●平成13(ネ)959 特許権 民事訴訟「置換プリン事件」

 本日は、一昨日からの医薬関連事件として、最高裁判決ではありませんが、東京高裁事件である『平成13(ネ)959 特許権 民事訴訟「置換プリン」平成13年11月29日 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/1C32C461B2230E5C49256B53000783C9.pdf)について紹介します。


 本件は、原告特許製品(製剤)から特許対象成分(アシクロビル)を取り出し,これを含有する被告製品(製剤)を製造するた行為は,特許対象成分(アシクロビル)を生産する行為ではなく,単にこれを使用する行為に過ぎず、消尽論が適用されることを判示した事案です。


 特許品の修理・や改造の消尽論については、インクカートリッジ知財高裁第合議事件により特許権が消尽する類型として第1類型、第2類型という2つの類型に分けられ、その後、下級審によりこのインクカートリッジ知財高裁第合議事件の判断が引用されるようになったので、本権事案はそれほど参考にすべき事案であるかは不明ですが、製薬品や化学品から特許対象成分を取り出し使用する物質特許の消尽論としては、参考になる事案かと思われます。



 つまり、東京高裁は、


『当裁判所は,控訴人らの本訴請求は,いずれも理由がないから棄却すべきものである,と判断する。その理由は,次のとおり付加するほか,原判決の「第三 当裁判所の判断」の一1(一),(三),2(一),(二),(五),二のとおりであるのでこれを引用する。


1 特許権者は,業として特許発明の実施をする権利を専有する(特許法68条)。そして,物の発明について,特許発明の実施とは,その物を生産し,使用し,譲渡し,貸し渡し,若しくは輸入し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。)をする行為をいうと定義されているから(同法2条3項1号),特許権者は,業として特許発明に係る物を生産し,使用し,譲渡し,貸し渡し,若しくは輸入し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をする(以下単に「使用し,譲渡等する」という。)権利を専有するものである。


  しかし,特許権者等が,我が国の国内において,当該特許発明の実施対象を用いた製品である特許製品を譲渡したときは,その特許製品については,特許権はその目的を達成したものとして消尽し,その実施対象が実施対象としての同一性の範囲内にとどまる限り,当該特許権の効力は,その特許製品を業として使用し,譲渡等する行為には及ばないものというべきである(BBS最高裁判決参照)。


 このような特許権の消尽は,特許権者等が一たび特許製品を市場に流通させた以上,適法にその特許製品の所有権等を取得した者が,これを業として使用し,譲渡等する行為に対し,特許権者等が当該特許権を行使することができるとしたのでは,既に特許製品の譲渡により実施対象に対して十分な利益を得ている特許権者等に二重の利益を与えることになるだけでなく,そもそも市場における商品の自由な流通を阻害し,もともと所有権制度と衝突する側面を有する特許権に対し,必要の限度を超えた過度の権利を与えることになり,社会公共の利益にも反し,本来の特許法の目的に反する結果となるからである。


  したがって,特許権者等が,我が国の国内において当該特許発明の実施品である特許製品を譲渡した場合は,これを買い受けた者が,特許製品を業として使用し,譲渡等するために,当該特許製品を修理等したとしても,その修理等の行為が,特許発明に含まれない部品の交換であったり,特許発明の構成要素である部品の交換であったりなどしても,当該製品の使用を継続するために通常必要な部品の交換(電池やフィルターなどの消耗品,あるいは耐用期間の短い一部の部品の交換がその典型例であるが,必ずしもこれらの行為に限定されるわけではない。)等であって,実施対象の同一性の範囲内において行われる限りは,それらの行為は,当該製品の継続的な使用や中古品としての再譲渡等に必要な行為であり,その製品の本来の寿命を全うさせる行為であって,当該製品を新たに生産する行為とはいえないものであるから,当該特許権の効力は,このような修理行為等に対して及ぶことはないというべきである。


