●昭和61(ワ)7518 商標権 民事訴訟「BOSS事件」大阪地裁

  本日は、『昭和61(ワ)7518 商標権 民事訴訟「BOSS事件」昭和62年08月26日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/C79CC817F5A3244449256A76002F8AEE.pdf)について紹介します。



 本件は、商標法上の商品とは商品それ自体交換価値を有する独立の商取引の目的物をいい、商品の宣伝広告及び販売促進用の物品に商標を使用しても、商標権の侵害には該当しないことを判示した事案です。


 つまり、大阪地裁は、


『・・・省略・・・

3 右のように宣伝広告及び販売促進用の物品に商標を附する場合には、商取引の目的物である「商品」は宣伝広告の対象となつている物品を指すものというべきであるから、被告の前記行為は楽器類にBOSSマークの商標を使用したものであつて、本件商標の指定商品である第一七類被服等に使用したものではない。また、被告は、前記の方法でBOSSマーク付きのTシヤツ等を被告製造の楽器類の購入者に無料配付しているのであるから、原告製造のTシヤツ等の商品との間で出所の誤認混同を生じる虞は全くない。

 したがつて、被告は原告の本件商標権を侵害していない。


第三 証拠(省略)
                   理   由

一 請求原因1の事実(原告が本件商標権を有していること)は、当事者間に争いがない。
二 請求原因2のうち、被告が訴外ジヤツクマン株式会社にTシヤツ、トレーナー、ジヤンパー等を製造させ、これらを取引先を通じて消費者に無償で譲渡したことがあることは、当事者間に争いがない。
 右事実と成立に争いのない乙第二号証の一ないし三、第三、第四号証の各一、二、被告製品であることにつき争いのない検甲第一号証、証人【A】の証言及び弁論の全趣旨によれば、被告は電子楽器等の製造、販売を業とする会社であるが、その製造、販売する電子楽器等に別紙商標目録記載の商標(以下「BOSS商標」という。)を使用しているところ、昭和五四年頃から電子楽器類の宣伝広告及び販売促進用の物品(ノベルテイ)として、Tシヤツ、トレーナー及びジヤンパーにBOSS商標を附したものを、被告の主張2(1)ないし(3)記載のような方法で被告製造の電子楽器の購入者に直接又は販売店を通じて無償で配付してきたこと、右Tシヤツ等は被告が訴外ジヤツクマン株式会社に発注して製造させるものであるが、その価額はTシヤツが一〇〇〇円、トレーナーが二〇〇〇円、ジヤンパーが三〇〇〇ないし四〇〇〇円程度であること、右Tシヤツ等にBOSS商標を附している態様は、Tシヤツ及びトレーナーについては胸部中央に大きくBOSS商標が表示され、襟タツグにも表示されており、ジヤンパーについては左胸部分及び背中中央部に表示されており、右のうちTシヤツについては、胸部に表示されたBOSS商標の下にこれより小さい文字で「for sound innovation on stage」と表示され、襟タツグのBOSS商標の下にもやはりこれより小さい文字で「a sound innovation」「JAPAN」と二段に表示されていることが認められる。

 なお、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三によれば、訴外ローランド株式会社を出願人として、指定商品第一一類、電気通信機械器具、その他本類に属する商品並びに同第二四類、楽器、演奏補助品、蓄音機(電気蓄音機を除く)、レコード、これらの部品及び附属品につき「BOSS」の商標及び大きい「●」のマークの下に「BOSS」の横書きの文字を配して成る商標等が公告になつていることが認められ、右事実と弁論の全趣旨によれば、被告は右ローランド株式会社からBOSS商標の使用許諾を受けているものと推認される。

 ところで、成立に争いのない甲第四号証及び原告本人尋問の結果によれば、昭和六〇年九月五日被告の楽器の販売店の一つであるフオーライフ梅田店において、原告の息子がBOSS商標付きのTシヤツ一枚を二〇〇〇円で買受けたことが認められるが、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める乙第六号証及び証人【A】の証言によれば、右Tシヤツは、被告製の電子楽器のノベルテイとして同店が置かれていたが、客から是非譲つてくれと頼まれて例外的に有償で譲渡したものであることが認められるから(原告本人の供述中右認定に反する部分は措信しない。)、原告の息子がBOSS商標付きのTシヤツを有償で入手した事実は、被告によるTシヤツ等の配付方法についての前記認定を左右するものではない。他には前記認定を左右するに足りる証拠はない。

 そこで、右認定事実を前提として、被告がBOSS商標を附したTシヤツ等を電子楽器の購入者に配付している行為が本件商標権の侵害行為となるかどうかを考える。

 商標法上商標は商品の標識であるが(商標法二条一項参照)、ここにいう商品とは商品それ自体を指し商品の包装や商品に関する広告等は含まない(同法二条三項参照)。商標権者は登録商標を使用する権利を専有し、これを侵害する者に対し差止請求権及び損害賠償請求権を有するが、それは商品についてである(同法二五条参照)。


 したがつて、商標権者以外の者が正当な事由なくしてある物品に登録商標又は類似商標を使用している場合に、それが商標権の侵害行為となるか否かは、その物品が登録商標の指定商品と同一又は類似の商品であるか否かに関わり、もしその物品が登録商標の指定商品と同一又は類似ではない商品の包装物又は広告媒体等であるにすぎない場合には、商標権の侵害行為とはならない。そして、ある物品がそれ自体独立の商品であるかそれとも他の商品の包装物又は広告媒体等であるにすぎないか否かは、その物品がそれ自体交換価値を有し独立の商取引の目的物とされているものであるか否かによつて判定すべきものである。


 これを本件についてみるに、被告は、前記のとおり、BOSS商標をその製造、販売する電子楽器の商標として使用しているものであり、前記BOSS商標を附したTシヤツ等は右楽器に比すれば格段に低価格のものを右楽器の宣伝広告及び販売促進用の物品(ノベルテイ)として被告の楽器購入者に限り一定の条件で無償配付をしているにすぎず、右Tシヤツ等それ自体を取引の目的としているものではないことが明らかである。また、前記認定の配付方法にかんがみれば、右Tシヤツ等はこれを入手する者が限定されており、将来市場で流通する蓋然性も認められない。


 そうだとすると、右Tシヤツ等は、それ自体が独立の商取引の目的物たる商品ではなく、商品たる電子楽器の単なる広告媒体にすぎないものと認めるのが相当であるところ、本件商標の指定商品が第一七類、被服、布製身回品、寝具類であり、電子楽器が右指定商品又はこれに類似する商品といえないことは明らかであるから、被告の前記行為は原告の本件商標権を侵害するものとはいえない。


三 よつて、原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。   』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。