●平成28(ワ)5104不正競争行為差止等請求事件 意匠権「シート」民事

 本日も、『平成28(ワ)5104 不正競争行為差止等請求事件 意匠権「シート」民事訴訟 平成29年6月15日 大阪地裁 』(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/860/086860_hanrei.pdf)について取り上げます。


 本件では、争点4(本件告知行為につき被告に過失があるか)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 森崎英二、裁判官 野上誠一、裁判官 大川潤子)は、

『4 争点4(本件告知行為につき被告に過失があるか)

(1) 後掲各証拠によれば次の事実が認められる。
ア 被告が原告商品を発見したというコープPの平成28年1月12日発行の本件カタログの6ページ目には,原告商品が掲載されているが,その掲載スペースは,1面の8分の1足らずである。そして,原告商品の形状を認識し得る正面図に相当する写真は,その掲載箇所の右隅に,その掲載箇所のさらに9分の1程度の大きさで掲載されていた。


 カタログの掲載商品には,製造者名を付記しているものもあるが,多くは製造者名が付記されておらず,同カタログの原告商品の掲載部分には,「店舗では購入できません」と記載され,その製造者名は記載されていなかった(甲10)。


イ 被告は,本件カタログに基づき,原告商品の意匠が本件意匠に類似すると判断し,上記カタログで原告商品を発見した2日後である同月27日,コープP宛てに本件通知書を送付して本件告知行為を行った。その際,被告は,原告商品の商品名をインターネットで検索するなどして本件カタログ以外での販売状況を調べようとせず,また原告商品そのものを入手しておらず,また入手しようともしなかった(甲4)。


ウ 本件通知書の記載内容は,上記第2の1(4)イ記載のとおりであり,その要旨は,原告商品の販売が本件意匠権の侵害に当たることを断定した上でコープPに販売の停止を求めるとともに,製造元の開示を求めるものであった。なお原告は,本件告知行為前に,原告商品の製造元等を確かめようとしなかった(甲4)。


エ 原告は,その当時,原告商品をアマゾン,楽天のインターネットショップでも販売しており,同所では,原告商品は,本件カタログに記載されているものと同じ商品名で取り扱われていた(甲15,17)。


オ コープPの代理人弁理士は,同年2月9日,被告に対し,本件通知書に対する回答書を送付し,両意匠の四隅の丸みの形状及び貫通孔のスリットの有無を含む全体の形状の差異を理由に,原告意匠は本件意匠に類似せず,実物を確認すれば違いが理解できる旨の見解を示した。また,それとともに原告商品の製造者は原告商品の箱裏面に記載されている原告であること,原告商品はコープP以外でも広く流通していることを付言した(乙1の1,2)。


カ 被告は,同月29日,原告意匠は本件意匠に類似するものであり,原告商品の販売は意匠権侵害に当たることから,原告商品の製造,輸入及び販売の停止等を求める内容の「通知書」と題する書面を原告に対して送付したが,同書面における意匠の類否判断の理由は,同年1 月27日,コープP宛てに送付した本件通知書と全く同じものであった(甲21)。


(2) 知的財産権を有する者が,侵害行為を発見した場合に,その侵害行為の差止を求めて侵害警告をすることは,基本的に正当な権利行使であり,その侵害者が侵害品を製造者から仕入れて販売するだけの第2次侵害者の場合であっても同様である。


 しかし,侵害品を事業として自ら製造する第1次侵害者と異なり,これを仕入れて販売するだけの第2次侵害者は,当該侵害品の販売を中止することによる事業に及ぼす影響が大きくなければ,侵害警告を不当なものと考えても,紛争回避のために当該侵害品の仕入れをとりあえず中止する対応を採ることもあり,その場合,侵害警告が誤りであっても,第1次侵害者に対する販売の差止めが実現されたと同じ結果が生じてしまうから,こと第2次侵害者に対して侵害警告をする場合には,権利侵害であると判断し,さらに侵害警告することについてより一層の慎重さが求められるべきである。したがって,正当な権利行使の意図,目的であったとしても,権利侵害であることについて,十分な調査検討を行うことなく権利侵害と判断して侵害警告に及んだ場合には,必要な注意義務を怠ったものとして過失があるといわなければならない。

 以上により本件についてみるに,本件通知書の記載内容(上記第2の1(4)イ)からすると,被告は,コープPが本件意匠権の侵害者であるとしても,製造者ではなく仕入れて販売する第2次侵害者にすぎないことを認識していたと認められる。しかし,本件告知行為に至る経緯をみると,被告は,原告商品を本件カタログで発見するや実物を確認することなく本件意匠権の侵害品であると断定し,僅か2日後には,第1次侵害者である製造者を探索しようともせずに,製造者の取引先ともなるコープPに対し,権利侵害であることを断定した上で侵害警告に及んだというのである。

 すなわち,上記認定した本件告知行為に至る経緯において,被告が,警告内容が誤りであった場合に,製造者に及ぼす影響について配慮した様子は全く見受けられず,不用意に本件告知行為に及んだものといわなければならない。


 また,そもそも原告商品が本件意匠権の侵害品であるとの判断自体についてみても,本件については,本件告知行為を受けたコープPの代理人弁理士が,当裁判所と同様の判断内容で原告意匠と本件意匠が非類似である旨を短期間のうちに回答しているように,両意匠が意匠法的観点からは類似していないというべきことは比較的明らかなことといえるが(被告は,本件意匠の実施品が同種商品の存しない新種のアイデア商品であり,先行意匠が存しないことから,意匠権で保護されるべき範囲を過大に考えていたように思われる。),そうであるのに被告は,原告商品を発見して極く短期間のうちに意匠権侵害であると断定して侵害警告に及んだというのであるから,この点でも,侵害判断が誤りであった場合に製造者である原告の営業上の信用を害することになるおそれについて留意した様子が全くうかがえず,不用意に本件告知行為に及んだものといえる。


