●平成13(ネ)3840 特許権 民事訴訟「エアロゾル製剤事件」大阪高裁

 本日は、『平成13(ネ)3840 特許権 民事訴訟エアロゾル製剤事件」平成14年11月22日 大阪高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/367D1DDCEB158E9149256CC60030DCAC.pdf)について取り上げます。


 昨年の7/17の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20070717)に、作用効果不奏効の抗弁として、本件の原審である『平成12(ワ)7221 特許権 民事訴訟エアロゾル製剤事件」平成13年10月30日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/438D23FA24CD20AF49256B2F0001977B.pdf)を取り上げましたが、中央知的財産研究所の「クレーム解釈論」で、弁理士の津国肇先生の「作用効果とクレーム解釈」を読んでいたところ、大阪地裁の判断のみならず、大阪高裁の判断も紹介されていたからです。


 つまり、大阪高裁は、

『 (1) 作用効果不奏功の抗弁

    特許法70条1項が規定するとおり,特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。しかして,特許請求の範囲に記載されているのは特許発明の構成要件であるから,対象製品が特許発明の技術的範囲に属するか否かは,特許請求の範囲に記載された特許発明の構成要件によって定められることとなる。


 そして,通常,当該特定の構成要件に対応して特定の作用効果が生じることは客観的に定まったことがらであり,出願者がこのようなうちから明示的に選別した明細書記載の作用効果が生じることも客観的に定まったことがらであるから,対象製品が明細書に記載された作用効果を生じないことは,当該作用効果と結びつけられた特許発明の構成要件の一部又は全部を構成として有していないことを意味し,又は,特許発明の構成要件の一部又は全部を構成として有しながら同時に当該作用効果の発生を阻害する別個の構成要素を有することを意味する。


 したがって,対象製品が特許発明の技術的範囲に属しないことの理由として明細書に記載された作用効果を生じないことを主張するだけでは不十分であって,その結果,当該作用効果と結びつけられた特許発明の特定の構成要件の一部又は全部を備えないこと,又は,特許発明の構成要件の一部又は全部を構成として有しながら同時に当該作用効果の発生を阻害する別個の構成要素を有することを主張する必要がある。このことは,明細書の発明の詳細な説明の記載に関する36条4項等の規定を前提としていい得ることである。


    また,化学や医薬等の発明の分野においては,特許発明の構成要件の全部又は一部に包含される構成を有しながら,当該特許発明の作用効果を奏せず,従前開示されていない別途の作用効果を奏するものがあり,このようなものは,当該特許発明の技術的範囲に属しない新規なものといえる。


 したがって,このようなものについては,対象製品が特許発明の構成要件を備えていても,作用効果に関するその旨の主張により,特許発明の技術的範囲に属することを否定しうる。


    控訴人は,原審において,構成要件C,Dの充足を否認したものの,本件発明の作用効果を奏しないことに結びつけて主張したわけでなく,当審において,構成要件C,Dの充足を争わなくなったのであるから,前記前者の趣旨の主張をしているとはいえず,本件発明の作用効果を奏しないと主張するのみで,本件発明と別途の作用効果を奏するとの主張をしていないから,前記後者の趣旨の主張をしているともいえない。


    したがって,主張自体必ずしも十分でないが,事案に鑑み,その主張の限りで判断を加える。


 ・・・省略・・・


 ・・・」と傍線部分を補正し,特許査定を受けた事実が認められるが,これは,被控訴人が,進歩性がないとする審査官の意見に対応して,化学的安定性,BDPの経時的な分解の程度,不純物の経時的な増大につき本件発明に係るベクロメタゾンのエアロゾル製剤と界面活性剤を含むエアロゾル製剤との対比を,進歩性の問題として,説明しているのであって,本件明細書の詳細な説明に記載された作用効果そのものの問題として説明しているのでなく,かつ,その後の拒絶通知に応じた補正とも関わりがない事項であるから,上記対比は,進歩性に関する範疇のことがらであって,非常に所望される高い化学的安定性という作用効果そのものに関する範疇のことがらでない。


     したがって,本件発明の作用効果である化学的安定性が0.0005重量%以上の界面活性剤を含まないことによる一般的安定性を示すものであって市販のベクロメタゾン17,21ジプロピオネート製品等と比較しての化学的安定性を示すものでないとの上記説示を左右しない。


     しかるところ,控訴人製剤は,上記重藤秀子による実験に明らかなとおり,回収率100%に近く,非常に所望される化学的安定性を示すことが明らかであり,控訴人製剤の化学的安定性につき上記統計的処理に基づく解析結果を否定する結果となっている。


   エ 以上によれば,控訴人製剤について,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された作用効果のうち,非常に所望される高い化学的安定性という効果がないと認めることはできない。


・・・省略・・・


  作用効果不奏功の抗弁は,控訴人製剤が本件発明の作用効果を奏しないことを立証しなければならないから,本件発明が行った吸入率の計算方法によらなければならないことは当然である。


     そうすると,控訴人の主張は,同計算方法によるものが含まれていない点において相当でなく,乙44の統計的解析の点を含め,これを認めるに足りる十分な証拠がない。


  (4) 以上によれば,控訴人製剤は,本件発明の構成要件をすべて充足し(仮に構成要件C,Dの充足を争っているとしても,原判決24頁1行目から25頁16行目まで記載のとおり充足する。),その技術的範囲に属するものというべきである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。