  しかし,当該特許発明の主要な構成に対応する主要な部品を交換するなどして,修理等の域を超えて,実施対象を新たに生産するものと特許法上評価される行為,すなわち,特許発明の主要な構成に対応する主要な部品の交換等により,特許権者等が譲渡した特許製品に含まれる実施対象と同一のものとはみなされなくなるものを生産する行為は,もはや単なる修理やオーバーホールなどということはできず,特許権者等が本来専有する実施権である,特許発明の実施対象を生産する行為に該当し,この新たな生産行為について,当該特許権の効力が及ぶのは当然というべきである。


 すなわち,特許権の消尽といっても,特許権の効力のうち,生産する権利については,もともと消尽はあり得ないのであり,前記のとおり,消尽するのは,特許権者等の生産に係る特許製品に含まれる実施対象を業として使用し,譲渡等する権利であり,特許製品を適法に購入した者といえども,特許製品を構成する部品や市場で新たに購入した第三者製造の部品等を利用して,新たに別個の実施対象を生産するものと評価される行為をすれば,特許権を侵害することになるのは当然というべきである。


2 本件の事実関係が,次のとおりであることは,当事者間に争いがない。

(1) 本件特許発明は,いわゆる物質発明であり,特定の化学式で示される構造の置換プリン又はその塩を内容とするものであって,特許権の存続期間満了後,右物質に属するアシクロビルについて,「単純疱疹 骨髄移植における単純ヘルペスウイルス感染症(単純疱疹)の発症抑制(ただし,「単純ヘルペスウイルスに基因する下記感染症 免疫機能の低下した患者(悪性腫瘍・自己免疫疾患など)に発症した単純疱疹」を除く。)」の用途につき,存続期間が延長され,その旨の登録がなされた。


(2) 本件特許権の通常実施権者である控訴人グラクソの製造販売に係る原告製剤は,アシクロビルを有効成分とするものであり,原告製剤1錠中に,アシクロビル200?,賦形剤31.7?,崩壊剤10?,結合剤6.25?,滑沢剤2?を含有し,右特許延長に係る用途(効能・効果)である,「単純疱疹」及び「骨髄移植における単純ヘルペスウイルス感染症(単純疱疹)の発症抑制」のほかに「帯状疱疹」の用途を有する。


(3) 被控訴人沢井製薬は,本件特許延長期間中に原告製剤7000錠を購入し,精製水を加えて攪拌することにより錠剤を崩壊させてアシクロビル粗固体等を得た上で,これを精製してアシクロビル精製晶を得て,更に精製晶を再結晶させ,これを使用して被告製剤3500錠を製造した。


(4) 被告製剤は,アシクロビルを有効成分とするものであり,被告製剤1錠中に,アシクロビル200?,賦形剤ないし崩壊剤が14.11?ないし6?,結合剤3?,2種類の滑沢剤各2.4?を含有し,本件特許延長に係る用途(効能・効果)である,「単純疱疹」及び「骨髄移植における単純ヘルペスウイルス感染症(単純疱疹)の発症抑制」の効能・効果を有している。

(5) 被控訴人らは,本件特許延長期間中に被告製剤を販売した。

3 上記2の事実によれば,本件特許権の通常実施権者である控訴人グラクソは,本件特許発明の実施として,原告製剤を製造販売したものである。すなわち,控訴人グラクソによる原告製剤の販売時期が本件特許権の延長前の本来の存続期間内であればもちろんのこと,本件特許延長期間中であっても,原告製剤は本件特許延長に係る物質であるアシクロビルを有効成分として含有し,本件特許延長に係る本件特許発明の用途(効能・効果)を有するのであるから,本件特許延長に係る本件特許発明の実施品に当たる。

  被控訴人らが本件特許延長期間中に販売した被告製剤は,本件特許延長に係る物質であるアシクロビルを有効成分として含有し,本件特許延長に係る本件特許発明の用途(効能・効果)を有するものである。しかし,前記のとおり,被告製剤に含まれるアシクロビルは,原告製剤を崩壊させて得られたアシクロビル粗固体を精製し,再結晶させて得られたものであり,被告製剤は,このアシクロビルを使用して製造されたものであるから,このアシクロビルは,原告製剤に由来するものである。