 以上のとおり,被告は原告商品の販売が本件意匠権の侵害であるとの事実を原告の取引先であるコープPに対して警告するに当たり,原告商品の販売が本件意匠権の侵害との判断が誤りであった場合,原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知となって,製造者である原告の営業上の信用を害することになることなどを留意することなく本件告知行為をしたものと推認すべきであり,意匠権の権利行使を目的として上記行為に及んだことを考慮しても,以上の事実関係のもとでは,そのような誤信がやむを得なかったとはいえないから,被告は,本件告知行為をするに当たって必要な注意義務を尽くしたとはいえず過失があったというべきである。

 したがって,被告は,本件告知行為により原告が受けた損害を賠償する責任がある。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。

●平成28(ワ)5104不正競争行為差止等請求事件 意匠権「シート」民事

 本日も、『平成28(ワ)5104 不正競争行為差止等請求事件 意匠権「シート」民事訴訟 平成29年6月15日 大阪地裁 』(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/860/086860_hanrei.pdf)について取り上げます。


 本件では、争点2(本件告知行為による不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争の成否)や争点3(原告の被告に対する虚偽事実の告知行為の差止請求は認められるか)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 森崎英二、裁判官 野上誠一、裁判官 大川潤子)は、

『2 争点2(本件告知行為による不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争の成否)について

(1) 上記1で検討したところによれば原告意匠は本件意匠と類似するものではないから,原告商品の販売は意匠権侵害にはならず,したがって本件通知書の記載内容は虚偽の事実であるということになる。

 そして,そのような事実は原告商品を製造販売する原告の営業上の信用を害する事実であるというべきところ,原告と被告は,ともに生活用品等を販売する競争関係にある事業者であるから,被告が原告の取引先であるコープPに対してした本件告知行為は,「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知」する行為といえ,原告に対する不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争に該当する。

(2) 被告は,コープPによる原告商品の販売は本件意匠権を侵害する行為であり,これに対する侵害の停止,予防を図るためにする本件告知行為は,知的財産権の権利行使の一環として行われたもので,実質的にも競業者の取引先に対する信用を毀損し当該取引先との取引ないし市場での競争において優位に立つことを目的としてなされたものではないから不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争に該当しないか,少なくとも違法性が阻却される旨主張する。


 しかしながら,不正競争防止法は,不正競争の行為類型を同法2条において主観的要件の要否を含め個別具体的に規定するとともに,同法3条に差止請求権の,同法4条に損害賠償請求権の発生要件を規定し,他方で同法19条において当該行為類型を充足して不正競争が成立しても差止請求,損害賠償請求等の規定を適用しない場合を具体的に定めているのであるから,同法2条に規定された不正競争の成否を判断するに当たり,条文にない主観的要件を解釈により加え,これにより要件該当性,違法性阻却を論じることは,不正競争防止法の趣旨に沿うものではないといえる。


 また被告の主張によれば,裁判手続において虚偽事実であると判断されたとしても,同法2条1項15号所定の不正競争であること自体が否定され得るというのだから,その場合,同法3条の他の要件が認められたとしても,そもそも不正競争でないとして将来の差止請求が認められないということになる。なお被告は,知的財産権の権利行使の一環として行われた侵害警告を不正競争とすることが,知的財産権の権利行使を委縮させかねない点も指摘するが,侵害警告の段階に留まるのであれば,これを知的財産権に基づく訴訟提起と同様に扱うことはできないし,また他方で,客観的には権利行使とはいえない侵害警告により営業上の信用を害された競業者の事後的救済の観点も十分に考慮されるべきである。

 したがって,被告の上記主張を採用することはできず,このような知的財産権の権利行使の一環であったとの主観的事情を含む被告が違法性阻却事由として主張する事実関係については,不正競争であることを肯定した上で,指摘に係る権利行使を委縮させるおそれに留意しつつ,そもそもの知的財産権侵害事案における侵害判断の困難性という点も考慮に入れて,同法4条所定の過失の判断に解消できる限度で考慮されるべきである。

3 争点3(原告の被告に対する虚偽事実の告知行為の差止請求は認められるか)について

 上記2で検討したとおり被告による本件告知行為は不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争に該当する。

 そして,本件において被告は,原告意匠が本件意匠に類似する旨争うとともに,コープPに対してした本件告知行為が被告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知であることも争っているから,同様の告知行為をするおそれが,なおあるものと認められる。

 原告は,上記虚偽事実の告知により営業上の信用を害されるおそれがあり,他方,被告は,上記虚偽事実の告知をするおそれがあるから,原告の被告に対する虚偽事実の告知の差止請求には理由がある。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。

●平成28(ワ)5104不正競争行為差止等請求事件 意匠権「シート」民事

 本日は、『平成28(ワ)5104 不正競争行為差止等請求事件 意匠権「シート」民事訴訟 平成29年6月15日 大阪地裁 』(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/860/086860_hanrei.pdf)について取り上げます。


 本件は、不正競争行為差止等請求事件で、意匠が類似せずと判断され、意匠権行使が不正競争行為と認容された事案です。


 本件では、まず、争点1(原告商品の販売は,本件意匠権の侵害にならないといえるか)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 森崎英二、裁判官 野上誠一、裁判官 大川潤子)は、

