●平成19(行ケ)10007 審決取消請求事件 特許権「燃料電池用シール」

  本日は、『平成19(行ケ)10007 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟燃料電池用シール材の形成方法」 平成19年09月12日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070913153207.pdf)について取り上げます。


  本件は、特許無効審決の取消しを求めたもので、その請求が認容された事案です。


  本件では、引用発明の手段(射出成形手段)を前提とする以上,引用発明のセパレータを、周知慣用(カーボングラファイト製)のものに代えることに阻害要因があり、進歩性なしの判断に誤りであったと判断した点等が参考になるかと思います。


つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明)は、


1 相違点1について


 当裁判所は,「相違点aに係る本件訂正発明1の発明特定事項とすることは,当該燃料電池の分野の周知の事項に基づいて当業者であれば容易に想到することができたことと認められる。」とした審決の判断は誤りであると解する。


 その理由は,以下のとおりである。


 まず,審決の相違点1についてした判断の内容は,次のとおりである。


 引用発明の「金属製」のものも,本件訂正発明1の「カーボングラファイト製」のものも,燃料電池のセパレータとして,周知慣用のものであること,いずれの材料も,電解質膜との間のガスの遺漏を防止する必要があり,比較的肉厚の薄い薄膜のシールをシール材として組み入れようとするときに,薄膜上にシワ,薄膜同志で密着し剥がしづらくなる等の作業性の問題がある点で共通している。このような問題を解決できる引用発明の成形一体化方法におけるセパレータとして,「金属製」のものを「カーボングラファイト製」のものとすることは,当該燃料電池の分野の周知の事項に基づいて当業者であれば容易に想到することができたことと認められるとするものである。


 しかし,セパレータとしてカーボングラファイト製のものが周知慣用であり,作業性に関する課題が「金属製」のものと共通であるとしても,引用発明が射出成形手段を前提とするものである以上,引用発明におけるセパレータをカーボングラファイトに代えることには,次のとおり阻害要因があったというべきである。この点を詳細に述べる。


2 刊行物(甲1,24ないし26)の記載


  …省略…


3 容易想到性の判断について


(1)以上の各記載を総合すると,カーボン材は脆く機械的強度が低いため,カーボンからなる燃料電池用セパレータは,破損し易いものであるために,加工コストが高くなるとともに量産が困難であると認識されていたといえる。


 そして,引用発明のセパレータは,厚さ0.3mm程度の金属材料を使用し,それに対して射出成形を施すことを前提とし,その条件も「300kgf/cm2」といった高圧で射出材料が金型内に射出されるものであること,他方,カーボンからなる燃料電池用セパレータは,破損し易いものであると認識されていたことからすれば,当業者にとって,カーボン材からなる「カーボングラファイト」を射出成形装置に適用した場合には,カーボン材が有する機械的脆弱性によって破損するおそれが大きいと予測されていたものと解される。


 したがって,引用発明の射出成形による成形一体化工程において,金属製セパレータに代えてカーボングラファイト製セパレータを射出成形装置に適用することには,技術的な阻害要因があったというべきである。


(2) 審決は,前記のとおり,本件訂正発明1の「カーボングラファイト」には樹脂を含むような割れにくいものまで包含することから,そのようなカーボングラファイトに対して射出成形が不可能であるとする認識があったとは認められないと判断している。


 しかし,前記認定のとおりカーボン材は脆弱でカーボンからなるセパレータは破損しやすいものであり,たとえ樹脂含有セパレータの方が破損しにくいといえても,セパレータ材として樹脂含有のものが金属製のものと同程度の機械的な強靱性を有する,あるいは,そのような素材を射出成形に適用し得るものと,当業者が認識していたことを認定するに足りる証拠はない。よって,審決のこの点の判断を是認することはできない。


 また,審決は,カーボングラファイトからなるセパレータが損傷しやすいとしても,成形一体化する方法として圧力をかける射出成形などのインサート成形以外の周知慣用の成形一体化法である「スクリーン印刷」による方法によってゴム溶液を塗布して一体化することは,当業者であれば容易に想到することができたといえると判断している。


 しかし,引用発明は金属薄板をインサートして射出成形することを前提としているところ,前記認定判断のとおり,引用発明においてセパレータ材を金属からカーボングラファイトに置換することが容易でない以上,たとえゴム溶液の塗布方法としてスクリーン印刷が周知であるとしても,それに加えて射出成形をスクリーン印刷に置換することも容易に想到し得たということはできない。すなわち,引用発明において,セパレータ材である金属をカーボングラファイトに置換し,同時に射出成形をスクリーン印刷に置換することが容易に想到し得たということはできない。よって,審決のこの点の判断を是認することはできない。


(3) 被告は,乙5,6からカーボン系のセパレータに液状シリコーンゴムを射出成形し,セパレータに一体的にゴムパッキンを形成する技術は,本願出願以前に検討されていたものであり,被告自身も本願出願以前に実施していたなどと主張する。


 しかし,乙5,6はいずれも本件特許の出願日の後に公開されたものであり,同各証拠の記載内容によっては,本件各訂正発明の容易想到性の判断,すなわち前記阻害要因があるとする判断を覆すに足りる証拠となるものとはいえない。また,被告の実施が本願出願以前から実施していたとしても,これをもって上記判断を左右するものではない。よって,被告の上記主張は採用できない。


4 結論


 以上のとおり,原告の主張する取消事由1は理由がある(取消事由3も同様に理由がある。)。そうすると,取消事由2について判断するまでもなく,審決には,その結論に影響を及ぼす誤りがあることになる。


 よって,原告の請求は理由があるから,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


追伸1;<新に出された知財判決>

●『平成19(行ケ)10075 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟エアバッグのための工業用織物」平成19年11月13日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071114105329.pdf
●『平成18(行ケ)10502 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「写真測量サービスシステム」平成19年11月13日 知的財産高等裁判所』(認容判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071114103044.pdf
●『平成19(行ケ)10098 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「皮膚外用剤」平成19年11月13日 知的財産高等裁判所』(認容判決) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071114094601.pdf


追伸2;<気になった記事>

●『「PCI Expressは特許侵害」米社がインテルAMD東芝など11社を提訴(米連邦地裁)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2180
●『リア社、TSテック北米子会社を特許侵害で提訴』http://response.jp/issue/2007/1113/article101845_1.html
●『京セラミタと米マイクロソフト、包括的特許クロスライセンスに合意』http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=175042&lindID=1