  被控訴人沢井製薬が,原告製剤からアシクロビルを取り出し,精製し,再結晶させた前記の行為が,控訴人グラクソが販売した原告製剤に含まれるアシクロビルをその同一性の範囲内で単に使用し,譲渡等する行為とみられる限り,本件特許権の効力は,前記のとおり,消尽により消滅しているため,これには及ばないものであり,本件特許権の効力が及ぶのは,被控訴人沢井製薬の上記行為が,本件特許発明の実施対象であるアシクロビルを生産したものと評価される場合のみであることは,前記のとおりである。


  しかし,被控訴人沢井製薬は,原告製剤に含まれるアシクロビルを取り出すために,前記のような原告製剤の崩壊,アシクロビル粗固体の精製,再結晶行為を行っているだけであり,被告製剤に含まれるアシクロビルは,原告製剤に含まれていたアシクロビルそのものであって,アシクロビルについて何らかの化学反応が生じたり,何らかの化学反応によりアシクロビルが新たに生成されたりしたわけではないのであるから,被控訴人沢井製薬の行為についてみると,本件特許発明の実施対象であるアシクロビルを新たに生産したものと評価することはできないのである。


  以上によれば,被控訴人沢井製薬が,原告製剤からアシクロビルを取り出して,これを含有する被告製剤を製造した行為は,本件特許発明の実施対象となるアシクロビルを生産する行為ではなく,単にこれを使用する行為というべきであるから,本件特許発明の実施対象という側面からみる限り,これを新たな生産行為ということはできず,したがって,被控訴人沢井製薬による被告製剤の製造行為についても,被控訴人らがこれを譲渡した行為についても,本件特許権の効力は及ばないものという以外にない。


4(1) 控訴人らは,「BBS最高裁判決は,特許製品に変形が加えられた場合における問題として,特許権が消尽する範囲について具体的に判断しているわけではないのであるから,消尽が生じない変形の範囲については,同判決が挙げた商品の自由な流通の阻害の防止等の事情を考慮しつつ,特許権者等の黙示的許諾が認められる範囲を考慮して決めるべきである。すなわち,特許製品に変形が加えられた場合においては,当該製品の客観的な性質,取引の態様,利用形態等の事情等を社会通念に沿って検討した結果,特許権者等が特許製品の頒布時において,特許製品に当該変形が加えられることを予定すべきであったと認める場合にのみ,消尽が成立するのであり,特許製品に当該変形が加えられることをおよそ予想もし得ない場合には,消尽の成立は否定されるべきである。」と主張する。


   しかし,特許権者により譲渡された特許製品については,それに用いられた特許発明の実施対象が同一性の範囲内にとどまる限り,特許権の実施権のうち,使用し,譲渡等する権利は消尽して及ばないものであること,及び,特許製品に変形が加えられた場合に,特許権の効力が及ぶのは,特許法上,特許発明の実施対象を新たに生産する行為があったと評価される場合のみであること,特許製品を変形する行為であっても,特許発明の実施対象が同一性の範囲内にとどまる限り,単に特許製品を部品交換やオーバーホールにより修理し,その製品の本来の寿命を全うさせるなどの行為については,未だ生産行為には当たらないものと解されることは前記のとおりである。


 また,特許製品に対する変形行為が,単なる特許製品の修理等の範囲にとどまるか,新たな特許発明の実施対象の生産行為と評価されるものであるかは,当該変形行為を特許発明の実施行為である生産行為と評価することができるか否かにかかっているのであり,特許発明の主要な構成に対応する部品を第三者の製造する部品と交換する等の行為がそのように評価することのできる典型例であることも前記のとおりである。