『1 争点1(原告商品の販売は,本件意匠権の侵害にならないといえるか)について
(1) 本件意匠と原告意匠の対比
 本件意匠と原告意匠とを対比すると,いずれも全体が,略長方形の「シート」であって,シートの一方の長辺の中間部を内側に湾曲させた「湾曲部」を形成し,略中央部に「貫通孔」を形成した態様のものであるという基本的構成態様において共通し,また具体的構成態様についても,?「シート」の長辺と短辺の比率は,約2:1になるように形成されている点(別紙対比表の?と?’),?「シート」の四隅に丸みを形成している点(別紙対比表の?と?’),?「シート」は,透明素材であり,透明色を基調とする点(別紙対比表の?と?’),?「湾曲部」の端縁の曲率半径は,「シート」の短辺の寸法の約1/2である点(別紙対比表の?と?’),?「湾曲部」が形成されている領域の「シート」の長辺方向の寸法は,「シート」の長辺全体の寸法の1/3以上1/2未満である点(別紙対比表の?と?’),?「貫通孔」は,円形に形成されている点(別紙対比表の?と?’)で共通している。

 他方で,具体的構成態様につき,?本件意匠は,「シート」の四隅の丸みの半径は,「シート」の短辺の寸法の1/7未満であるのに対し,原告意匠のそれは約1/3である点(別紙対比表の?と?’),?本件意匠の「シート」は無模様であるのに対し,原告意匠のそれは,散りばめられた小さな花柄を主体とする模様が表面に付されている点(別紙対比表の?と?’),?本件意匠では,貫通孔は,湾曲部と離間しているのに対し,原告意匠では,貫通孔は,「湾曲部」の中央部と細いスリットによって接続されている点(別紙対比表の?と?’)で相違している。

(2) 本件意匠の要部
登録意匠と対比すべき相手方の意匠とが類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う(意匠法24条2項)ものとされており,意匠を全体として観察することを要するが,その際には,意匠に係る物品の性質,用途及び使用態様,さらには公知意匠にはない新規な創作部分の存否その他の事情を参酌して,取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し,登録意匠と相手方意匠が,意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを観察すべきものである。
イ 本件意匠の要部について検討すると,本件意匠に係る物品は,その物品の説明によれば,柔軟性を有する合成樹脂製のシートであり,裏面を湿らせて手洗器付トイレタンクのボウルに密着させて取り付け,ボウルの表面への埃,水垢等の付着を防止することができる使い捨てシートであると認められる。そして,これに別紙意匠図面中の【使用状態を示す参考図】を参考にすると,その形状は,取り付ける先の一般的な長方形の手洗器付トイレタンクのボウルの形状に規定されているものということができるから,取引者・需要者は,その規定された形状を前提として,本件意匠につき,その形状がボウルの表面の埃,水垢等の付着し易い部分を十分カバーしているものであるか,その形状がボウルに密着して取り付け易いものであるか,さらには取り付け易くなるよう工夫が施されるかなどの点に注目するものと考えられる。

 したがって,取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分,すなわち要部は,基本的構成態様ではなく,具体的構成態様のうちでも,ボウルに装着した場合の使用状態を決めることになる,本件意匠の外周の形状,すなわち「シート」の四隅の丸みの半径の大きさの点や,ボウルの孔に対応する「シート」に設けられた貫通孔と湾曲部の形状及びその位置関係などの点であると認められる。

 この点,被告は,本件意匠の実施品は,手洗器付トイレタンクのボウルの表面への埃,水垢等の付着を防止するという課題を解決するアイデア商品であって,その当時,市場に同種の用途,機能を有する物品はなかったことから,本件意匠はパイオニア意匠であるとして,意匠に係る物品全体の形態,すなわち基本的構成態様そのものが要部であるように主張する。

 しかし,本件意匠の実施品が新品種の商品であって,その基本的構成態様が新規なものであったとしても,意匠に係る物品の説明に明らかなように,その物品の使用目的から,取引者・需要者は,その基本的構成態様が,取り付ける先のボウルの形状に規定されているものにすぎないことは容易に理解できるところであるから,本件意匠の基本的構成態様そのものをもって,最も注意を惹きやすい部分ということはできず,その点に要部があると認めることはできないから,被告の上記主張は採用できない。


(3) 本件意匠と原告意匠の類否
 以上により本件意匠と原告意匠の類否について検討すると,本件意匠と原告意匠の共通点は,いずれも本件意匠の要部にかかわらないものであるといえる。

 他方,シートの四隅の丸みの半径の大きさが異なること,本件意匠では貫通孔が湾曲部と離間して設けられているのに対し,原告意匠では湾曲部の中央部と細いスリットによって接続されるように設けられているという具体的構成態様における差異点は,いずれも本件意匠の要部にかかわるものであり,とりわけ後者のスリットを設けられている点は,本件意匠に類似する要素はなく,シートをボウルに取り付ける際に,シートをボウルの湾曲形状に密着させるための微調整を容易にさせる工夫として取引者・需要者の注意を強く惹くものということができる。

 そうすると,本件意匠が無模様であり原告意匠に模様が施されているという差異点を捨象したとしても,両意匠を全体として観察した場合,看者に対して異なる美感を起こさせるものと認められるから,原告意匠は本件意匠に類似していないということができる。


(4) 利用関係について

 被告は,原告意匠は本件意匠と利用関係にあり,原告商品の販売等は本件意匠権を侵害するものと主張する。

 しかし,上記(3)に説示したとおり,原告意匠は,要部に係る具体的構成態様において本件意匠と大きく異なる構成となっており,それによって全体として本件意匠とは異なる美感を起こさせているものであるから,原告意匠が本件意匠に係る構成態様全てをその特徴を破壊することなく包含しているとは認められない。
 したがって,原告意匠は本件意匠と利用関係にあるとして,利用による侵害をいう被告の主張は失当である。』

 と判示されました。

新品種の商品の類似判断および利用関係について判断等が参考になります。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。

