●平成22(行ケ)10339 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「潤煌」

 本日は、『平成22(行ケ)10339 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「潤煌」平成23年06月06日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110608113551.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、本願商標と引用商標との類否についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 東海林保、裁判官 矢口俊哉)は、


『2 本願商標と各引用商標との類否について

(1) 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品・役務に使用された場合に,商品・役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品・役務に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者・需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品・役務の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。


 そして,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品・役務につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,これら3点のうち類似する点があるとしても,他の点において著しく相違することその他取引の実情等によって,何ら商品・役務の出所の誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては,これを類似商標と解することはできないというべきである(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。


 また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標について,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者・需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合を除き,許されないというべきである最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,同平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,同平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照。)


 そこで,以上の観点に立って,本願商標と引用商標1ないし3との類否について検討する。


(2) 本願商標と引用商標1との類否(取消事由1)

ア 外観

(ア) 本願商標

 本願商標は,前記第2,2(1)のとおり,中央に大きく毛筆体様文字で「潤煌」の文字を配し,その上段に横書きでそれと縦横ともに約4分の1の大きさの楷書体様文字で「本草製薬の」の文字を配し,「潤」と「煌」との間に赤地の四角形内に白抜きで小さく「うるおう」の文字を縦書きした構成からなる結合商標と認められる。

(イ) 引用商標1

 引用商標1は,前記第2,2(2)のとおり,上段に楷書体様文字で「潤甦」の文字を横書きし,下段にそれと1文字分がほぼ同じ大きさの欧文字で「JUNKOU」の文字を横書きした構成からなるものであり,1文字分の大きさがほぼ同一なため,文字数の多い下段の「JUNKOU」が横に大きく広がっており,全体として台形状に見える結合商標である。

(ウ) 対比

 以上のとおり,両商標の外観が共通するのは,その構成部分に漢字2文字の部分を有し,そのうちの一文字が「潤」であることのみであって,全体的に観察すると,両商標の外観は著しく異なる。


イ 観念

(ア) 本願商標

 「潤煌」については,強いていえば,「うるおってきらめく」という観念が生じる余地はあるが,もともと成語ではなく特定の観念は生じないものと認められる。


(イ) 引用商標1

 「潤甦」については,強いていえば,「うるおいがよみがえる」あるいは「うるおってよみがえる」という観念が生じる余地があるが,もともと成語ではなく特定の観念は生じないものと認められる。また,「JUNKOU」からも特定の観念は生じない。


(ウ) 対比

 以上のとおり,両商標とも特定の観念を生じるとは認められないから,観念において比較することはできず,観念が同一又は類似するということはできない。


ウ 称呼

(ア) 本願商標

 本願商標の構成中「本草製薬の」の文字部分については,乙8(広辞苑第6版)によれば,これを構成する「本草」の文字は「ホンゾウ」と読み,乙9(広辞苑第6版)によれば,「製薬」の文字は「セイヤク」と読む成語であり,「の」は格助詞であることから,「本草製薬の」の文字部分は,「ホンゾウセイヤクノ」と発音するものである。


 また,本願商標の構成中「うるおう」の文字部分は,該文字に相応し「ウルオウ」と発音するものである。


 さらに,本願商標の構成中「潤煌」の文字部分については,乙10(角川最新漢和辞典新版)によればこれを構成する「潤」の文字は「ジュン」と,乙11の1(角川最新漢和辞典新版)によれば「煌」の文字は「コウ」とそれぞれ音読みするのが一般的であるから,「潤煌」の文字部分は「ジュンコウ」と発音するのが自然である。ただし,本願商標を全体的に観察すれば,上記「うるおう」の文字部分が,「潤」と「煌」の文字部分の間に小さな文字で位置付けられていること,乙6(広辞苑第6版)によれば,「潤」の文字は本来「うるおう」と訓読みすることから,「潤煌」には「うるおう」との称呼も生じるというべきである。そして,本願商標は,「本草製薬の」「うるおう」「潤煌」という複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるところ,そのうち「潤煌」の文字の部分は,他の構成部分と比較してひときわ大きく表示され,しかも「潤煌」という文字自体が成語ではなく一種の造語と解されることから,この部分が取引者・需要者に対し強い印象を与えるようにもみえるが,一方で「本草製薬の」の部分は,一見して出願者の商号若しくは屋号であることが明らかであるから,この部分は極めて顕著な出所識別力を有する部分であり,さらに「うるおう」の部分は,文字こそ小さいが全体の構成の中央部分に赤地に白抜きで表示されているため極めて目立つ部分といえる。


 したがって,本願商標においては,「潤煌」の部分が他の構成部分に比して取引者・需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるとまではいえず,また,本願商標はそれ以外の部分から出所識別標識としての称呼が生じないと認められる場合ともいえないから,商標の類否判断において,ことさら「潤煌」の部分のみを抽出しこの部分だけを他人の商標と比較してその類否を判断することは許されないというべきである。


 以上によれば,本願商標からは,「ホンゾウセイヤクノウルオウ」若しくは「ホンゾウセイヤクノジュンコウ」の称呼が生じるというべきである。


(イ) 引用商標1

 上段の「潤甦」のうち,「潤」の文字は前記のとおり「ジュン」と音読みし,また,「甦」の文字は「ソ」と音読みするのが一般的であるから,「潤甦」の文字部分は「ジュンソ」と発音するのが自然である。もっとも,乙12(広辞苑第6版)によれば,一般的には「ソセイ」と音読みされる「甦生」という文字につき「コウセイ」と慣用読みすることが認められることから,「甦」の文字はまれに「コウ」と発音する場合があること,下段の「JUNKOU」の文字からは「ジュンコウ」の称呼が生じること,引用商標1の構成を全体的に観察すると,下段の「JUNKOU」が上段の「潤甦」の称呼を特定しているものと理解・認識される余地もあるから,引用商標1の上段の「潤甦」からは,「ジュンソ」若しくは「ジュンコウ」の称呼が生じるものと認められる。

(ウ) 対比

 以上のとおり,本願商標と引用商標1の称呼は,「ジュンコウ」との部分で一部重なっているといえるが,全体的に観察すると,両商標の称呼は類似しているとまではいえない。



エ 取引の実情


 ・・・省略・・・


オ まとめ

 以上のとおり,本願商標と引用商標1とは,外観が著しく異なり,両者とも特定の観念を生じないから観念において比較することができず,称呼も類似するとはいえない上,上記取引の実情をも考慮して取引者・需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して判断すると,両者は類似の商標ということはできないというべきである。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。