 そして,特許発明の実施行為である生産行為と評価することができるか否かは,相手方が特許製品についてなした変形行為を具体的にとらえ,当該製品及び実施対象の客観的な性質,利用形態等から,これが特許発明の新たな実施対象の生産に当たるか,そうではなく,当初の特許製品の本来の寿命を全うさせるための修理など,その実施対象の同一性の範囲内において行われているものに当たるかを,当該特許発明の構成と作用効果若しくはその技術思想に基づいて評価し,判断すべきである。控訴人らの上記主張は,要するに,消尽が成立するか否かを特許権者等が予想し得るか否かを基準として決定すべきであるとするものである。しかし,前記のとおり,消尽は,特許権者の意思とは無関係に,特許権者による特許製品の譲渡行為により無条件に生じるものというべきである。控訴人らの主張する基準は,採用することができない。


(2) 控訴人らは,「被控訴人らが原告製剤から一体不可分な賦形剤等を分離して有効成分であるアシクロビルを抽出し,原告製剤と大きさ,重量,成分等が異なる被告製剤を製造販売することは,控訴人らはもとより,医師,患者,医薬品取引業者は,そもそも予想し得なかったはずである。」とか,「被控訴人らの行為は,医師や患者等公共の利益に貢献するものではなく,経済的にも無益な行為である。修理の場合には,修理される部分は,損耗や減失によって使用に耐えなくなり,これを修理する必要性がユーザーに存在するのに対し,本件では,原告製剤を変形ないし加工する合理的必要性は何ら認められないのである。」と主張する。


 しかし,被控訴人らの行為が本件特許権を侵害するか否かは,被控訴人らの行為が,本件特許発明の構成と作用効果若しくはその技術思想に基づいて,本件特許発明の対象であるアシクロビルを生産する行為と評価することができるか否かにより決めるべきであることは,前記のとおりであり,特許権者である控訴人らが予想し得たか否か,又は,公共の利益に貢献するか否か,あるいは経済的に無益か否かで決定すべき事柄ではない。したがって,控訴人らの上記主張も採用することができない。


(3) 控訴人らは,「本件では,原告製剤という医薬品が被控訴人らによって崩壊させられ,アシクロビル粗固体になっている。このような行為は,原告製品の客観的な性質上,特許権者等である控訴人らが予定し得べき行為ではない。しかも,この行為は,原判決が挙げる,消耗品,製品全体と比べて耐用期間の短い一部の部材,あるいは,損傷を受けた一部の部材の交換と同列に論ずることのできる性質のものではない。被控訴人らの崩壊行為により,原告製剤がアシクロビル粗固体になった時点で,原告製剤と被告製剤との同一性は失われたものと評価すべきである。」と主張する。


  しかし,特許権の消尽についは,特許権者が予定し得べき行為であるか否かによってこれを決定すべきものではないことは前に説示したとおりである。また,本件は,特許製品の部品を交換した事例ではないが,あえて部品交換の事例に例えていえば,特許発明の実施対象であるアシクロビルを部品として使用した製品(原告製剤)から,その部品そのものを取り出し,これを他の製品(被告製剤)の部品として使用しただけのことであり,実施対象であるアシクロビルは,その同一性を維持しつつ,その本来の目的に供されているだけのことである。控訴人らの主張は,採用することができない。


(4) 控訴人らは,「原告製剤は,錠剤であり,もともとは1錠毎に区別できる固体である。しかし,この固体が,崩壊させられ,アシクロビル粗固体になった時点で,原告製剤は,完全に崩壊されて本の形態をとどめない状態となるため,原告製剤と被告製剤との間には,およそ各製品毎の1対1の対応関係は存在しないことになる。そのため,原告製剤においては,そもそも交換されなかった部分は,存在しないのである。しかも,本件では,本件特許延長の用途に係る効果を奏する,原告製剤中の有効成分アシクロビルについても,アシクロビル粗固体になった時点で,化学変化は生じていないとはいえ,固体で独立に存在していた錠剤が,他の錠剤とも混じり,液体ないし粗固体になるという状態変化が生じている。このようにして,本件においては,特許製品と対象製品との間で,製品としての実質的同一性を論ずる前提すら失われてしまっている。そうである以上,被告製剤は,「当該特許製品において特許発明の本質的部分を構成する主要な部材を取り除き,これを新たな部材に交換した場合」と同様に,原告製剤との間の同一性が失われているとみるべきである。」と主張する。