●平成29(行ケ)10048審決取消請求事件 意匠権「建築扉用把手」行政

 本日も、『平成29(行ケ)10048 審決取消請求事件 意匠権「建築扉用把手」行政訴訟 平成29年9月27日 知財高裁 』(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/109/087109_hanrei.pdf)について取り上げます。

 本件では、取消事由1(手続違背)についての判断も参考になるかと思います。

 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 清水節、裁判官 中島基至、裁判官 岡田慎吾)は

『1 取消事由1(手続違背)について
原告は,審決に至るまでの間,職権証拠調べをした参考意匠1及び2の存在を一切知らされていなかったため,反論や反証の機会を与えられることはなかったのであるから,その結果を通知するなどして原告に対し意見を申し立てる機会を与えずにされた証拠調べは,意匠法52条の準用する特許法150条5項に違反するなどと主張する。

 しかしながら,審決が引用した参考意匠1及び2は,本件事実が周知であることを示すものとして例示されているにすぎず,参考意匠1及び2を職権で取り調べたことによって,本件事実が認定されたものではない。かえって,乙1ないし6記載の各製品が原告の製品であり,当該各製品に係る各意匠が公知意匠であることについては当事者間に争いがないのであるから(第2回口頭弁論期日調書参照),上記各公知意匠によれば,参考意匠1及び2を例示されるまでもなく,横長棒状で底面が平坦面状であって側面中間部が凹んでいる建築扉用の把手は,原告自身においても周知であったことが認められる。実質的にみても,本件事実に係る認定の当否については,原告が平成28年6月30日付け審判請求書(甲4)において,「需要者にとって建築扉用の把手の形状は,建築扉との間に指を差し込める程度の隙間を有している細長い棒状であると一般的に認識されている」として,本件意匠の要部を認定した上で,本件意匠と甲1意匠が類似すると主張したのに対し,被告は,同年8月29日付け審判事件答弁書(甲5)において,全体を棒状体にする点は建築用扉の把手においてありふれた形態であるなどと反論し,さらに,原告は,同年10月14日付け弁駁書(甲7)においてこれに対する再反論をしているのであるから,これらの主張の経緯に照らしても,原告には反論の機会が与えられていたのであり,原告に実質的な不利益は生じなかったものと認められる。

 以上の事情によれば,審判における証拠調べは,意匠法52条の準用する特許法150条5項に違反するということはできない。

 したがって,原告の主張は,採用することができない。』

  と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。

●平成29(行ケ)10048審決取消請求事件 意匠権「建築扉用把手」行政

 本日は、『平成29(行ケ)10048 審決取消請求事件 意匠権「建築扉用把手」行政訴訟 平成29年9月27日 知財高裁 』(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/109/087109_hanrei.pdf)について取り上げます。


 本件は、意匠登録無効審判事件の棄却審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却がされた事案です。


 本件では、取消事由2(類否判断の誤り)及び本件意匠の要部認定の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 清水節、裁判官 中島基至、裁判官 岡田慎吾)は、

「2 取消事由2(類否判断の誤り)について
(1) 本件意匠の類否等について

ア 意匠の類否の判断基準
 登録意匠と対比すべき相手方の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとされている(意匠法24条2項)。この場合には,意匠を全体として観察するとともに,意匠に係る物品の性質,用途及び使用態様並びに公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して,取引者,需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し,登録意匠と相手方意匠とが,意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを重視して,美感の共通性の有無に基づき判断するのが相当である。

イ 本件意匠の要部
 本件意匠に係る物品は,建物の扉に使用される把手であり,把手は,使用者が把持して扉を開閉するという機能を有するほか,それ全体が建物の扉の美感にも大きく影響を及ぼすものである。現に,取引時に用いられる建物扉用の把手のカタログにおいては,建物の扉に接合される把手の底面部を除き,建物の扉に取り付けられた把手全体の写真が製品画像として掲載されている(甲2,乙1ないし6)。

 乙1ないし6記載の各製品が原告の製品であり,当該各製品に係る各意匠が公知意匠であることについては当事者間に争いがない(第2回口頭弁論期日調書参照)。そして,参考意匠1及び2並びに上記各意匠によれば,横長棒状で底面が平坦面状であって側面中間部が凹んでいる建築扉用の把手は,原告はもとより,取引者,需要者にとって周知なものであったと認めるのが相当である(乙1ないし6)。

 上記認定事実によれば,取引時に用いられる建物用扉の把手に係る意匠については,取引の実情を踏まえると,建物の扉に取り付けられた底面部を除き,把手全体の外観が最も重視されるものといえる。また,把手を利用する者は,扉を開ける際に側面中間部の凹みを掴むことになるから,側面中間部の凹み周辺の形態も取引者,需要者の注意を惹く部分であるといえる。そして,本件意匠のうち,横長棒状で底面が平坦面状であって側面中間部が凹んでいるという基本的構成態様は,取引者,需要者にとって周知であったことが認められる。

 これらの事情の下においては,取引者,需要者の最も注意を惹きやすい部分は,横長棒状の全体形状及び側面中間部の凹み周辺の形態であるというべきである。

 したがって,本件意匠の要部は,正面の外形状が左右対称の略扁平台形状であることに加えて,側面中央部の凹みの左右縁が略凹弧状に表されている形態であると認めるのが相当である。

ウ 本件意匠と甲1意匠の類否
 横長棒状の全体形状については,正面から見て,本件意匠が左右対称の略扁平台形状であるのに対し,甲1意匠は左右非対称の略扁平行四辺形状であり,とりわけ,その左端部上部が略逆コ字状に突出している。そのため,取引者,需要者にとって,本件意匠及び甲1意匠は,全体として美感に大きな差異があることが認められる。

