●平成28(ワ)5104不正競争行為差止等請求事件 意匠権「シート」民事

 本日は、『平成28(ワ)5104 不正競争行為差止等請求事件 意匠権「シート」民事訴訟 平成29年6月15日 大阪地裁 』(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/860/086860_hanrei.pdf)について取り上げます。


 本件は、不正競争行為差止等請求事件で、意匠が類似せずと判断され、意匠権行使が不正競争行為と認容された事案です。


 本件では、まず、争点1(原告商品の販売は,本件意匠権の侵害にならないといえるか)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 森崎英二、裁判官 野上誠一、裁判官 大川潤子)は、

『1 争点1(原告商品の販売は,本件意匠権の侵害にならないといえるか)について
(1) 本件意匠と原告意匠の対比
 本件意匠と原告意匠とを対比すると,いずれも全体が,略長方形の「シート」であって,シートの一方の長辺の中間部を内側に湾曲させた「湾曲部」を形成し,略中央部に「貫通孔」を形成した態様のものであるという基本的構成態様において共通し,また具体的構成態様についても,?「シート」の長辺と短辺の比率は,約2:1になるように形成されている点(別紙対比表の?と?’),?「シート」の四隅に丸みを形成している点(別紙対比表の?と?’),?「シート」は,透明素材であり,透明色を基調とする点(別紙対比表の?と?’),?「湾曲部」の端縁の曲率半径は,「シート」の短辺の寸法の約1/2である点(別紙対比表の?と?’),?「湾曲部」が形成されている領域の「シート」の長辺方向の寸法は,「シート」の長辺全体の寸法の1/3以上1/2未満である点(別紙対比表の?と?’),?「貫通孔」は,円形に形成されている点(別紙対比表の?と?’)で共通している。

 他方で,具体的構成態様につき,?本件意匠は,「シート」の四隅の丸みの半径は,「シート」の短辺の寸法の1/7未満であるのに対し,原告意匠のそれは約1/3である点(別紙対比表の?と?’),?本件意匠の「シート」は無模様であるのに対し,原告意匠のそれは,散りばめられた小さな花柄を主体とする模様が表面に付されている点(別紙対比表の?と?’),?本件意匠では,貫通孔は,湾曲部と離間しているのに対し,原告意匠では,貫通孔は,「湾曲部」の中央部と細いスリットによって接続されている点(別紙対比表の?と?’)で相違している。

(2) 本件意匠の要部
登録意匠と対比すべき相手方の意匠とが類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う(意匠法24条2項)ものとされており,意匠を全体として観察することを要するが,その際には,意匠に係る物品の性質,用途及び使用態様,さらには公知意匠にはない新規な創作部分の存否その他の事情を参酌して,取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し,登録意匠と相手方意匠が,意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを観察すべきものである。
イ 本件意匠の要部について検討すると,本件意匠に係る物品は,その物品の説明によれば,柔軟性を有する合成樹脂製のシートであり,裏面を湿らせて手洗器付トイレタンクのボウルに密着させて取り付け,ボウルの表面への埃,水垢等の付着を防止することができる使い捨てシートであると認められる。そして,これに別紙意匠図面中の【使用状態を示す参考図】を参考にすると,その形状は,取り付ける先の一般的な長方形の手洗器付トイレタンクのボウルの形状に規定されているものということができるから,取引者・需要者は,その規定された形状を前提として,本件意匠につき,その形状がボウルの表面の埃,水垢等の付着し易い部分を十分カバーしているものであるか,その形状がボウルに密着して取り付け易いものであるか,さらには取り付け易くなるよう工夫が施されるかなどの点に注目するものと考えられる。

 したがって,取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分,すなわち要部は,基本的構成態様ではなく,具体的構成態様のうちでも,ボウルに装着した場合の使用状態を決めることになる,本件意匠の外周の形状,すなわち「シート」の四隅の丸みの半径の大きさの点や,ボウルの孔に対応する「シート」に設けられた貫通孔と湾曲部の形状及びその位置関係などの点であると認められる。

 この点,被告は,本件意匠の実施品は,手洗器付トイレタンクのボウルの表面への埃,水垢等の付着を防止するという課題を解決するアイデア商品であって,その当時,市場に同種の用途,機能を有する物品はなかったことから,本件意匠はパイオニア意匠であるとして,意匠に係る物品全体の形態,すなわち基本的構成態様そのものが要部であるように主張する。

 しかし,本件意匠の実施品が新品種の商品であって,その基本的構成態様が新規なものであったとしても,意匠に係る物品の説明に明らかなように,その物品の使用目的から,取引者・需要者は,その基本的構成態様が,取り付ける先のボウルの形状に規定されているものにすぎないことは容易に理解できるところであるから,本件意匠の基本的構成態様そのものをもって,最も注意を惹きやすい部分ということはできず,その点に要部があると認めることはできないから,被告の上記主張は採用できない。


(3) 本件意匠と原告意匠の類否
 以上により本件意匠と原告意匠の類否について検討すると,本件意匠と原告意匠の共通点は,いずれも本件意匠の要部にかかわらないものであるといえる。

 他方,シートの四隅の丸みの半径の大きさが異なること,本件意匠では貫通孔が湾曲部と離間して設けられているのに対し,原告意匠では湾曲部の中央部と細いスリットによって接続されるように設けられているという具体的構成態様における差異点は,いずれも本件意匠の要部にかかわるものであり,とりわけ後者のスリットを設けられている点は,本件意匠に類似する要素はなく,シートをボウルに取り付ける際に,シートをボウルの湾曲形状に密着させるための微調整を容易にさせる工夫として取引者・需要者の注意を強く惹くものということができる。

 そうすると,本件意匠が無模様であり原告意匠に模様が施されているという差異点を捨象したとしても,両意匠を全体として観察した場合,看者に対して異なる美感を起こさせるものと認められるから,原告意匠は本件意匠に類似していないということができる。


(4) 利用関係について

 被告は,原告意匠は本件意匠と利用関係にあり,原告商品の販売等は本件意匠権を侵害するものと主張する。

 しかし,上記(3)に説示したとおり,原告意匠は,要部に係る具体的構成態様において本件意匠と大きく異なる構成となっており,それによって全体として本件意匠とは異なる美感を起こさせているものであるから,原告意匠が本件意匠に係る構成態様全てをその特徴を破壊することなく包含しているとは認められない。
 したがって,原告意匠は本件意匠と利用関係にあるとして,利用による侵害をいう被告の主張は失当である。』

 と判示されました。

新品種の商品の類似判断および利用関係について判断等が参考になります。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。