●平成21(ワ)34337 特許権侵害差止等請求事件 特許権「魚掴み器」

 本日は、『平成21(ワ)34337 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「魚掴み器」平成22年12月24日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110106150432.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、請求項において具体的な構成が記載されてない構成要件Fにおける「回動が規制され」及び「回動規制が解除され」という機能的記載の解釈が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第47部 裁判長裁判官 阿部正幸、裁判官 山門優、裁判官 柵木澄子)は、


『2 争点1−2(被告製品における可動歯は,操作体が元姿勢に位置するときに,可動歯の先端が固定歯の先端から離間する方向の「回動が規制され」,操作体を復帰弾機に抗して強制移動することに伴い,上記「回動規制が解除され」るものか)について


(1) 本件では,構成要件Fにおける「回動が規制され」及び「回動規制が解除され」の解釈が問題となる。

 この点について,原告は,本件発明における「回動規制」とは,復帰弾機の付勢力によるものではなく,操作体が元姿勢に位置していること自体によるものであり,操作体を元姿勢から移動させると,「回動規制」が解除され,可動歯の先端が固定歯の先端から離間するべく可動歯が揺動すること,を意味する,と主張する。


 これに対し,被告は,本件発明における「回動規制」のように,機能的,作用的な文言を用いているために構成要件の記載が発明の詳細な説明の記載と比較して広範すぎる場合は,発明の詳細な説明に開示された技術的事項に合理的に限定して解釈すべきであるとして,上記「回動規制」とは,本件明細書に開示されている構成,すなわち,操作体の下端縁に設けた円弧溝状のロック面に可動歯の上縁部が入り込むことによって,可動歯が固定歯から離間する方向の回動を規制している構成と解すべきである,と主張する。


 ・・・省略・・・


 もっとも,本件明細書の特許請求の範囲請求項1には,回動規制を達成するために必要な具体的な構成は明らかにされていない。

 このように特許請求の範囲に記載された発明の構成が機能的,作用的な表現を用いて記載されている場合において,当該記載から直ちに当該機能ないし作用効果を果たし得る構成であればすべてその技術的範囲に含まれると解することは,明細書に開示されていない技術思想に属する構成までもが発明の技術的範囲に含まれることとなりかねず,相当でない。


 したがって,特許請求の範囲に上記のような機能的,作用的な表現が用いられている場合には,特許請求の範囲の記載だけではなく,明細書の発明の詳細な説明の記載をも参酌し,そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきものと解するのが相当である。


(3) そこで検討するに,証拠(甲2)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明中には,次の記載があることが認められる。


 ・・・省略・・・


(4) 上記発明の詳細な説明の記載及び図面によれば,本件発明は,操作者が指掛け部から指を離す,すなわち,操作部を操作しない状態において,魚の口(下顎)をしっかり挟持することができ,魚掴み操作の操作性が向上することを,効果として狙ったものであり(段落【0005】),その効果を奏するために,魚が釣れた場合,魚掴み器の握り部を把持した状態で操作体の引き上げ操作をして可動歯を固定歯から拡開させ,魚の針掛かりしている口の下顎を挟むようにしていずれかの歯を入れ,操作体を離すと,可動歯が揺動して閉じて下顎を両歯で挟持することになり,この状態で針を外せば,魚体を触ることなく針外しができ,魚にダメージを与えることがないという手法(段落【0017】)をとったものと認められる。


 そして,本件発明の実施例においては,操作体16が未操作のときに可動歯14を無理に開こうとすると,操作体16に形成したロック面16jと可動歯14に形成した上縁部14dが当接していることで,操作体16に左方向(固定歯13向きの左方向)の力が掛かるが,ピン18,18a,突起16bがそれぞれ対応する長孔の側部に当接しビス19が操作体16の左側面に当接することで操作体16の移動が阻止されている(操作体16を,可動歯を閉じた状態から左方向へ変移しようとすると,ピン18,18a及び突起16b等が,それぞれ対応する長孔の側部に当接し,また,ビス19が操作体16の左側面に当接するので,これによって,可動歯14を反時計回りに回そうと直接力を加えたときに,操作体16を左方向に押す力が生じれば,操作体16のロック面16jと可動歯14の上縁部14dの形状,位置の関係と,ピン18,18a,突起16b,ビス19等によって,操作体16の動きが阻止される。)ことが,可動歯16についての「回動規制」の具体的な技術内容であると認められる。なお,上記のとおり,上記実施例における「回動規制」は,ロック面16jと可動歯14の上縁部14dだけで実現できるものではなく,ピン18,18a,突起16bとそれぞれに対応する長孔の関連構成等も満たされて初めて実現されるものといえる。同実施例において,操作体16が未操作のときに可動歯を開こうとする力に対し,可動歯が動かないようにために,復帰弾機の付勢力を用いている旨の記載はない。


 そうすると,構成要件Fの「回動規制」の技術的意義は,復帰弾機の付勢力によらずに,ピンや長孔を用いて操作体の移動を阻止する構成を採用し,操作体が元姿勢に位置していること自体によって,可動歯が動かないようにすることにあると認められる。


(5) 被告製品は,別紙図面1及び別紙図面2に記載のとおり,作動体(又は中間片)が元姿勢に位置するときに,支軸Aを支点として揺動する可動歯に対してこれを強制的に拡開させるべく力を加えると,可動歯に設けた長孔Bが上下方向に揺動しようとするが,長孔Bに嵌合しているピンCが左端に設けられた作動体は,このとき左右方向にしか移動できない操作体に設けたピンFが作動体に設けた傾斜状の長孔Gに係合していることによって,その上下方向の移動が規制される構成となっているため,移動することはできず,可動歯は回動することができないものと認められる。


 また,被告製品は,別紙図面1及び別紙図面2のとおり,操作体をコイル弾機に抗して右方向に強制移動させると,上記回動規制の状態を脱し,可動歯先端が固定歯先端から離間して拡開するものであることが認められる。


 そうすると,被告製品における上記構成は,本件明細書の発明の詳細な説明に具体的に開示されたところの,操作体に左方向(固定歯向きの左方向)の力が掛かった際に,ピンや長孔を用いて操作体の移動を阻止することによって可動歯を動かないようにするという構成と,技術思想を同じくするものであると解され,当業者が本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて採用し得る範囲内の構成であるといえる。


 なお,別紙図面1及び別紙図面2のとおり,被告製品は,操作部に円弧溝状のロック面及び可動歯にこれと当接する上縁部は設けられておらず,この点は,本件発明における実施例と異なるものである。


 しかしながら,ピンや長孔を用いて操作体の移動を阻止する構成に加えて,操作部に円弧溝状のロック面及び可動歯にこれと当接する上縁部を設けることは,必ずしも,本件発明における回動規制(可動歯を強制的に拡開しようとしても,可動歯の先端が固定歯から動かない状態にすること。)を実現するために不可欠なものであるとは認められず,本件発明における実施例のような構成とするか,被告製品のようにピンや長孔のみを用いて操作体の移動を阻止する構成とするかは,機械の設計上,当業者において適宜選択し得る事項であるといえる。


 被告製品が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて当業者が採用し得る範囲内の構成によって本件発明における回動規制を実現していることについては上記のとおりである以上,上記の相違点があることは,上記判断を左右するものではない。


 したがって,被告製品は,構成要件Fを充足する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。