 また,側面中間部の凹み周辺の形態については,本件意匠では,凹みの左右縁は略凹弧状に表されているのに対し,甲1意匠では,凹みの上部が鋭く屈曲して,下部が緩やかな略S字状に表されており,甲1意匠の凹み周辺の厚みが本件意匠に比べて薄くなっている。そのため,把手の使用感を大きく左右する部分についても,美感に一定の差異があることが認められる。

 上記認定事実によれば,本件意匠と甲1意匠とは,要部である正面の外形上の全体形状の美感に大きな差異があるとともに,使用感を左右する凹み周辺の形態の美感にまで一定の差異があることからすると,基本的構成態様が類似していることを考慮しても,両意匠を全体として観察した際に異なる美感を起こさせるものといえる。

 したがって,両意匠が類似するものと認めることはできない。

(2) 原告の主張について
ア 原告は,参考意匠1及び2は,一見したのみでは作成の真正や公開日が明らかでなく,本件事実を認めることはできないなどと主張する。

 確かに,参考意匠1及び2は,公開日が不明である上,斜視図が各1つずつ掲載されるにとどまるため,具体的な構成態様は必ずしも明らかではない。しかしながら,参考意匠1及び2に加えて,原告自身の製品である乙1ないし6記載の合計6つの建築用ドアハンドルも,全体が略横長棒体で底面が平坦面状であり,側面から見て中間部が凹んでいるものであることからすれば,本件事実を前提とした審決の判断には誤りがないというべきである。

 したがって,原告の主張は,採用することができない。

イ 原告は,取引者,需要者は把持する部分の周辺の形態に最も注目するから,必然的に端の部分に対する注意は薄くなることを前提として,把持する部分の周辺の形態は,?一端側又は他端側から見ると,両側面の湾曲した窪みを境にして,扉に固定する側において脚が曲線状の略台形状を有しており,使用者が把持する側が細長い円形状を有し,?扉に固定する略台形状の脚の縦幅及び横幅が,細長い円形状の把持部におけるそれらよりも,それぞれ長いという点において,本件意匠と甲1意匠との間で共通するから,参考意匠1及び2を公知意匠として参酌したとしても,上記の共通点は,本件意匠と甲1意匠の類否判断の結論に影響を及ぼすことになるなどと主張する。

 しかしながら,上記把持する部分の周辺の形態をみても,本件意匠と甲1意匠では一定の異なる美感を与えることは,上記(1)ウで説示したとおりである。のみならず,把手は,扉を開けるという機能を有するほか,それ全体が建物の扉の美感にも大きく影響を及ぼすものである。現に,建物扉用の把手のカタログには底面部を除く把手全体の写真が掲載されているという取引の実情を踏まえると,建物扉用の把手については,その底面部を除き,全体の外観が最も重視されるものといえる。

 したがって,原告の主張は,その前提を欠くものであり,採用することができない。

ウ 原告は,本件意匠と甲1意匠に係る物品は建築扉用の把手であり,使用者は,把持した場合の使用感を重視するため,把持する部分の周辺の形態に注目するから,必然的に端の部分に対する注意は薄くなり,端まで観察することによって初めて認識できる審決認定に係る差異点によって,両意匠が非類似になることはないなどと主張する。

 しかしながら,前記イのとおり,把手は,扉を開けるという機能を有するほか,それ全体が建物の扉の美感にも大きく影響を及ぼすものであるから,底面部を除き端の部分も含めた把手全体の外観が最も重視されるというべきである。

 したがって,原告の主張は,採用することができない。

(3) 小括

 以上のとおり,本件意匠が甲1意匠と類似しないとした審決の結論に誤りは認められず,そのほか,原告の縷々主張するところは,いずれも実質的には本件事実の認定の誤りをいうものに帰し,上記判断を左右するものとは認められない。

第6 結論
よって,取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。

●平成29(行ケ)10080  審決取消請求事件 商標権「レッドブル」行政

 本日は、『平成29(行ケ)10080  審決取消請求事件 商標権「レッドブル行政訴訟  平成29年12月25日 知財高裁』(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/364/087364_hanrei.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標登録無効審判事件の棄却審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が認められた事案です。


 本件では商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 清水 節、裁判官 中島基至、裁判官 岡田慎吾)は、

「1 取消事由1(商標法4条1項15号該当性判断の誤り)について
原告は,本件商標が商標法4条1項15号に該当しないとした審決の認定判断は誤りであると主張するので,以下,検討する。

(1) 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」は,当該商標をその指定商品等に使用したときに,当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ,すなわち,いわゆる広義の混同を生ずるおそれがある商標をも包含するものであり,同号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の関連性の程度,取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。


(2) 本件商標と引用商標との対比
 審決は,本件商標の構成について,前記第2の2(2)イのとおり認定した上で,引用商標と対比し,両者は,背景図形の前に左向きで描かれ,前脚を内向きに,後脚を突き出して,尾を略S字状になびかせた赤色の雄牛の図形を描いてなる点において共通するものであるけれども,両者は,背景図形において,グラデーションが施された薄茶色の盾状の図形と黄色の円図形との違いがあり,雄牛は,本件商標においては背景の盾状図形の中央部分にバランスよく配置されているのに対して,引用商標のそれは,頭部が円図形の中に配置され胴体は円図形の外に配置されており,背景の円図形と雄牛の配置上のバランスを欠くものであり,さらに,全体の姿勢において,本件商標の雄牛は左上方に跳躍している姿勢であるのに対して,引用商標の雄牛は上半身をやや持ち上げた状態で,前方へ突進する姿勢を表してなるものであって,両者は,背景図形と雄牛の配置上のバランスの違い,雄牛が縁取りを有する点とシルエットである点の違い,雄牛の姿勢が左上方に跳躍している状態と左前方へ突進する状態との違いがあることから,両者は,外観上,その印象を異にするものであって,外観において類似するとはいえないというべきであるし,両者は,称呼及び観念上においても類似するとはいえないものであり,その類似性の程度は低いものである旨判断した。これに対し,原告は,本件商標と引用商標とは,雄牛の特徴的な姿勢等が共通しており,審決の認定した上記差異については,些細な点であり,また,取引の実情等を考慮すると,両者の類似性は高いなどと主張する。

