●平成18(行ケ)10428 実用新案「一体成型によるブラジャーの構造」

 本日は、『平成18(行ケ)10428 審決取消請求事件 実用新案権 行政訴訟「一体成型によるブラジャーの構造」平成19年05月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070604104218.pdf)について取り上げます。


 本件は、『特技懇 247号(最新号)』(http://www.tokugikon.jp/gikonshi/)の「シリーズ判例紹介 平成19年度第1四半期の判決から」(http://www.tokugikon.jp/gikonshi/247hanketsu.pdf)に掲載されていた事件で、無効審判の棄却審決の取消しを求めた訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、請求項の「一体成型」の用語の意味が一般的な意味で判断された点で、参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官中野哲弘 裁判官森義之 裁判官田中孝一)は、

『2 取消事由1(本件考案1の認定の誤り)について

(1) 本件考案1の内容は,前記第3,2に記載したとおりであり,これを分説すると,以下のとおりである(以下「構成A」などという。)

 ・・・省略・・・

(2) 以上を前提として,以下判断する。

イ そこで,まず本件考案1の文言について検討する。

 請求項1は,前記第3,2に記載したとおり,外カップ層の構造について,カップ部と背帯とが一体成型されたものであること(構成B ),内綿層の構造について,カップ部と背帯とが外カップ層の外形に対応するように一体成型されたものであること(構成C) ,及び,これらの接合構造について,高温でプレスされて緊密に貼合されていること(構成E)を要件としているから「一体成型」については,各部材が複数の部材片に分かれるものではなく,左右等が「一体」であることを記載したものということができる。


 しかし,本件考案1の構成E.「を含み,高温でプレスされて一体成型された該外カップ層と内綿層とが緊密に貼合されていることを特徴とする」との文言は,一体成型された外カップ層と内綿層との接合構造が,高温でプレスされて緊密に貼合されているものであると理解することはできるが,その文言の内容自体から見ても,これを超えて,外カップ層のカップ部が,高温プレスによる貼合の前にカップ状に成型されたものであるとか,内綿層が,貼合するだけでブラジャーとなる程度に外カップ層の外形に対応して成型されていることまで記載していると読み取ることはできず,「一体成型された外カップ層と内綿層」とが「高温でプレスされて」「緊密に貼合され」ることでブラジャーとなることまで記載していると解することはできないというべきである。


 このことは,「一体成型」の一般的な,意味内容について「成型」とは,一般に「形を作ること。形成。」(広辞苑第5版)を意味するものであるから,本件考案1の「一体成型」もかかる一般的な語義と同様に「一体」のものとしての形を作ることを意味すると解されるに止まることからも裏付けられる。


ウ また,本件明細書(甲6)の「【考案の効果】本考案によると,外カップ層及び内綿層は一体成型であるため,生産時には高温によるプレスで貼合させるだけでよく,…見た目にも美しい製品が完成し(段落【0007 】)」との記載は,前記(2)ア(カ)に認定した段落【0007】の記載全体を読めば,一体成型された外カップ層と内綿層とが高温プレスで貼合されることにより,従来必要とされた二つのカップ・下側部・背帯・肩紐等のパーツを縫い合わせる作業を不要としたことに基づく効果をいうものであることが明らかであるから,本件考案1が「一体成型された外カップ層と内綿層」とが「高温でプレスされて 」「緊密に貼合され」ることで,ブラジャーとなることを記載していることの裏付けとなるものではない。


 また,本件明細書(甲6)には,左右の対称や位置などを注意深く縫い合わせる作業が比較的難しいためにコストが高くなることが従来技術の欠点として挙げられている(段落【0003】)。


 しかし,当該記載も「一体成型」の文言が,上記イに記載したとおり,各部材が複数の部材片に分かれるものではなく左右等が「一体」であるという意味を有すると見ることと符合するとはいえるが,前記(2)ア(ウ)に認定した段落【0003】の記載全体を読めば,それを超えて,本件考案1が「一体成型された外カップ層と内綿層」とが「高温でプレスされて」「緊密に貼合され」ることでブラジャーとなることまで記載していることの裏付けとまでなるものとはいえない。


エ また,本件考案1の構成B.のカップ部を有する外カップ層が,貼合するだけでブラジャーとなる程度に,カップ部がカップ状に成型されていることについては,請求項1にも,本件明細書(甲6)の考案の詳細な説明にも何ら記載がなされていない。


 かえって,図3をみると,外カップ層11のカップ部111,内綿層12のカップ部121がカップ状に成型された様子を示すものとは認められず,一見しただけでは,これらの部分は平面状にもみえるから,むしろ,貼合する際の高温プレスによってカップ状に成型されるものと解する余地もある。また,図1をみると,内綿層12のカップ部121は,枠状部分の内側に形成された単なる空間のようにもみえることからすれば,外カップ層,内綿層の「カップ部」とは,カップとなることが予定される部分と解する余地もある。


 したがって,請求項1においては,外カップ層のカップ部が,高温プレスによる貼合の前にカップ状に成型されたものであるとか,内綿層が,「貼合するだけでブラジャーとなる程度に」外カップ層の外形に対応して成型されているということは,何ら特定されていないといわざるを得ず,本件考案1のB.C.E.の各構成は,外カップ層の構造について,カップ部と背帯とが一体成型されたものであること,内綿層の構造について,カップ部と背帯とが外カップ層の外形に対応するように一体成型されたものであること,及び,これらの接合構造について,高温でプレスされて緊密に貼合されているものであることを特定するにとどまり,それ以上の事項は特定していないというほかない。


オ 以上によれば,審決が,前記アのように,本件考案1の構成について,一体であり「カップ部が成型された」外カップ層,及び,一体であり「カップ部が成型された」内綿層を有し,それらを「高温でプレス」という手段で緊密に貼合された構造を意味するものと認定したことは誤りというべきであるから,審決は,本件考案1の要旨の認定を誤ったものである。


(4) 以上によれば,原告主張の取消事由1は理由がある。したがって,特許庁は,前記判示を前提として,改めて無効審判請求人たる原告主張の無効理由の有無について審理すべきである。


3 結論

 以上のとおり,原告主張の取消事由1は理由があり,その誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,その余の点について判断するまでもなく,審決は違法として取消しを免れない。


 よって,原告の本訴請求は理由があるから認容することとして,主文のとお-判決する。  』


 と判示されました。


 本件の場合、請求項の「一体成型」の用語の意義が明確であるので、リパーゼ最高裁判決の原則の通り、明細書の記載を参酌せずにそのまま解釈したことになるのかと思いれます。


 詳細は、本判決文を参照してください。


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