,(iii)このような調査をしようとした場合,厳密な統計学的正確性を確保することは困難であると考えられることからすると,上記のような統計学的問題点があるにせよ,上記調査は,おおよその傾向を示す補足的な資料としては,斟酌し得るものと認めるのが相当である。


 しかるところ,商品の認識度について原告商品1及び2の場合には ,そのスニーカー又はそのスニーカーと同じブランドと思われるスニーカーを「確かに見た」と回答した人が1%又は3.5%(「見たような気がする」と回答した人を併せると17%又は26.5%)であったのに対し,アディダス及びナイキの場合には,それぞれ45.5%と54%(「 見たような気がする」と回答した人を併せるとそれぞれ83.5% と90.5%)であり,同じ高級スニーカーのブランドでありながら,一般の消費者における原告商品等表示の図柄自体に対する認識・記憶度に極めて大きな差があることが認められる。


 また,商品のブランドについて,原告商品1及び2の場合には「知っている」と回答した人が3%又は6%であり,しかもブランド名がヒュンメルであると正確に認識していた人は,そのうちの3分の1又は6分の1にすぎないのに対し,アディダス及びナイキの場合には,ブランド名を「知っている」と回答した人が,それぞれ59%,83%であり,そのうちブランド名を正確に回答した人はそのうちのいずれも95%以上であり,図柄とブランド名の結びつきの認識度にも極めて大きな差があることが認められる。


 さらに,ヒュンメルというブランドを見聞したことのある人は,全体のわずか8.5%にすぎず,(イ)で触れた人気23ブランドと調査対象が重複しているもの(別紙7の「甲11 「甲14」欄で○を付してい」る12ブランド)の中でも極端に低いのであって,ヒュンメルブランドは,そもそも一般消費者の間におけるブランドとしての認識度が低いことが認められる。


(エ) 以上の諸点に加え,(i)スニーカーにおいては,ヒュンメルブランドの中で「2本のくの字」の図柄が施されていると認められるのは全品目の約3分の2にとどまっていること((2)エ),(ii)ブランド物でないスニーカーの市場では「2本のくの字」の図柄と認識される他社商品も,複数存在していること((2)ク(イ) ),(iii)靴の側面の図柄は第一次的には靴のデザインとして認識され,ブランド名と比べて出所識別標識として認識される力は一般に弱く,特定の称呼を持たないため,その図柄に係る商品の出所を認識し,呼ぼうとすれば,第一次的にはブランド名によるものと思われる(本件の場合も「2本のくの字」の図柄の商品やその紹介には,合わせて「hummel」ないし「ヒュンメル」との記載がされている((2)ウ,エ,カ)。)から,靴の図柄から特定の出所が認識されるようになっているならば,それよりも前にブランド名の方が周知になるものと考えられるが,ヒュンメルブランドの場合は,スニーカー一般の需要者の間でのブランド自体の認知度が低いことを併せ考慮すると,「2本のくの字」状の図柄が,単なる図柄ではなく特定の出所を表示する商品等表示として,被告商品の需要者である一般消費者の間で広く認識されているとは,認めるに足りないというべきであり,このことは原告商品等表示についても同様である。


(4) したがって,原告商品等表示は,法2条1項1号にいう「他人の商品等表示・・・として需要者の間に広く認識されているもの」に当たらない。


2 まとめ


 以上によれば,原告の本件請求は,その余の点について検討するまでもなくいずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。