ア 本件商標と引用商標の構成
(ア) 本件商標の構成
 本件商標は,前記第2の1(1)のとおりの図柄であり,グラデーションが施された薄茶色の盾状の図形を背景にして,当該盾状図形の中央部分に,左向きの,黒の縁取りを有する赤色の雄牛の図形を描き,当該雄牛は,背を丸め,2本の角を描き,顔と顎を含む頭の部分を前向きにして,両前脚は内向きに軽く曲げ,両後脚は後方に突き出して,尾を略S字状になびかせ,全体として左上方に跳躍している姿勢を表しているとの構成からなるものであって,本件商標の基本的な構成は,概ね,審決が認定したとおりであるといえる。そして,本件商標からは,具体的に描かれた牛の形態に相応して,「跳躍する赤い雄牛」との観念が生じるものと認められるものの,特定の称呼が生じるものとは認められない。

(イ) 引用商標の構成
 引用商標は,前記第2の2(1)アのとおりの図柄であり,黄色い円図形内の右下部分に頭部を配置し,胴体を同円図形の外に配置した,左向きの赤色の雄牛の図形をシルエットで描き,当該雄牛は,背を「く」の字状に曲げ,顎を引いて頭部を低くし,2本の角を前方に突き出し,両前脚は円図形の縁部分に接して,胸元に掻き込むように内向きに曲げ,両後脚は円図形の下側になるように後方に突き出すように配置され,尾を略S字状になびかせ,全体として上半身をやや持ち上げた状態で,前方へ突進するような姿勢を表しているとの構成からなるものであって,引用商標の基本的な構成は,概ね,審決が認定したとおりであるといえる。そして,引用商標からは,具体的に描かれた牛の形態に相応して,「突進する赤い雄牛」との観念が生じるものと認められるものの,特定の称呼が生じるものとは認められない。
イ 本件商標と引用商標との異同
 本件商標と引用商標とは,黄色系暖色調の無地の背景図形の前に,2本の角を突き出し,前脚を内向きに曲げ,後脚を突き出して,尾を略S字状になびかせた左向きの赤色の雄牛の図形という基本的構成において共通するものである。ただし,本件商標と引用商標とを直接対比した場合,背景図形が,本件商標ではグラデーションが施された薄茶色の盾状の図形であるのに対して,引用商標では黄色の円図形である点,雄牛が,本件商標においては背景の盾状図形の中央部分にほぼ全体が配置されているのに対して,引用商標のそれは,頭部が円図形の中に配置され胴体は円図形の外に配置されている点,さらに,全体の姿勢において,本件商標の雄牛は縁取りされ左上方に跳躍している姿勢であるのに対して,引用商標の雄牛はシルエットで上半身をやや持ち上げた状態で,前方へ突進する姿勢を表している点で,それぞれ差異を有することが認められる。

 しかしながら,直接対比した場合の上記視覚上の各差異を考慮しても,本件商標及び引用商標の全体的な構図をみると,本件商標と引用商標とは,いずれも,黄色系暖色調の無地の背景図形の前に,左向きに描かれて角を突き出した赤色の躍動感のある姿勢をした雄牛の図形が配置されるなどの基本的構成をほぼ共通にしており,さらに,雄牛自体の図形の構成上,上記のような様々な一致点を有していることに照らすと,外観上,互いに紛れやすいものというべきである。しかも,本件商標からは跳躍する赤い雄牛との観念が生じ,引用商標からも突進する赤い雄牛との観念が生じるから,本件商標と引用商標は,観念においても,ほぼ同一(又は類似)であるといえる。

 したがって,本件商標は,引用商標と比較的高い類似性を示すものであるということができる。

(3) 引用商標の周知著名性
 ・・・
(4) 引用商標の独創性について
 ・・・
(5) 本件商標の指定商品と引用商標に係る商品
 ・・・
(6) 取引者及び需要者の共通性その他取引の実情について
 ・・・
(7) 混同を生ずるおそれについて
 本件商標と引用商標は,全体的な構図として,黄色系暖色調の無地の背景図形の前に,左向きに描かれて角を突き出した赤色の躍動感のある姿勢をした雄牛の図形が配置されるなどの基本的構成を共通にするものであり,本件商標が使用される商品である自動車用品関連商品等の商品の主たる需要者が,商標やブランドについて正確又は詳細な知識を持たない者を含む一般の消費者を含み,商品の購入に際して払われる注意力はさほど高いものとはいえないことなどの実情や,引用商標が高度の独創性を有するとまではいえないものの我が国において高い周知著名性を有していることなどを考慮すると,本件商標が,指定商品に使用された場合には,これに接した需要者(一般消費者)は,それが引用商標と基本的構成が類似する図形であることに着目し,本件商標における細部の形状などの差異に気付かないおそれがあるといい得る。


 また,引用商標は,自動車関連の分野においても,レッドブル社の商品等を表示するものとして,取引者,需要者の間において著名であり,引用商標をその構成とする使用商標について,多数のライセンスが付与され,自動車関連商品等の多様な商品について引用商標を含む使用商標が付されて販売されているところ,本件商標の指定商品には,引用商標の著名性が取引者,需要者に認識されている自動車関連の商品を含むものといえるのであるから,本件商標をその指定商品に使用した場合には,これに接する取引者,需要者は,著名商標である引用商標を連想,想起して,当該商品がレッドブル社又は同社との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品であると誤信するおそれがあるものというべきである。

