●平成18(ワ)8620商標権侵害差止等請求事件「マイクロクロス」(2)

 本日も、『平成18(ワ)8620 商標権侵害差止等請求事件 商標権 民事訴訟「マイクロクロス」平成20年03月18日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080319092429.pdf)について取り上げます。


 本日は、争点(4)の(原告らの損害)について取り上げます。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 田中俊次、裁判官 高松宏之、裁判官 西理香)は、


4 争点(4)(原告らの損害)について
(1) 原告マイクロクロス社の請求について

 少なくとも被告標章を付した被告商品を被告が販売していた期間において,原告マイクロクロス社は,本件商標権の非独占的通常使用権者にすぎなかったのであるから,同原告は,上記期間における被告の上記販売行為について,法的な利害関係を持つものではない。したがって,原告マイクロクロス社は,被告の上記販売行為について損害賠償請求権を有しない。


(2) 原告ワンズハートの請求について

ア 被告は,原告ワンズハートは本件商標を付した商品を製造販売していないから,同原告に具体的な損害は発生していないと主張する。


 しかし,被告が同原告の許諾を受けずに被告標章を付した被告商品を販売したことにより,同原告は本来受け得る使用料相当額の損害を被っている。これと異なる被告の主張は理由がない。


イ そこで,本件商標権の使用料相当額について検討するに,原告ワンズハートは,ジャパンケミテックに対する商標権使用料が被告商品1個当たり500円であることなどから,本件商標権の使用料としては被告商品1個当たり500円が相当であると主張する。


 しかし,ジャパンケミテックに対する商標権使用料が被告商品1個当たり500円であるとは認められない。その理由は次のとおりである。


(ア) 原告ワンズハートとジャパンケミテックとの間の「商標権使用契約書」と題する書面(甲23)には,商標権使用料は被告商品1個につき500円とする旨の記載がある。また,ジャパンケミテック宛の原告マイクロクロス社作成の2006年(平成18年)8月3日付けの請求書(甲33)には,平成18年7月分の本件商標権の使用料として被告商品1個当たり500円で計算された金額が記載されており,証拠(甲34)によれば,平成18年8月8日に同請求書記載の請求金額がジャパンケミテックから原告マイクロクロス社の普通預金口座に振り込まれたことが認められる。


(イ) しかし,原告ワンズハートとジャパンケミテックとの間の2005年(平成17年)6月1日付けの「契約書」と題する書面(甲21)には,商標使用料は両者協議の上決めるものとする旨記載されており,具体的な金額の定めはない。そして,上記「商標権使用契約書」(甲23)の作成日は,原告ワンズハートの主張によっても平成19年2月末日であるところ,それ以前に同原告とジャパンケミテックとの間で商標権使用料について合意がなされたことを示す契約書等は存在しない。また,ジャパンケミテックによる原告マイクロクロス社の普通預金口座への上記振込みが,平成18年7月分の本件商標権の使用料の支払としてなされたものであることを認めるに足りる証拠はない。


 また,ジャパンケミテックのホームページを見ると,製品・サービス情報として,2007年(平成19年)7月19日時点では,「専用極細マイクロクロス」の名称で紹介されている商品があるが(甲31),同年5月10日時点では,この商品は「専用極細繊維クロス」の名称で紹介されている(乙8)。そして,平成19年5月10日以前において,ジャパンケミテックのホームページに「マイクロクロス」の語を使用した商品が紹介されていたことを示す証拠はない。


 しかも,証拠(甲31)によれば,「専用極細マイクロクロス」の名称で紹介されているジャパンケミテックの商品は,メーカー希望小売価格が1個2730円であることが認められるから,商標権使用料が商品1個当たり500円であるとすると,商標権使用料が商品販売価格の18%を上回ることになる。


 しかし,商標権使用料が商品販売価格の18%を上回るようなことは,契約当事者間に特別の関係があるなど特段の事情がない限り,通常の取引関係における採算上,想定し難いものである。しかるに,本件において,商標権使用料が商品販売価格の18%を上回るものであることを合理的に説明し得る特段の事情は認められない。


(ウ) 上記(イ)の事実に照らすと,上記(ア)の事実のみによっては,原告ワンズハートとジャパンケミテックとの間の使用許諾契約締結の当初からジャパンケミテックが被告商品1個当たり500円の商標権使用料を同原告に継続的に支払っていたとの事実は,これを認めるに足りず,他に,原告ワンズハートのジャパンケミテックに対する商標権使用料が製品1個当たり500円であったことを認めるに足りる証拠はない。


ウ そこで,改めて本件商標権の使用料相当額について検討する。

 まず,本件商標の識別力について見ると,弁論の全趣旨によれば,「マイクロクロス」の語については,もともと東レ株式会社が超極細繊維(マイクロファイバー)を開発して特許を取得し,これを使用した布(クロス)製品に「トレシー」という商品名を付して販売を始めたものであること,その後,日用雑貨業界において,マイクロファイバーを使用した布(クロス)製品について,「マイクロクロスファイバー」とか「マイクロクロス」といった名称を付して販売する業者が現れたことが認められる。


 上記認定の事実によれば,本件商標が,超極細繊維(マイクロクロスファイバー)を表す普通名称又は慣用商標であるとか,超極細繊維(マイクロクロスファイバー)を使用した布(クロス)製品の品質を表示するものにすぎないとまでは認められないとしても,その識別力自体は,大きなものであるとは認められない。


 次に,本件商標の周知性に関しては,証拠(甲24)によれば,2003年(平成15年)10月22日付けの日本経済新聞に2面見開きで原告マイクロクロス社の広告が掲載され,本件商標が付された商品の宣伝がなされていることが認められる。


 しかし,上記新聞広告以外に原告マイクロクロス社の広告が新聞に掲載されたことを認めるに足りる証拠はなく,かえって,証拠(甲25)によれば,上記新聞広告掲載後3年半を経過した平成19年4月30日時点でもなお,原告マイクロクロス社のホームページにおいて,上記新聞広告掲載の事実が紹介されていることが認められることからすると,新聞広告が掲載されたのは上記の1回限りであったことが窺える。その他,本件商標が特段の周知性を獲得したことを認めるに足りる証拠はない。


 以上の事情に加えて,原告ワンズハートが原告マイクロクロス社以外の少なくとも2社との間で本件商標権の使用許諾契約を締結していることも考慮すると,本件商標権の使用料相当額としては,被告商品の売上額の3%をもって相当と認める。


エ 被告商品の売上額

 証拠(乙9ないし21,23ないし32の各号)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成17年10月から平成18年8月28日までの間に,被告標章を付した被告商品を合計8431枚,140万1568円売り上げたことが認められ,これを左右するに足りる証拠はない。


オ 原告ワンズハートの損害の額

 したがって,原告ワンズハートが受けるべき本件商標権の使用料相当額は,140万1568円×3/100=4万2047円(小数点以下四捨五入)となり,同原告は,被告に対し,同金額を自己が受けた損害の額として,その賠償を請求することができる(商標法38条3項)。なお,原告ワンズハートは,遅延損害金について,使用料相当額に対する年29.2%の割合で計算した額を請求するが,民法所定の年5分の割合を超える遅延損害金の支払を求め得る法的根拠については何ら主張立証しない。したがって,遅延損害金について年5分の割合で計算した額を超える部分の支払を求める請求は理由がない。


5 結論

 以上によれば,原告ワンズハートの請求は,被告に対し商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償として4万2047円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成18年9月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却する。また,原告マイクロクロス社の請求はいずれも理由がないからこれを棄却する。

 よって,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。