  しかし,特許発明の対象となる製品を生産する行為がなければ,特許権侵害行為は生じないと解すべきことは前記のとおりである。そして,被控訴人らが原告製剤からアシクロビルを取り出す過程でアシクロビルの状態変化が生じているとしても,アシクロビルを生じさせるような化学反応は全くなく,取り出したアシクロビルについては,何らの化学的変化も生じていない以上,原告製剤1錠毎に含まれていたアシクロビルと被告製剤1錠毎に含まれるアシクロビルとの間に個別的な対応関係がないとしても,被控訴人らがアシクロビルの生産行為をなしたものとみることはできない。被控訴人らが本件特許発明の対象となるアシクロビルを生産していない以上,被控訴人らの行為について本件特許権の効力は及ばないことは前記のとおりである。控訴人らの主張は採用できない。


(5) 控訴人らは,「物質特許とは,医薬品等に用いられる新規な化学物質を発明の対象とするものであるとはいえ,当該化学物質だけでなく,当該化学物質を含有する製剤をも当然の保護の対象とするものであり,現実の取引は後者を中心になされているのであるから,一般には,前者よりも後者を保護することの方が重要性が高いのである。そうである以上,物質特許発明を実施した製品とは,当該化学物質(医薬品でいえば,原末)だけでなく,当該化学物質を含有する製剤を当然に含むものというべきである。」とか,「本件特許延長に係る本件特許発明の「生産」とは,「単純疱疹 骨髄移殖におけるヘルペスウイルス感染症(単純疱疹)の発症抑制」の用途(効能・効果)を有し,アシクロビルを含有する医薬品を生産することを意味することになる。結局,本件においては,被控訴人らは本件特許延長に係る本件特許発明の対象である医薬品(被告製剤)の「生産」をしたものであって,単に当該発明の「使用」をしたものではないというべきである。」と主張する。


 しかし,特許権の消尽が成立するのは,特許権の効力が及ぶ部分,すなわち,特許発明の対象となる部分について考えれば足りるのであり,特許権の効力が及ばない部分について特許権の消尽を考える必要はないことは明らかである。本件においては,本件特許発明の対象となる部分は,アシクロビルであり,原告製剤全体でも,被告製剤全体でもないのであるから,原判決が原告製剤と被告製剤に含有されるアシクロビルについてのみ,本件特許発明の実施品としての同一性を検討したのは正当であり,原告製剤と被告製剤との間でその同一性を判断する必要はない。


 本件特許発明における生産とは,アシクロビルの生産をいうのであり,アシクロビルを含有する医薬品を生産する行為をいうのでないことは明らかである。控訴人らの上記主張は,特許発明の対象そのものではなく,これを含むにすぎないもの自体を特許発明の対象とみよということに帰する。このような主張が成立し得ないことは,論ずるまでもないことである。


  控訴人らは,「有効成分であるアシクロビルについてのみ消尽を論ずるべきものと解すると,特許権が,例えば,有効成分である物質αのみについて成立している場合の方が,特許権が有効成分である物質α並びに賦形剤β及びγからなる製剤に成立している場合よりも,消尽が認められる範囲が広くなり,特許権による保護が弱くなるという不均衡が生ずる。」と主張する。


  しかし,これは,理解し難い主張という以外にない主張である。特許権がαについてのみ成立している場合と,特許権がα,β,γから成るものについて成立している場合とで,消尽の認められ方に差異が生じるのは当然のことであり,前者は,後者に比べて効力の及ぶ範囲が広いという側面を有する以上,後者には認められないときに消尽が認められることが生じても,何ら不思議ではないことである。控訴人らの主張は,要するに,アシクロビルという物質にしか特許権が成立していないにもかかわらず,原告製剤そのものにも特許権が成立しているものとして扱え,というに帰するのであり,採用し得ないことが明らかである。


5 以上に検討したところによれば,控訴人らの請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないことが明らかであり,これらを棄却した原判決は相当である。そこで,本件控訴を棄却することとして,訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間の付与について,民事訴訟法67条1項,61条,65条1項本文,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。  』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。