 したがって,本件商標は,商標法4条1項15号に該当するものとして商標登録を受けることができないというべきであるから,これと異なり,本件商標が同号に該当しないとした審決の判断には誤りがあるといわざるを得ない。

(8) 被告の主張について
ア 被告は,本件商標と引用商標とは,牛の体勢,色彩の差異及び牛以外の構成物の差異により,その印象が明らかに異なるから,外観において容易に区別し得るものであり,いずれも特定の称呼及び観念を生じないものであるから,相紛れることのない非類似の商標である旨主張する。

 確かに,本件商標と引用商標とを直接対比すると,前記(2)イのとおり,具体的な構成においていくつかの相違点が認められるものである。

しかしながら,引用商標が高い著名性を有していたことや,本件商標と引用商標からはほぼ同一の観念が生じることなどに照らせば,被告が指摘するような具体的構成における外観上の差異が存在するとしても,引用商標と基本的構成が共通すると認められる本件商標を自動車用品関連の商品を含む本件商標の指定商品に付して使用した場合には,これに接する取引者,需要者において,当該商品がレッドブル社又は同社との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品であると誤信するおそれがあるものというべきである。
 また,本件商標には,外観上,具体的な構成において引用商標と相違する点があるとしても,その基本的構成が引用商標と比較的類似性の高いものであるから,一般の消費者の注意力などを考慮すると,出所の混同を生ずるおそれがあることは前記(6)のとおりである。

 なお,商標法4条1項15号該当性の判断は,当該商標をその指定商品等に使用したときに,当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれが存するかどうかを問題とするものであって,当該商標が他人の商標等に類似するかどうかは,上記判断における考慮要素の一つにすぎないものである。被告が主張するような外観上の差異が存在するとしても,それらの点が,本件商標の構成において格別の出所識別機能を発揮するとはいえないし,単に本件商標と引用商標の外観上の類否のみによって,混同を生じるおそれがあるか否かを判断することはできない。

 したがって,被告の上記主張は採用することができない。

イ 被告は,原告が主張する,ブランドランキングや広告費,エナジードリンクの市場シェア,売上本数等は,主として使用商標1及びレッドブル文字商標に係るものであって,引用商標である使用商標2の周知性を立証するものではなく,引用商標の周知性を把握することができないし,レーシングカーの側面,ヘルメットの側面及びゴーグルの側面等に表示されている引用商標は,視覚効果を狙ってデザインされた結果のものであり,レッドブル社がスポンサーとなっていることを表わすロゴにとどまるから,引用商標が,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,特定の商品ないし役務について,我が国の取引者,需要者の間で広く認識されて著名になっていたと認めることはできない旨主張する。

 しかしながら,引用商標(使用商標2)に接した需要者は,引用商標が,著名なものと認められる使用商標1の構成部分であると容易に認識できるものと推測されることに加え,レッドブルレーシングのレーシングカーやヘルメット等に引用商標(使用商標2)が表示されるなど,引用商標(使用商標2)も使用商標1とは独立して使用されていることは,前記(3)キ認定のとおりである。

 そうすると,引用商標(使用商標2)についても,レッドブル社の業務に係るエナジードリンク(飲料)の商品分野のみならず,自動車関連の分野において,レッドブル社に係る商品等を表示する商標として,本件商標の登録出願時及び登録査定時に,その取引者,需要者の間に広く認識されており,その著名性は高いものと認められる。

 また,レッドブル社が,使用商標について,多数のライセンスを付与し,自動車関連商品等の多様な商品について引用商標を含む使用商標が付されて販売されていることなどを考慮すると,被告がいうように,レーシングカーやヘルメットの側面等に表示されている引用商標が,直ちに,自動車レース又はレーシングカーのスポンサーであることのみを表わすロゴにとどまるものであるということもできない。

 なお,商標法4条1項15号は,出所の混同を生じるおそれのある商標の登録を阻止する趣旨の規定であると解されるところ,同号の「他人の業務に係る商品又は役務」とは,必ずしも他人が現実に行っている業務に限られるものではないから,レッドブル社が,現実に,「自動車レースの企画・運営」等の役務や自動車等の製造,販売の業務を行っているか否かは,同号の適用の有無を左右するものではないといえる。

 したがって,被告の上記主張は採用することができない。

ウ 被告は,本件商標の指定商品と引用商標の使用に係る商品(グローブ,ヘルメット,ステッカー等)は,生産部門,販売部門,原材料及び用途のいずれも異なる非類似の商品であり,取引者及び需要者も共通しないから,本件商標は,被告がこれをその指定商品について使用しても,取引者,需要者をして引用商標(使用商標2)を想起又は連想させることはなく,その商品の出所について混同を生じるおそれはないものである旨主張する。

 しかしながら,本件商標の指定商品には,日常的に消費される性質の自動車用品関連の商品が含まれ,その需要者は自動車愛好家を始めとした自動車所有者等の一般の消費者であるといえるから,引用商標が現に使用されている分野の商品等とは,共に自動車に関するものとして関連性を有し,需要者を共通にするものであるといえることは前記認定のとおりである。被告が現に具体的に販売している指定商品に係る商品(甲138〜140)と,引用商標が使用されている商品の取引者が異なるからといって,需要者の共通性が否定されることにはならない。

 また,本件商標の指定商品を購入する者が特別の知識を有しない一般の消費者を含むことを考慮すると,需要者全体の注意力が高いと直ちに認めることはできないのであって,本件商標と引用商標とを直接対比した場合に外観上の印象を異にすると考えられる差異についても,需要者の注意が向けられないままに商品の選択,購入がされる場合が少なくないものと考えられる。そして,本件商標は,その全体的な基本的構成が引用商標と類似していることから,外観において引用商標と相紛れる場合が見受けられるのは前記(6)認定のとおりである。

