●平成23(ワ)10341 特許権侵害差止等請求事件「パソコン等の器具の

 本日は、『平成23(ワ)10341 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「パソコン等の器具の盗難防止用連結具」平成24年11月8日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121116134220.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、機能的クレームの解釈についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第26民事部 裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 松川充康、裁判官 西田昌吾)は、

『(4)機能的クレームの解釈

 仮に,上記原告の主張を前提としても,本件各特許発明の「スライド可能に係合」ないし「分離不能に保持」という記載は,機能的,抽象的なものであるから,当該機能ないし作用効果を果たしうる構成であれば,全てその技術的範囲に含まれるとすると,明細書に開示されていない技術思想(課題解決原理)に属する構成までもが,本件各特許発明の技術的範囲に含まれることになりかねない。


 したがって,上記のような,いわゆる機能的クレームについては,【特許請求の範囲】や【発明の詳細な説明】の記載に開示された具体的な構成に示されている技術思想(課題解決原理)に基づいて,技術的範囲を確定すべきものと解される。


  また,明細書に開示された内容から,当業者が容易に実施しうる構成であれば,その技術的範囲に属するものといえるが,実施することができないものであれば,技術思想(課題解決原理)を異にするものとして,その技術的範囲には属さないものというべきである。


 そこで検討すると,以下のとおり,被告各製品の構成については,当業者が,技術常識等を参酌することにより,本件明細書の記載に基づき,容易に実施することができるものであったとは認めることができない。


公知技術ではないこと

 原告は,2つの部材をピンによって枢結し,回動させる構成が公知技術である旨主張する。


 しかしながら,原告が公知技術として提出するのは,クレセントおよびそのクレセントを備えた戸(甲22),サイドガラスロック装置(甲23),スライド式ウィンドの開閉装置(甲24),自動車のスライド窓ロック装置(甲25),荷物掛けを有する扉の掛け金具(甲26),ライター(甲28),鼻輪(甲29),折畳み式携帯電話機(甲30の1),無線機(甲30の2),脱落防止付きバッジ(甲31)であり,本件各特許発明とは,明らかに技術分野を異にするものである。


当業者が容易に実施することができるものではないこと等

 原告は,当業者が,複数の部材を「スライド可能に係合」する手段として,複数の部材を1点でピンないしヒンジ等で係合する構成を採用することに格別の困難はない旨主張する。しかしながら,被告各製品の構成では,補助部材が円弧方向にスライドする場合,突起部も円弧方向に移動するから,突起部は,スリットの周りの壁にぶつかるか,スリット内に挿入できたとしても,すぐにスリットの内壁にぶつかり,スリットに挿入することができない。


 そこで,被告各製品では,ピンと突起部との距離を離した上,突起部の外側縁部を円弧状とすることで,突起部をスリット内に挿入するようにしている。


 以下,ピンと突起部の距離が短い場合と長い場合及び突起部の外側縁部が円弧状でない場合の図を示す(赤点線は,突起部のスライドする軌跡である。)。


 上記のとおり,被告各製品の構成(主プレートと補助部材とを,ピンによって一端を枢結し,回動自在に結合する構成)では,突起部とピンとの距離を離したり,突起部の形状を工夫したりしなければ,主プレートと補助部材とをスライド可能にすることはできないものである。


 被告各製品の構成を採用した場合に生じる上記課題は,本件各特許発明には存在しないものであるところ,上記課題が自明ないし公知のものであるとはいえないし,その解決手段として,上記被告各製品の構成を当業者が容易に採用しうるものであるとする主張立証はない。


 これらのことからすれば,被告各製品の構成は,当業者が,技術常識ないし公知技術等を参酌することにより,本件明細書に基づいて容易に実施突起部とピンとの距離が長い場合突起部とピンとの距離が短い場合突起部の外側縁部が円弧状でない場合することができるものであるとは認めることができない。


 また,前記(3)で検討したところからすると,本件各特許発明が開示する技術思想(課題解決原理)は,一方のプレートにスライド方向に延びた長孔を開設し,他方のプレートにピンを固定し,当該ピンが当該長孔にスライド可能に嵌められることにより「スライド可能に係合」し,かつ「分離不能に保持」するものである。


 そうすると,上記被告各製品の構成は,「スライド可能に係合」及び「分離不能に保持」という機能を実現するため,本件明細書等で開示された技術思想とは原理的に異なる構成を採用したものというべきである。


 結局のところ,被告各製品の構成と本件各特許発明とは,「スライド可能に係合」及び「分離不能に保持」という構成の点において,異なる技術思想(課題解決原理)によるものであると解される。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。