●平成29(行ケ)10099 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ホモロガス

 本日も、『平成29(行ケ)10099 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ホモロガス薄膜を活性層として用いる透明薄膜電界効果型トランジスタ」平成29年12月7日 知財高裁(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/329/087329_hanrei.pdf)』について取り上げます。


 本件では、取消事由3(サポート要件に関する判断の誤り)についての判断も参考になるかと思います。

 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 森義之、裁判官 永田早苗、裁判官 古庄研)は、

「4 取消事由3(サポート要件に関する判断の誤り)について
(1) 本件明細書にアモルファスの本件発明が課題1及び課題2を解決することが記載されていない旨の主張(第3の3(1)及び(2))について

イ(ア) 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁平成17年(行ケ)第10042号・同年11月11日判決参照)。

(イ) 本件発明の課題は,本件明細書によると,まず,可視光に対して透明な電界効果型トランジスタを提供することにつき,透明酸化物半導体であるZnOの欠点を改善し,電気伝導度を下げて,ノーマリーオフの電界効果型トランジスタを構成すること(課題1),及び,大面積に適したトランジスタを作製すること(課題2)であると認められる(【0001】,【0004】)。

 本件明細書の【0025】には,本件化合物の単結晶薄膜が課題1を解決することが記載されている。本件明細書には,大面積の電界効果型トランジスタには,従来,アモルファスシリコンが用いられていた(【0002】)ところ,本件化合物のアモルファス薄膜を活性層として用いた電界効果型トランジスタは,シリコンアモルファス電界効果型トランジスタに比較して,可視光透過率が高く,光照射に対して安定に動作し,高速動作することが期待できる(【0014】)ことが記載されている。

 したがって,本件化合物のアモルファス薄膜を活性層に用いて,大面積に適したトランジスタを作製することができることが記載されているといえ,本件化合物のアモルファス薄膜が課題2を解決することが記載されている。

 よって,本件発明1,2及び4は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり,発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。


(ウ) 原告の主張に対する判断
a 原告は,一つの特許請求の範囲によって画されている発明は,共通する課題を解決し得るものでなければならないところ,本件明細書にはアモルファスの本件発明が課題1を解決することが記載されておらず,サポート要件を欠く,と主張する。

 しかし,一つの特許請求の範囲によって画されている発明であるからといって共通する課題を解決し得るものでなければならないということはなく,そのように解することが,発明の単一性(特許法37条)に反するものではない。したがって,原告の主張は,失当である。


b 原告は,本件明細書には,アモルファスの本件発明が課題2を解決できることが記載されていない,と主張する。
しかし,前記(イ)のとおり,アモルファスの本件発明が課題2を解決できることが本件明細書に記載されている。したがって,原告の主張には,理由がない。

(2) 本件明細書に多結晶等の場合に課題1及び課題2を解決できることが記載されていない旨の主張について
ア 原告は,多結晶等の本件発明が課題1及び課題2を解決できることが記載されていないから,サポート要件を欠く,と主張する。
イ 本件審判における原告の無効理由6の主張は,前記第2の3(8)ア(ア)のとおりである。本件明細書に,本件化合物の多結晶等薄膜が本件発明の課題を解決することが記載されていないことが,サポート要件を欠くというべきか否かについては,本件審判においては現実に争われたものではなく,審理判断されたものではない。

ウ これに対して,原告は,本件訂正により,本件化合物についてアモルファスの場合とそれ以外の場合とで取扱いが異なることが,特許請求の範囲の記載上明らかとなったことを受けて,上記の本件化合物の多結晶等薄膜の主張に至ったものであるから,失当とはいえない,と主張する。

 しかし,本件特許の特許請求の範囲請求項1には,本件訂正の前後を通じて多結晶等を除く旨の記載はなく,本件明細書の【0020】には,得られた薄膜が多結晶膜でもよい旨が記載されているから,本件化合物の多結晶等薄膜に関する主張が,本件訂正後に初めて可能となったとはいえない。したがって,原告の主張は,その前提を欠き,失当である。

(3) 以上より,取消事由3には,理由がない。

5 なお,本件訴訟において,当初,原告は,本件審決において,原告が争ったにもかかわらず(甲44),本件訂正に関する被告の手続補正書について原告に反論の機会が与えられず,特許法127条違反の有無について判断が示されなかったことを理由として,特許法127条の承諾の有無に関する判断の遺脱及び判断誤り,並びに,適正手続違背を,本件審決の取消事由として主張していたが,当裁判所において審理を尽くした結果,上記取消事由は撤回されたものである。

第6 結論

 よって,原告の請求には理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。』

 と判示されました。


 なお、本件中で引用している知財高裁事件は、知財高裁大合議事件である

●『平成17年(行ケ)第10042号 特許取消決定取消請求事件「偏光フィルムの製造法」平成17年11月11日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/286/009286_hanrei.pdf

 であります。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。