 そして,レッドブル社がライセンス事業等を幅広く行っていることなども考慮すると,いわゆる広義の混同が生じるおそれがあると認めるのが相当である。

 したがって,被告の上記主張は採用することができない。

2 小括
 以上によれば,本件商標が商標法4条1項15号に該当しない旨の審決の判断は誤りであり,原告が主張する取消事由1は理由がある。

 第6 結論
 以上のとおり,原告主張の取消事由1は理由があり,その余の取消事由について判断するまでもなく,原告の請求は理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。』

 と判示されました。

なお、本判決の中で引用されている最高裁判決は、商標法4条1項15号の「広義の混同」の意について判示した最高裁判決である『平成10(行ヒ)85 審決取消請求事件 商標権「レールデュタン」 平成12年07月11日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319120629363392.pdf

であります。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。

●平成29(行ケ)10099 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ホモロガス

 本日も、『平成29(行ケ)10099 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ホモロガス薄膜を活性層として用いる透明薄膜電界効果型トランジスタ」平成29年12月7日 知財高裁(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/329/087329_hanrei.pdf)』について取り上げます。


 本件では、取消事由3(サポート要件に関する判断の誤り)についての判断も参考になるかと思います。

 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 森義之、裁判官 永田早苗、裁判官 古庄研)は、

「4 取消事由3(サポート要件に関する判断の誤り)について
(1) 本件明細書にアモルファスの本件発明が課題1及び課題2を解決することが記載されていない旨の主張(第3の3(1)及び(2))について

イ(ア) 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁平成17年(行ケ)第10042号・同年11月11日判決参照)。

(イ) 本件発明の課題は,本件明細書によると,まず,可視光に対して透明な電界効果型トランジスタを提供することにつき,透明酸化物半導体であるZnOの欠点を改善し,電気伝導度を下げて,ノーマリーオフの電界効果型トランジスタを構成すること(課題1),及び,大面積に適したトランジスタを作製すること(課題2)であると認められる(【0001】,【0004】)。

 本件明細書の【0025】には,本件化合物の単結晶薄膜が課題1を解決することが記載されている。本件明細書には,大面積の電界効果型トランジスタには,従来,アモルファスシリコンが用いられていた(【0002】)ところ,本件化合物のアモルファス薄膜を活性層として用いた電界効果型トランジスタは,シリコンアモルファス電界効果型トランジスタに比較して,可視光透過率が高く,光照射に対して安定に動作し,高速動作することが期待できる(【0014】)ことが記載されている。

 したがって,本件化合物のアモルファス薄膜を活性層に用いて,大面積に適したトランジスタを作製することができることが記載されているといえ,本件化合物のアモルファス薄膜が課題2を解決することが記載されている。

 よって,本件発明1,2及び4は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり,発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。


(ウ) 原告の主張に対する判断
a 原告は,一つの特許請求の範囲によって画されている発明は,共通する課題を解決し得るものでなければならないところ,本件明細書にはアモルファスの本件発明が課題1を解決することが記載されておらず,サポート要件を欠く,と主張する。

 しかし,一つの特許請求の範囲によって画されている発明であるからといって共通する課題を解決し得るものでなければならないということはなく,そのように解することが,発明の単一性(特許法37条)に反するものではない。したがって,原告の主張は,失当である。


b 原告は,本件明細書には,アモルファスの本件発明が課題2を解決できることが記載されていない,と主張する。
しかし,前記(イ)のとおり,アモルファスの本件発明が課題2を解決できることが本件明細書に記載されている。したがって,原告の主張には,理由がない。

(2) 本件明細書に多結晶等の場合に課題1及び課題2を解決できることが記載されていない旨の主張について
ア 原告は,多結晶等の本件発明が課題1及び課題2を解決できることが記載されていないから,サポート要件を欠く,と主張する。
イ 本件審判における原告の無効理由6の主張は,前記第2の3(8)ア(ア)のとおりである。本件明細書に,本件化合物の多結晶等薄膜が本件発明の課題を解決することが記載されていないことが,サポート要件を欠くというべきか否かについては,本件審判においては現実に争われたものではなく,審理判断されたものではない。

ウ これに対して,原告は,本件訂正により,本件化合物についてアモルファスの場合とそれ以外の場合とで取扱いが異なることが,特許請求の範囲の記載上明らかとなったことを受けて,上記の本件化合物の多結晶等薄膜の主張に至ったものであるから,失当とはいえない,と主張する。

 しかし,本件特許の特許請求の範囲請求項1には,本件訂正の前後を通じて多結晶等を除く旨の記載はなく,本件明細書の【0020】には,得られた薄膜が多結晶膜でもよい旨が記載されているから,本件化合物の多結晶等薄膜に関する主張が,本件訂正後に初めて可能となったとはいえない。したがって,原告の主張は,その前提を欠き,失当である。

(3) 以上より,取消事由3には,理由がない。

5 なお,本件訴訟において,当初,原告は,本件審決において,原告が争ったにもかかわらず(甲44),本件訂正に関する被告の手続補正書について原告に反論の機会が与えられず,特許法127条違反の有無について判断が示されなかったことを理由として,特許法127条の承諾の有無に関する判断の遺脱及び判断誤り,並びに,適正手続違背を,本件審決の取消事由として主張していたが,当裁判所において審理を尽くした結果,上記取消事由は撤回されたものである。

第6 結論

 よって,原告の請求には理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。』

 と判示されました。


 なお、本件中で引用している知財高裁事件は、知財高裁大合議事件である

●『平成17年(行ケ)第10042号 特許取消決定取消請求事件「偏光フィルムの製造法」平成17年11月11日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/286/009286_hanrei.pdf

 であります。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。