●平成25(行ケ)10251 審決取消請求事件 商標権「St Ella」

 本日は、『平成25(行ケ)10251 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「St Ella」平成26年2月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20140228104547.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標登録無効審判の棄却審決の取り消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、まず、取消事由1(商標法4条1項11号該当性判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子、裁判官 小田真治)は、


『1 取消事由1(商標法4条1項11号該当性判断の誤り)について

(1) 認定事実

ア 本件商標

 本件商標の構成は,別紙1のとおり「St Ella」との特徴のある筆記体により描かれた「S」,「t」,「E」,「l」,「l」,「a」の文字からなる。本件商標のうち,「St」部分及び「Ella」部分は,それぞれの部分を構成する文字が互いに繋がっているのに対し,「St」部分の「t」と「Ella」部分の「E」との間には間隙がある。


 本件商標は,化粧品についてマレーシア法人「Stella’s Choice(M)Sdn.Bhd.」がそのウェブサイトにおいて使用しており,本件商標を付した商品は主に東南アジア諸国で販売されている。これらの国々では,本件商標は,「セントエラ」又は「セイントエラ」と称呼されている。本件商標を使用するブランドの創設者は,「STELLA K.Y.CHIN」である。(甲4の1ないし4の8,153,167)


イ 引用商標1及び取引の事情

 引用商標1は,「STELLA」の文字からなる商標である(なお,引用商標2,3は「STELLA McCARTNEY」の文字からなる商標である。)。


 原告は,ファッションデザイナーであるステラ・マッカートニーがGUCCI(グッチ)グループとのパートナーシップの下で平成13年に創設した原告ブランドの商品の製造販売を業とする法人であり,引用各商標を使用する者である。(甲5の1,5の2)原告ブランドに係る商品は,日本各地の百貨店内の店舗等や原告ブランドの路面店などで販売されている。(甲10,28,29,129)我が国においては,原告ブランドあるいはデザイナーとしてのステラ・マッカートニーを指す場合には,「ステラ(STELLA)」と略称される場合がある。(甲14ないし18,23ないし29,32,35,36,45,49,60,65,66,69,73,88)ステラ・マッカートニーは,原告ブランドの他に,香水ブランドとして「STELLA」も展開しており,引用商標1を表示している。(甲2,5,41,42,45ないし47,49,50,52,54ないし58,60ないし63,65ないし74,76,78ないし93)


ウ その他の事情

 我が国で利用される代表的な辞典・辞書類には,「Saint」の略語としては,ピリオドを付した「St.」が記載されているが,ピリオドを付さない「St」が掲載されている例もある。「Saint」の略語としては,ピリオドを付して「St.」とする例があるとともに,ピリオドを付さずに「St」とする例もある。(甲144ないし146の1,154ないし157,174ないし188,乙18ないし24)原告が依頼して調査会社がインターネット上で実施した調査の結果によれば,本件商標の読み方としては「セントエラ」,「セント エラ」,「セント・エラ」又は「セント エラ」との回答が全体の13.4パーセント,「ステラ」との回答が9.6パーセント,「セイントエラ」又は「セイント エラ」との回答が3.2パーセント,「ストエラ」との回答が2.8パーセントなどとなっている。(甲191)


(2) 類否についての判断

ア 称呼の類否について

(ア) 本件商標

 本件商標については,「セントエラ」又は「セイントエラ」との称呼を生じ,「ステラ」との称呼は生じないとするのが相当である。


 すなわち,本件商標の構成は別紙1のとおりであるところ,?本件商標のうち,「St」部分及び「Ella」部分は,それぞれを構成する文字が互いに繋がっているのに対し,「St」部分の「t」と「Ella」部分の「E」との間には間隙があること,?「St」部分と「Ella」部分とのそれぞれ先頭の文字である「S」と「E」が大文字で,その他の文字は小文字で表記されていること,?したがって,本件商標に接した取引者・需要者は,「St」部分と「Ella」部分から構成される商標であると認識すると解されること,?「Saint」の略語としては,ピリオドを付さずに「St」とのみ表記することも通常の表記態様であること,?原告が依頼して実施した調査によっても本件商標を「セントエラ」等と読むと回答した者が最も多く,本件商標に接した者は,「St」部分と「Ella」部分に分けて認識し,かつ,前者を「Saint」の略であると理解しているとの回答が多いこと等の諸事情を総合すると,本件商標からは「セントエラ」又は「セイントエラ」との称呼が生じると認められる。


 以上のとおり本件商標が「St」部分と「Ella」部分とに分けて認識されることに照らすと,特段の事情のない限り,両者を連続した一体のものと認識されることはないというべきであるから,「ステラ」との称呼は生じないと解するのが相当である。


(イ) 称呼の類否判断

 引用商標1からは「ステラ」との称呼が生じる。「セントエラ」又は「セイントエラ」との本件商標の称呼と「ステラ」との引用商標1の称呼は,構成する音数,音質,音感のいずれも異なるもので称呼上類似しない。


イ 外観の類否について

 本件商標の外観は,別紙1に記載のとおりであって,各文字を筆記体風に表記するのに対して,引用商標1は,各文字を活字体で表記するものであって,両者は外観上相違する。


ウ 観念の類否について

 前記アのとおり,本件商標に接した取引者・需要者は,本件商標を「St」部分と「Ella」部分に分けて認識すると解される。我が国で利用されている代表的な辞典・辞書によれば,「St」部分からは,「聖」又は「聖者」等の観念が生じると解され,また「Ella」部分からは,「エラという女性の名前」という程度の観念が生じるから,本件商標は全体として「聖エラ」又は「聖者エラ」という程度の観念が生じることになる。前記のとおり,「Saint」の略語としては「St」のみを用いることも普通の態様であることに照らすならば,「St」の後にピリオドが付されていないことはこの判断を妨げない。


 これに対し,引用商標1からは,「ステラという女性の名前」という程度の観念が生じるから,本件商標と引用商標1とは観念において相違する。



エ まとめ

 以上のとおり,本件商標と引用商標1とは,称呼,外観及び観念のいずれも相違するものであって,その他の取引の実情を考慮したとしても,両者は互いに相紛れるおそれのない非類似の商標というべきであるから,本件商標が商標法4条1項11号に該当する商標ではないとした審決の結論には違法はない。


(3) 原告の主張について

 以上の認定判断に対して,原告は,本件商標の使用者の名称が「Stella’s Choice(M)Sdn.Bhd.」であることや,ブランドの創業者の名が「STELLA K.Y.CHIN」であること等を指摘して,本件商標からは「ステラ」であること等を指摘して,本件商標からは「ステラ」との称呼も生じるなどと主張する。


 しかし,原告主張に係る事実を前提としたとしても,そのことをもって,本件商標から「ステラ」の称呼が生じると合理的に解することはできず,原告の主張は採用できない。』


 と判示されました。