●平成12(ワ)20503 特許権 民事訴訟「電着画像の形成方法事件」

 今日は、一昨日の早稲田大学のRCLIPのセミナーで間接侵害事件の一例として紹介されていた『平成12(ワ)20503 特許権 民事訴訟「電着画像の形成方法事件」平成13年09月20日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/91D93B1B099E0FEE49256B10001CD83A.pdf)について紹介します。


 本件は、原告が被告に対し、別紙目録記載の時計文字盤等用電着画像を製造,販売、輸出の差止め及び廃棄を求めたところ、方法発明の工程全てを被告が自らこれを実施していないが,被告はこの工程を被告製品の購入者である文字盤製造業者を道具として実施させているので方法特許の侵害が認められ、輸出を除く製造、販売の差止め及び廃棄が認容された事件です。


 本件は、別冊ジュリストの「特許判例百選[第三版]」のP150に「72 方法の一部の第三者による実施」という題で掲載されています。


 また、本件は、一太郎知財高裁の方法発明の間接侵害の判断を考慮すると、間接侵害というよりは、民法の共同不法行為(民719条)の判断に近いような感を受けます(※なお、民法の共同不法行為(民719条)により侵害と判断すると、民709条の損害賠償は認められますが、特許法100条の差止め請求は請求できないと言われています。)



 本件では、「争点4(構成要件(vi)に該当する工程〔被告製品の時計文字盤等へ貼付〕を,被告自らが実施せず,被告製品の購入者において実施しているとしても,この全体の工程を被告の行為と同視して,本件特許権の侵害と評価することができるか)について」、原告および被告は、それぞれ、


『(1) 原告の主張

 構成要件(vi)は,支持基材(アプリケーションシート)に転写された電着画像(露出面には接着剤層が形成されている)を被着物(時計文字盤)に貼り付けて,支持基材(アプリケーションシート)を剥離するという機械的な工程にすぎず,被告製品を購入した文字盤製造業者は必ず業として右工程を行う。すなわち,被告は,文字盤製造業者をいわば手足として,上記構成要件(vi)を実施しているのにほかならない。


 また,以上が構成要件(Vii)の「電着画像の形成方法」に該当することは,いうまでもない。


(2) 被告の主張

 被告は,電着画像を文字盤製造業者に販売しているのであって,粘着材層を介して,文字盤に電着画像を固着するという工程を自ら行っているものではない。もとより被告は,文字盤製造業者の仕様に適合するように製品を製造しているのであって,被告が文字盤製造業者を手足として利用しているのではない。』

と主張されました。


なお、問題になった特許の構成要件(vi)は、

『(vi)前記支持基材から前記電着画像を剥離しつつ,前記固定用接着剤層を介して前記電着画像を被着物の表面に貼付けることを特徴とする』

であります。


 そして、東京地裁(民事第46部 三村量一裁判長裁判官)は、争点4に関し、

『4 争点4(構成要件(vi)に該当する工程〔被告製品の時計文字盤等へ貼付〕を,被告自らが実施せず,被告製品の購入者において実施しているとしても,この工程を含んだ全体の工程を被告の行為と同視して,本件特許権の侵害と評価することができるか)について


(1) 被告製品は,前記争いのない事実記載のとおり,工程11において,裏面から捨て電鋳層を剥離し,次いで,剥離紙を貼付した後,製品電鋳層を切り離した上で,包装され,販売されている。


 被告製品は,この状態で,文字盤製造業者に販売されているところ,これを購入した文字盤製造業者によって,裏面の剥離紙を剥がされて,文字盤等の被着物に貼付されることは,「時計文字盤等用電着画像」という被告製品の商品の性質及び上記の被告製品の構造に照らし,明らかである。


 被告製品には,他の用途は考えられず,これを購入した文字盤製造業者において上記の方法により使用されることが,被告製品の製造時点から,当然のこととして予定されているということができる。


 したがって,被告製品の製造過程においては,構成要件(vi)に該当する工程が存在せず,被告製品の時計文字盤等への貼付という構成要件(vi)に該当する工程については,被告が自らこれを実施していないが,被告は,この工程を,被告製品の購入者である文字盤製造業者を道具として実施しているものということができる。

 したがって,被告製品の時計文字盤等への貼付を含めた,本件各特許発明の全構成要件に該当する全工程が被告自身により実施されている場合と同視して,本件特許権の侵害と評価すべきものである。 』

と判示されました。



 また、原告が求めた輸出行為の差止めについては、

『(2) もっとも,被告製品が輸出された場合には,日本国外において被告製品を購入した文字盤製造業者がこれを時計文字盤等に貼付することとなる。この場合には,被告自身は国内に所在しているとしても,構成要件(vi)に該当する工程は国外に所在する購入者により国外で実施されるものである。


このような場合には,本件各特許発明の全構成要件に該当する全工程についてみると,その一部を日本国内において,残余を日本国外において実施することとなり,国内においては方法の特許の技術的範囲に属する行為を完結していないことになるから,方法の特許を国内において実施していると評価することはできない。


そうすると,我が国の特許権の効力が我が国の領域内においてのみ認められること(特許権属地主義の原則)に照らすと,被告製品が輸出される場合には,被告製品の製造行為を本件特許権の侵害ということはできない(なお,特許法2条3項1号に規定する物の発明の実施には,その物を輸出する行為は含まれていない。)。


 本件においては,被告が日本国内において被告製品を販売していることは認められるが,被告製品を輸出している事実を認めるに足りる証拠はないから,原告は,本件特許権の侵害の停止及びその予防に必要な行為として,被告に対し,被告製品の製造・販売の差止め及び被告製品の廃棄を求めることができる。しかし,上記に説示した理由により,被告製品の輸出の差止めを求めることはできない。


・・・

7 結論

 以上判示のとおり,被告が被告製品を製造・販売して,その購入者である文字盤製造業者をして被告製品を時計文字盤等へ貼付させる行為は,全体として本件特許権を侵害するものであり,また,本件特許権に無効事由があるとは認められないから,本訴請求において,原告が被告に対し,被告製品の製造・販売の差止め及び被告製品の廃棄を求める点は,理由がある。しかし,被告製品の輸出の差止めを求める点は,理由がない。

 よって,主文のとおり判決する。   』

と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


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●『テレビ局を震撼させた「まねきTV裁判」の中身』http://plusd.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/0703/05/news007.html
●『特集:企業経営と知的財産(1)「ポスト知的財産立国」時代の「知的財産・経営・法務」の方向性』http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/etc/iwakura20070305.html